クッシング症候群ではコルチゾールというホルモンが過剰に分泌され、外見の変化をはじめさまざまな症状が現れます。クッシング症候群の原因は主に3種類に分けられ、治療法がそれぞれ異なります。手術によって完治を目指せるケースもありますが、継続的な治療が必要となる場合もあります。今回は、国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科 診療科長 兼 内分泌・副腎腫瘍センター長の田辺 晶代先生に、クッシング症候群の治療についてお話を伺いました。
クッシング症候群では、コルチゾールが増えている原因によってそれぞれ治療法が異なります。基本的にはACTHあるいはコルチゾールを過剰に産生している腫瘍の切除で完治が見込めますが、腫瘍が小さく場所が分からない場合や切除が難しい場合には薬物療法などの治療を検討します。以下では、原因ごとの治療法について詳しく解説します。
副腎にコルチゾール産生腫瘍ができている場合(副腎性クッシング症候群)は、基本的に腹腔鏡下手術を行います。副腎は3~4cm程度の小さな臓器で腫瘍のみを切除することが難しいため、手術では腫瘍のある副腎全部を摘出します。副腎は片方だけでも十分な量のコルチゾールを産生できるため、もう片方は摘出しても問題ありません。副腎を摘出することができれば、ほとんどの場合で完治が見込めます。
なお、極めてまれな例ではありますが、両側の副腎に腫瘍が発生しているケースや腫瘍が悪性のケースもあり、その場合は患者さんの状態に応じて治療法(手術や薬物療法など)を検討します。
脳下垂体にACTH産生腫瘍ができているケース(クッシング病)は、基本的に手術を行います。副腎と違って脳下垂体は1つしかありませんので、手術では腫瘍のみを摘出します。
脳下垂体は頭蓋骨の底(鼻の付け根の奥)にある1cmほどの器官で、ACTH以外にもさまざまなホルモンが産生されています。それらのホルモン分泌に影響を及ぼさないよう、手術では慎重に腫瘍を取り除かなければなりません。当院では間脳下垂体の手術を得意とする脳神経外科と連携し、基本的に“内視鏡下経鼻的下垂体手術(鼻の穴から内視鏡を挿入して行う手術)”による治療を推奨しています。内視鏡を用いることで開頭手術よりも周囲の組織への影響を軽減できます。
なお、完治を目指すには手術で腫瘍を取り切ることが大前提ではあるものの、腫瘍の場所によっては脳下垂体への影響を考慮し、一部だけ切除するケースもあります。この場合、ガンマナイフによる放射線治療や、ACTHの産生を抑える薬による薬物療法を追加で行います。
脳下垂体以外の場所に腫瘍が発生している場合(異所性ACTH症候群)は、原因となっている腫瘍の種類によって治療方法が異なります。異所性ACTH症候群を発症し得る腫瘍はさまざまですが、多いのは肺がん(小細胞肺がん)です。小細胞肺がんの中にはACTHを産生する性質のものがあり、結果としてクッシング症候群を発症します。この場合、基本的に大元の原因となっているがんの治療(抗がん薬による治療や手術など)が行われます。
良性腫瘍であれば腫瘍を摘出することで完治が見込める可能性もありますが、がんに比べてサイズが小さく、検査をしても腫瘍の場所が特定できないケースも多いです。そのようなときにはコルチゾールの産生を抑える薬を継続的に投与しながら経過観察を行います。
クッシング症候群の方は感染症にかかりやすい傾向にあるため(易感染性)、手術を受けたとしても完治するまでは注意が必要です。蚊に刺されただけでも蜂窩織炎という皮膚の感染症にかかって炎症が広がったり、インフルエンザにかかった場合は重症化したりすることもあるため、手洗いの徹底やマスクの着用など感染対策は十分にしていただきたいと思います。異変を感じたらすぐに主治医にご相談ください。
クッシング症候群の多くは手術によって完治が見込める病気ではありますが、術後は一定期間の服薬が必要となります。腫瘍がコルチゾールやACTHを産生していることで、それのみで体内のホルモン量が充足し、本来のホルモン分泌機能は休止状態になります。この状態で腫瘍を摘出すると生命維持に必要なホルモン量が足りなくなってしまうため、本来の分泌機能が回復するまで内服薬でホルモンを補充しなければなりません(ホルモン補充療法)。
分泌機能は時間をかけて少しずつ回復していくため、コルチゾールやACTHの値を測定しながら徐々に減薬していきます。機能が十分になるまでの期間は、おおよそ1年~1年半ほどです。コルチゾールやACTHが適切に作られていることが確認できたら内服は終了します。
なお、内服薬の量が適切でないと体内のコルチゾールが不足し、吐き気や倦怠感などの症状が現れます。また、極端に不足している場合には血圧が維持できなくなり、ショック状態に陥ることもあります。ホルモン補充療法を行っている間は体調の変化に特に気を付けていただき、少しでも不調を感じる場合にはすぐに病院へ連絡するようにしてください。
クッシング症候群には糖尿病や高血圧症、骨粗鬆症(骨密度の低下)などの合併症が伴います。手術で腫瘍を摘出すると高血圧症や糖尿病は改善が見込めますが、骨密度の回復にはこれらの合併症よりも時間がかかります。そのため、骨粗鬆症を合併している場合には、手術後も継続して治療を行います。なお、高血圧症や糖尿病などは手術成績に影響を与える可能性があるため、手術前から治療を開始します。
クッシング症候群の症状として、顔や体形などの見た目の変化が挙げられます。女性の患者さんが多く、ショックを受けられる方もいるかもしれませんが、外見的な症状はほとんどの場合で手術後だんだんと元に戻っていきます。改善までにかかる期間は患者さんによって異なりますが、中には治療から半年経ったころには治療前のご本人とは別人のように外見の症状が回復した患者さんもいらっしゃいました。
クッシング症候群は適切な治療を受ければ完治が望める病気です。主治医の先生としっかり相談しながら検査、治療を進めていただきたいと思います。
国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科診療科長、第二内分泌代謝科医長、内分泌・副腎腫瘍センター長
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