腎臓の炎症・機能異常によって尿タンパクが多量に出ることで、体にいろいろな不調が起こるネフローゼ症候群。その分類や症状、原因については記事1『ネフローゼ症候群の症状について - むくみや尿の泡立ちがサイン?』でご紹介しました。ネフローゼ症候群は進行すると腎不全に陥ることがあるため、早期に検査と治療を行うことが大切です。ネフローゼ症候群の検査や治療について、熊本大学大学院生命科学研究部・腎臓内科学分野教授の向山政志(むこうやままさし)先生にお話を伺いました。
ネフローゼ症候群は一次性、二次性の判断が難しいケースがあり、一次性でもどの疾患によるのか、あるいは重症度の判定が容易でない場合が多いため、腎生検(腎臓の組織の一部を針で採取し、顕微鏡で調べる検査)によって検査を行います。(一次性、二次性の違いについては記事1をご参照ください)
腎生検では1週間ほどの入院が必要となります。腎生検の結果によって、治療に用いる薬剤の種類と量、投薬期間、免疫抑制剤の使用の有無などを含めた治療方針を決定します。
ネフローゼ症候群の病型によって治療は異なりますが、一次性の場合、どの病型であっても基本的にはステロイドによる治療が第一選択となります。また、病気の活動性が高い場合は免疫抑制剤が併用されることもあります。さらに、多くの例で高血圧を伴うので、腎保護作用を持つ降圧薬を使用します。しかし、糖尿病性腎症の場合はステロイドによる治療が逆効果となるため、糖尿病や高血圧の治療強化と併行して食事療法などで治療を行います。
前述のように、腎生検による検査でネフローゼ症候群の病型・重症度を判断し、患者さんそれぞれの状態に合わせた治療方針を決定することが重要です。
ネフローゼ症候群の治療では、初期に大量のステロイド薬を投与します。治療後、数週間で尿タンパクの減少が認められたら、徐々にステロイド薬を減らしていきます。
ステロイドによる治療には様々なリスクが伴います。ステロイド薬は体の本来持っている免疫力を抑制する働きがあるため、感染症のリスクが高まります。治療が順調に進んでいても、感染症を契機にネフローゼ症候群が再発することもあるため、その意味でも治療にあたり感染症には常に注意すべきだといえます。
また、高齢の患者さんでは、ネフローゼ症候群の治療中に肺炎などを併発すると重症化しやすいため、特に注意が必要です。
<ステロイド薬による副作用>
ステロイド治療中には食欲が増進します。またステロイド薬には糖尿病や高血圧、高脂血症の副作用もあります。すなわち、メタボリックシンドロームになりやすく、これら疾患のリスクを回避するためには、肥満にならないよう食事に気をつける必要があります。さらに、ネフローゼ症候群の治療では血圧コントロールが重要なため、塩分摂取量を控える必要があります。具体的には、1日の塩分摂取量を6g以下に制限することが推奨されます。
一次性のネフローゼ症候群は、完治の望める疾患です。
なかでも微小変化型ネフローゼ症候群は比較的完治しやすく、特に小児の場合には半年〜1年ほどの治療で、ステロイド薬の不要な状態にまで回復が見込めます。ただし、微小変化型ネフローゼ症候群は、完治が見込める反面、再発しやすいという懸念もあります。もし再発した場合には、初期段階の治療を再度行う必要があります。
膜性腎症では多くの場合、数年でステロイド薬を中止できる状態にまで回復が見込めます。
ネフローゼ症候群は前述のように、一旦治癒(完全な治癒とは異なるという意味から寛解と呼ぶことが多い)しても再発のリスクがあります。しかし再発予防のためといって、寛解後もステロイド薬を継続して飲むことは通常行いません。なぜならステロイド薬には前述のように様々な副作用があるからです。
特に小児の場合には成長障害が懸念されるため、症状の改善とともにステロイド薬の量を最小限にまで減らしていき、できるだけ中止できる状態にします。一方、成人の場合には個々の症例によって再発予防を含め、最小限のステロイド治療を継続することもあります。
いずれにせよ、患者さんの状態を見極めて優先順位を決め、治療を行うことが重要になります。
前述のように、ネフローゼ症候群の治療中は感染症予防、食生活管理に気をつける必要があります。しかし、治療によって寛解に至れば、生活面で大きな制限はありません。運動や旅行なども通常通り行うことができます。
ネフローゼ症候群は診断・治療が早いほど完治の見込まれる病気ですが、対応が遅れるとさまざまな弊害が生じます。定期健診などでタンパク尿を指摘されたら、すぐに医師の診察を受けることが大切です。腎臓病全体でみても、尿検査は簡便で情報量も多く、尿異常には常に気をつけるべきだと考えます。慢性腎炎のうち代表的なIgA腎症では、風邪のあとの血尿が重要です。慢性腎炎が悪化するとネフローゼ症候群に至ることもあるため、注意が必要です。
ネフローゼ症候群に限らず、腎臓病が疑われたら必ず専門医を受診し、できるだけ早期の診断・治療へとつなげていきましょう。
熊本大学 大学院生命科学研究部 腎臓内科学分野 教授
日本内科学会 認定医・総合内科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本透析医学会 透析専門医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医
1983年に京都大学医学部医学科を卒業後、内科研修。1986年に同学大学院医学研究科内科系専攻に入学し、医学博士の学位取得。1991年からスタンフォード大学医学部心臓血管研究所に留学。帰国後、京都大学医学部附属病院、京都大学大学院医学研究科を経て、2014年より現職。腎臓病学、内分泌学、高血圧、心血管内分泌代謝学を専門とし、特に腎疾患における循環調節ホルモンの意義とtranslational research、創薬への応用において第一線の研究を行う。
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