インタビュー

子どもの急性糸球体腎炎と慢性糸球体腎炎の原因や症状・治療

子どもの急性糸球体腎炎と慢性糸球体腎炎の原因や症状・治療
伊藤 秀一 先生

横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授

伊藤 秀一 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 指導診療医

松村 壮史 先生

この記事の最終更新は2016年02月18日です。

「糸球体腎炎」とは、なんらかの免疫反応の異常により腎臓に炎症がおこり、血尿や蛋白尿をきたす病気のことを指します。主に「急性糸球体腎炎」と「慢性糸球体腎炎」に大別されます。ここでは小児の糸球体腎炎について、横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授の伊藤秀一先生、横浜市立大学付属市民総合医療センター 小児総合医療センター 松村壮史先生に解説していただきます。

急性糸球体腎炎は急性腎炎とも呼ばれます。4歳から10歳のお子さんに多く、年間小児10万人あたり2~3人程度が罹患します。急性糸球体腎炎の90%は溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染後に発症します。溶連菌は咽頭炎(のどの熱)や伝染性痂疹(とびひ)の原因菌として有名ですが、これらに感染した一部の患者さんにおいて、急性糸球体腎炎が咽頭炎から約10~14日後、伝染性膿痂疹から平約20~30日後に発症します。しかし、これらの感染症の原因としては一般的ですが、実際に急性糸球体腎炎を合併する患者さんは極めて稀です。

溶連菌の毒素や菌の成分とそれに対する抗体が結合して出来た免疫複合体が、腎臓の糸球体に沈着し、炎症が起こり、糸球体の毛細血管が障害されます。その結果、毛細血管から余分な水分や老廃物を排泄することが困難になり、尿量低下やむくみが引き起こされます。また、糸球体の毛細血管が傷つくことで血尿や蛋白尿が出現します。患者さんの多くは、まぶたや足のむくみ、赤色や褐色の尿(肉眼的血尿)がきっかけで医療機関を受診することが多いです。

急性糸球体腎炎では、血尿はほぼ100%の患者さんに起こり、蛋白尿もおよそ80%に起こりますが、その程度は様々です。診断時に咽頭炎痂疹の感染の既往がわかれば、診断はそれほど難しくはありません。しかし、先行感染がはっきりしない患者も少なくありません。また、急性糸球体腎炎は腎臓の機能が低下することがあるため、その評価のために血液検査が必要です。血液検査では腎機能(クレアチニンや尿素窒素)、溶連菌の抗体検査(ASO、ASKなど)、補体価(C3、C4、CH50)を調べます。溶連菌の抗体価の上昇、補体価の低下が診断の助けになります。咽頭や皮膚に所見が残っている場合は、咽頭培養や溶連菌の迅速検査、皮膚の炎症部位の培養を行います。

急性糸球体腎炎は、基本的に自然に治癒する病気です。治療に関しては安静や減塩などの食事療法、血圧管理などの対症療法(症状に合わせた治療)が主になります。外来通院でも治療可能な患者さんも多いのですが、高血圧や尿量の低下・腎機能の低下を認める場合は入院が必要となります。

入院では安静、減塩食(1日3g程度)とし、尿量低下・むくみ・高血圧等を認める患者さんには、飲水制限や利尿薬・降圧薬の投与を行います。1週間程度症状が続いた後、尿量の改善、むくみの軽快とともに腎機能が改善し血圧も低下していきます。症状が改善したら食事を通常の食事とし、安静も不要となります。尿量や腎機能、高血圧が改善すれば退院となります。

極めて稀に、一時的にステロイド薬や透析を必要とする患者さんがいますが、この病気により将来的に腎臓にダメージを残すことは稀です。

一度急性糸球体腎炎になった患者さんが再度罹患することはほとんどありません。しかし、急性糸球体腎炎を発症してから2か月が経過しても補体価が改善しない場合や蛋白尿が持続する場合は、急性糸球体腎炎ではなく慢性糸球体腎の可能性が強く、腎臓専門医がいる医療機関に必ず受診して下さい。

慢性糸球体腎炎は慢性腎炎とも呼ばれており、最も多い腎臓病のひとつです。血尿や蛋白尿が持続する状態を指し、治療をせずに放置すると腎機能の低下、最悪の場合腎不全となってしまう可能性のある病気です。1つの病気ではなく、IgA腎症紫斑病性腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎など、持続的な血尿・蛋白尿を認める病気の総称です。

慢性糸球体腎炎の多くで詳しい原因は分かっていませんが、何らかの免疫反応の異常が原因となり、腎臓に炎症が生じて発症します。むくみや肉眼的血尿などの症状で発見されることもありますが、多くの方は無症状のため、学校検尿などの健診により血尿、蛋白尿が発見されたことをきっかけに診断されます。確定診断や治療のためには、小児の腎臓疾患に精通している医師の診療を受ける必要があります。腎機能が悪化した場合や尿蛋白が持続する場合には、精密検査のため腎生検(腎臓の組織を採取する行為)が必要となります。

治療は疾患によって異なりますが、多くの慢性糸球体腎炎でステロイドや免疫抑制薬を柱とした治療が行われています。

かつては小児の慢性糸球体腎炎は小児の末期腎不全の原因の一位となっていましたが、学校検尿による早期発見や治療法の進歩により、現在では末期腎不全になる患者さんは殆どいなくなりました。しかし、早期発見と早期治療が重要であり、学校検尿で異常を認めた場合には必ず小児腎臓専門医のいる医療機関を受診してください。

次の記事「小児の慢性糸球体腎炎 IgA腎症と紫斑病性腎炎について」では、慢性糸球体腎炎のうち小児で比較的多くみられるIgA腎症紫斑病性腎炎について詳しく説明します。

〈参考文献〉 国立成育医療研究センターBookシリーズ 子供の腎炎・ネフローゼ (五十嵐隆 監修、伊藤秀一 編)

〈参考リンク〉 横浜市立大学 発生成育小児医療学教室(小児科学) ウェブサイト

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