3歳児検尿や学校検尿など、お子さんが尿検査を受ける機会は比較的多いです。尿検査で異常を指摘され、再検査や精査が必要になる場合もあります。
3歳児検尿や学校検尿は世界に先駆け日本が始めた優れた検診システムです。この制度により小児腎臓疾患の早期発見が可能になり、その結果日本は世界でも最も小児人口当たりの透析や移植の患者が少ない国になっています。この記事では血尿について、横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授の伊藤秀一先生、同教室の増澤祐子先生に解説していただきます。
血尿とは文字通り尿に血液(赤血球)が混じることを指します。尿を遠心分離してから、上清を捨てて残った成分(尿沈渣)を顕微鏡で400倍の倍率で見た時に、赤血球が一視野足り5個以上みとめられた場合を血尿と定義します。このように尿沈渣を鏡検する尿沈渣法が最も確実な方法ですが、より簡便な方法として尿試験紙を用いた定性法(試験紙法)が、検診などで広く用いられています。
定性法は沈渣検査で赤血球5個以上/1視野を陽性と判断する感度で調整されています。一般的に定性法の程度は、−、±、1+、2+、3+に分けられ、+以上を陽性(潜血反応陽性)と診断します。試験紙法は簡便に検査できるので一次検査に用いられますが、偽陽性(ヘモグロビン尿や細菌尿などが原因)や偽陰性(ビタミンCや降圧薬などの影響)があるため注意が必要です。試験紙法で尿潜血が陽性であった場合には、二次検査として尿中赤血球を確認するための尿沈渣検査が必要となります。
尿に混じる赤血球の程度が多ければ目で見て明らかな血尿(肉眼的血尿)となり、少なければ尿検査をしてわかる程度の血尿(顕微鏡的血尿)にとなります。小児の血尿は顕微鏡的血尿が殆どで、主に3歳検尿や学校検尿で発見されます。
肉眼的血尿の場合、腎臓からの出血では黒褐色や赤茶色の尿になり、膀胱など下部尿路からの出血は鮮紅色やピンク色になりやすいです。
風邪を引いたときなどに黒褐色や赤茶色が出る事を繰り返す場合は慢性腎炎の可能性があるため、特に注意が必要です。尿の色が診断の手がかりとなる場合もありますので、肉眼的血尿があった場合には、その色調を確認しておきましょう。
また、色調以外にも腎臓(の糸球体というところ)が原因の場合には尿沈渣検査で尿中の赤血球が変形していることが多く、血尿の原因検索に役立ちます。お子さんに肉眼的血尿が出た際には、速やかに病院で精査することをおすすめします。
腎臓に加え尿路と呼ばれる尿の通り道のどの部位も血尿の原因となります。腎・尿路というのは具体的には腎臓、尿管、膀胱、尿道の4つです。しかしながら、血尿だけが陽性の場合、小児では原因が確定できないことも多いのです。
小児の血尿の原因として、頻度は低いのですが糸球体腎炎が最も問題となります。それは、糸球体腎炎、とくに慢性糸球体腎炎は早期発見し、早期治療介入する事により腎臓機能の悪化を防ぐ事が可能な疾患だからです(参考記事:「小児の糸球体腎炎とは 急性と慢性それぞれの特徴」)。
しかし、腎炎であっでも、尿の異常が血尿(顕微鏡的血尿)のみであれば、原則的に腎機能は悪化しないため精密検査(腎生検)や治療の必要性はありません。しかし、最初は血尿のみでも、蛋白尿が出現してくる場合は、診断と重症度評価のために腎生検が必要となります。それは、血尿と異なり蛋白尿が持続すると腎機能が障害されるためです。
他の血尿の原因として、感染症、嚢胞、ナットクラッカー現象、家族性良性血尿、さらに小児では極めてまれですが悪性腫瘍や尿路結石が原因の場合もあります。これらの疾患は尿検査、血液検査に加えて腹部超音波検査なども行って診断します。また、尿の通り道以外からの血尿の原因として、月経血が尿に混じる場合もありますので、月経時を避けて検査する必要があります。
加えて、血尿ではないのですが、乳幼児のおむつに尿中の尿酸塩やシュウ酸塩が付着してピンクやオレンジの色調を呈することがあり、血尿とよく間違われます。これの様な着色した尿を煉瓦尿と呼びます。ここでは、小児の良性の血尿で良くみられるとナットクラッカー現象と家族性良性血尿について解説します。
ナットクラッカー現象(左腎静脈還流異常症)は予後良好で、自然に治ることがほとんどです。成長期のやせ型のお子さんに多く、肉眼的血尿を繰り返す事もあります。下記の図2のように、左の腎静脈は腹部大動脈と上腸間膜動脈の間に挟まれています。左の腎静脈のまわりのクッションとなる内臓脂肪が少ないやせ型のお子さんでは、左の腎静脈が2つの動脈によって“ナットクラッカー(くるみ割り)”のように圧迫され、左の腎臓がうっ血して血尿をきたします。ナットクラッカー現象は腹部超音波検査等で診断されます。
良性の体質性の血尿で予後は良好です。家族歴がある事が多く、学校検尿で発見される血尿の1/3程度をしめると推定されています。血尿のみで蛋白尿はありません。腎臓の(糸球体というところの)血管の壁が生まれつき薄く脆いために血尿をきたすとされています。
〈参考文献〉
血尿診断ガイドライン2013 編集:血尿診断ガイドライン編集委員会(日本腎臓学会、日本泌尿器科学会、日本小児腎臓病学会、日本臨床検査医学会、日本臨床衛生検査技師会)
小児の検尿マニュアル 編集:日本小児腎臓病学会、診断と治療社
国立成育医療研究センターBookシリーズ 子供の腎炎・ネフローゼ (五十嵐隆 監修、伊藤秀一 編)
〈参考リンク〉 横浜市立大学 発生成育小児医療学教室(小児科学) ウェブサイト
横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授
横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授
日本小児科学会 小児科専門医日本腎臓学会 腎臓専門医日本リウマチ学会 リウマチ専門医・リウマチ指導医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
1993年に横浜市立大学医学部を卒業後、神奈川県立子供医療センター小児科レジデントとなる。藤沢市民病院小児科フェローを経て、横浜市立大学医学部大学院にて小児科学を研究。東京都立清瀬小児病院 腎臓内科フェロー、横浜市立大学付属市民総合医療センター助手、国立成育医療研究センター腎臓科医長等を経て、2014年より横浜市立大学大学院医学研究科 発生成育小児医療学(小児科学)主任教授。後進の指導とともに、主にネフローゼ症候群などの小児の腎臓やリウマチ疾患を専門として診療にあたる。また、これらの難病に対する薬剤の開発や治療法の確立、原因不明の病気の解明に力を注いでいる。
伊藤 秀一 先生の所属医療機関
増澤 祐子 先生の所属医療機関
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