初発時・再発時ともに、第一選択薬はステロイド薬です。ステロイド薬により、タンパク尿が消失すれば、ステロイド薬を一定期間使用し(初発時には連日4週間、その後隔日で4週間の合計8週間、再発時にはタンパク尿が消失し4日後から約6週~8週間)、その後ステロイド薬を終了します。
タンパク尿が陽性の間は減塩食にしますが、一般的に水分の制限は不必要とされています。水分制限は脱水や血栓症の危険を増加させるためです。また、タンパク尿が出ている時期も高血圧などを認めなければ、原則的に過度の安静は不要です。
再発時もタンパク尿やむくみの程度によりますが、主治医と相談して通園・通学、運動が可能な事が多いです。また、タンパク尿が消えている時期においては、塩分を含む一切の食事制限や運動制限はありませんし、むしろそれは害になります。
80~90%のお子さんは、ステロイド薬により、1週間程度でタンパク尿の陰性化(寛解)を認めます。ステロイド薬で4週間以内に寛解する場合、「ステロイド感受性ネフローゼ症候群」と呼びます。
しかし、その後の経過中にステロイド感受性ネフローゼ症候群のお子さんの約70-80 %が再発を経験します。約30〜40%のお子さんについては、初発からは半年間に2回以上の再発あるいは任意の一年間に4回以上の再発を経験する「頻回再発型ネフローゼ症候群」、またはステロイド薬の減量中あるいは中止後2週間以内に2連続で再発する「ステロイド依存性ネフローゼ症候群」の経過をとります。
頻回再発型/ステロイド依存性のお子さんにおいては、再発の度にステロイド薬が必要になるために、ステロイド薬の副作用(低身長、緑内症、肥満、高血圧、糖尿病、白内障、骨粗鬆症など)の問題に少なからず直面します。
そのために、再発を防止するための薬(免疫抑制薬)の導入が必要となります。日本で使用可能な免疫抑制薬としてはミゾリビン、シクロフォスファミド、シクロスポリンなどがあり、効果と副作用を考慮して、薬剤を選択します。
このような免疫抑制薬を使用しても再発を繰り返す難治性のお子さんや治療薬の副作用が問題となるお子さんには、2014年に世界に先駆けて、わが国でネフローゼ症候群への適応が認可されたリツキシマブを使用します。
リツキシマブの登場により、重症の経過をとるお子さんは激減しつつあります。しかしながら、この薬剤も完治させる薬剤ではありません。上記の免疫抑制薬以外にタムロリムスやミコフェノール酸モフェチルも有効ですが、海外でもわが国でも、ネフローゼ症候群への適応は認められていません。免疫抑制薬の使用に当たっては腎臓専門医の診察を受ける事を強く推めます。
一方、ステロイド薬の連日投与を行ってもタンパク尿が消失しないネフローゼ症候群を「ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群」と呼び、全体の10~20%を占めます。シクロスポリン、メチルプレドニゾロン大量療法、血漿交換療法などで治療します。
一般的にお子さんの年齢が高くなるにつれ、再発の頻度は減少し、再発時の重症度も改善します。長期的には70~80%程度の患者さんは成人になるまでに完治します。治療なしで3年再発がなければ約80%の患者さんはその後再発せず、5年間再発がなければ約90%の患者さんはその後再発がなく完治すると言われています。
しかし、頻回再発型/ステロイド依存性やステロイド抵抗性のお子さん場合は、成人への移行の頻度が高くなります。一方、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群のお子さんの1/4程度は治療抵抗性でタンパク尿が持続し、やがて5~10年ほどの経過で末期腎不全へ進行し、透析や腎移植が必要になります(透析、腎移植については別項を御参照下さい)。それらの患者さんでは組織型が巣状分節性糸球体硬化症であることが多いです。
再発を避ける完全な方法はありませんが、風邪などが再発のきっかけになる事が多いため、手洗いやうがい等は積極的にしましょう。風邪をひいたら早めに対応しましょう。しかし、風邪で再発が繰り返されるようであれば、それは保護者の管理に問題があるのではなく、治療の強化が必要だという事を意味しており、それは主治医の仕事です。
再発が多かったお子さんでも、適切に免疫抑制薬を使用すれば、多くの場合再発が減り、同時に風邪などで再発することも減少します。しかし、何回再発してもその都度タンパク尿がきちんと陰性になるのであれば、殆どの患者さんで透析や腎移植が必要な末期腎不全になる事はありませんので安心して下さい。
タンパク尿がない時は、普通のお子さんと同様の生活が可能であり、積極的にいろいろな事に挑戦させることが、お子さんの心と身体の発達に重要ですので、しっかりと心に留めておいて下さい。
横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授
横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授
日本小児科学会 小児科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医日本リウマチ学会 リウマチ専門医・リウマチ指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
1993年に横浜市立大学医学部を卒業後、神奈川県立子供医療センター小児科レジデントとなる。藤沢市民病院小児科フェローを経て、横浜市立大学医学部大学院にて小児科学を研究。東京都立清瀬小児病院 腎臓内科フェロー、横浜市立大学付属市民総合医療センター助手、国立成育医療研究センター腎臓科医長等を経て、2014年より横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学(小児科学)主任教授。後進の指導とともに、主にネフローゼ症候群などの小児の腎臓やリウマチ疾患を専門として診療にあたる。また、これらの難病に対する薬剤の開発や治療法の確立、原因不明の病気の解明に力を注いでいる。
伊藤 秀一 先生の所属医療機関
神垣 佑 先生の所属医療機関
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