インタビュー

免疫性血小板減少症(ITP)とは? 発症メカニズムや進歩を遂げた治療法について解説

免疫性血小板減少症(ITP)とは? 発症メカニズムや進歩を遂げた治療法について解説
桑名 正隆 先生

日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 ...

桑名 正隆 先生

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免疫性血小板減少症(旧称:特発性血小板減少性紫斑病、略称:ITP)は止血の中心的役割を果たす血小板が減少して出血しやすくなる病気で、自己免疫疾患の1つです。今回は、日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 教授の桑名 正隆(くわな まさたか)先生に、この病気で血小板が減少するメカニズムや症状、選択の幅が広がってきた薬物療法についてお話を伺いました。

免疫性血小板減少症(ITP:Immune Thrombocytopenia)は、最近まで特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpura)と呼ばれていた病気です。「原因不明に(特発性)血液中の血小板が減少し(血小板減少性)、皮膚に紫斑が出る病気」と認識されていました。紫斑とは内出血によってできる青あざのことです。

研究の進展により、抗血小板抗体(血小板に対する自己抗体*)が誘発する自己免疫疾患であることが解明されたため、日本国内では2025年に、病態を正確に表す免疫性血小板減少症という世界標準の病名に変更されました。病名の変更前後で略称は変わらず、現在も一般的に“ITP”と呼ばれています。

*自己抗体:免疫の異常によって産生された、自分の体の成分や細胞(ここでは血小板)に反応してしまう抗体のこと。

免疫は本来、体の外から侵入してくる細菌やウイルスなどの異物を排除する生体システムで、自分自身の体の細胞(自己)を攻撃対象としない制御機能があります。この機構がうまくはたらかず、免疫が自己を攻撃することで起こるのが自己免疫疾患です。本来は起こり得ない自己への免疫反応は、免疫バランスの乱れやすい遺伝的素因を持つ方に細菌やウイルスの感染、ワクチン接種などの環境要因が生じて引き起こされると考えられています。

ITPも、複合要因により発症する多因子疾患と考えられています。たとえば、胃内に感染するピロリ菌も免疫の制御機能を乱してITP発症の要因となり得ることが知られています。

ITPでは、抗血小板抗体によって「血小板が壊される」、「血小板がうまく作られなくなる」という2つの障害が起こり、血小板が減少します。通常、血液1μL(マイクロリットル)中に15~35万の血小板が存在しますが、10万未満を血小板減少と呼び、ITP患者さんの多くは5万以下まで低下します。

抗血小板抗体が結合した血小板が脾臓などの網内系*で壊されるだけでなく、血小板を攻撃するリンパ球**も誘導されることで、血小板が減少すると考えられています。また、血小板を生み出す骨髄の巨核球という細胞も攻撃を受けて、血小板がうまく作られなくなります。

*網内系:体内に侵入した異物などを捕まえて処理するはたらきを持つ細胞群のこと。

**リンパ球:免疫の役割を担う白血球の1つ。

血小板は、けがなどで出血した際に止血する役割を果たす重要な細胞で、血小板が減少すると出血しやすくなります。出血の程度は血小板数と相関関係にあり、血液1μL中3万を下回ると出血症状に注意が必要となり、1万を切ると重い粘膜出血や脳出血のリスクが高まります。

高頻度にみられるのは皮下出血で、外部からの刺激によって皮膚の小血管が傷つき、紫斑や小出血斑(紫斑よりも小さな斑点)が生じます。そこから血小板の減少が進むと、鼻血や歯磨きの際の歯茎からの出血、女性であれば月経過多などが起こります。さらに高度に血小板が減少すると、胃や腸など消化管からの出血によって血便が続いたり、脳出血を起こしたりして命に関わる状態に陥る可能性もあります。

ITPは出血傾向だけの病気ではありません。抗血小板抗体がつくられるときや血小板が体内で壊されるときに、サイトカインと呼ばれる炎症物質が血中に放出されるため、倦怠感、食欲不振、うつなどの全身症状を伴います。こうした全身、精神面への影響や、鼻血や歯茎からの出血を繰り返しているうちに「また出血するのではないか」と不安を感じ、日常の活動を控えてしまい、社会生活に支障をきたすケースもみられます。

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写真:PIXTA

これといった原因がないにもかかわらず、紫斑や歯茎からの出血、月経過多などが繰り返される場合、血小板の減少が疑われます。このような症状に気付いたら、まずは身近な医療機関で血液検査を受け、血小板数の減少が指摘された場合は速やかに血液内科を受診しましょう。症状が進行する前に診断を受けられれば、治療の難易度や患者さんの負担を小さく抑えることが期待できます。

ITPは、病気を引き起こす抗血小板抗体を測定できれば、理論上は容易に診断できるはずです。しかしながら、抗血小板抗体を直接測る検査は世界的にも実用化されていません。そこで、間接的な臨床検査などを行い、専門の医師が総合的に診断しているのが実状です。

まず、血小板が血液1μL中10万未満であることが診断の大前提です。そのうえで、抗がん薬治療の副作用など血小板減少をきたしている原因が明らかなケースはあらかじめ除外します。また、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などのほかの血液疾患との鑑別が必要で、幼若血小板*や血液中のトロンボポエチン**濃度が役立ちます。幼若血小板を測定する方法が通常の臨床検査で実施可能になっており、トロンボポエチンを測定する方法も臨床診断薬としての承認および今後の保険適用が待たれます。鑑別が難しい場合は骨髄検査を行う場合があります。

また日本では、ITP患者さんがピロリ菌に感染している場合、除菌治療を行うと半数程度に血小板数の改善が見込まれます。そのため、ITPの診断時にはピロリ菌感染の有無についても併せて検査を行います。

さらに、ほかの病気などが原因となって起こる“二次性ITP”の判別をします。その原因としては、全身性エリテマトーデスなどの膠原病のほか、C型慢性肝炎、リンパ増殖性疾患、HIV感染などがあり、二次性の場合はITPの治療と併せてもとの病気の治療も必要です。

*幼若血小板:骨髄でつくられたばかりの新しい血小板のこと。ITPでは血小板における比率が上昇することが多い。

**トロンボポエチン:骨髄での巨核球(血小板を生み出す細胞)の分化に必要な成長因子。その血中濃度は、ITPでは正常または軽度の上昇にとどまり、再生不良性貧血では著増する。

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ITPと診断したら、まずは出血リスクを評価して重症度を判断します。診断されれば全例で治療するわけでなく、重症度に応じて治療適応を判断します。なお、ピロリ菌が検出された方には、重症度にかかわらずピロリ菌除去治療を優先して行います。

血小板数が2万/μL未満であれば、出血症状の有無にかかわらず治療対象となります。2万/μL以上でも、出血症状が繰り返し起こっている方は治療適応となります。それ以外の患者さんは基本的に経過観察を続け、出血症状が現れたり血小板減少がみられたりしたタイミングで治療を開始します。

一方、血小板数の高度の減少に加えて消化管や脳などに出血を起こしているときには、速やかに血小板を増やして出血を止めるために、入院安静のうえで血小板輸血や免疫グロブリン大量療法*などの緊急的な処置を行う必要があります。

*免疫グロブリン大量療法:健康な人の血液から精製した免疫グロブリン(抗体)を大量に投与して免疫反応を抑制し、血小板の破壊を一時的に抑えることを目的とした治療法。

一般的な治療としてまず行うのは、グルココルチコイド(いわゆるステロイド)による薬物療法です。これにより約8割の患者さんで一時的に血小板が増加します。ただし、ステロイド使用は感染症、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症などの副作用を伴うため長期の継続は避け、3か月ほどかけて徐々に薬を減らしていくのが基本です。ステロイドを中止しても再発がなければ、継続的な治療は不要となります。

一方で、多くの方は減量、中止に伴って再発してしまうのが実状です。つまり、この最初の治療期間(ファーストライン)は、今後も治療を継続する必要があるかを見極めるための重要な期間でもあります。

治療継続が必要と判断されたら、セカンドラインの治療に進みます。

脾臓摘出手術(脾摘)

ITPにおいて脾臓は、免疫細胞(マクロファージ)が血小板を異物とみなして“破壊する場所”であり、かつ、Bリンパ球が血小板を“攻撃する抗体をつくり出す場所”でもあります。そのため、脾摘によって9割以上の患者さんで血小板数が回復し、7割近くは長期にわたって維持される治癒が期待できます。なお、現在は体への負担が少ない内視鏡(腹腔鏡)手術で行われます。

かつてはセカンドラインの中心的な治療法でしたが、脾臓は免疫に関わる重要な臓器です。摘出すると細菌感染症にかかったときに重篤化しやすく、敗血症を起こして命に関わるリスクが生じるほか、門脈という血管に血栓ができやすくなります。医療者としてはできれば別の治療法が望ましいと考えてきました。近年では、治療の進歩によって脾摘の実施例は大幅に減少しています。

トロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)、抗CD20抗体薬

脾摘に代わる治療法として登場したのがトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)です。骨髄巨核球の前駆細胞にあるトロンボポエチン受容体に結合し、血小板の産生を促します。

抗CD20抗体薬という注射薬にも、Bリンパ球を一時的に枯渇させ抗血小板抗体の産生を抑えるはたらきがあります。

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セカンドラインの治療でも血小板数が出血リスクの少ないレベルまで上がらない患者さんが全体の2割ほどいます。ITPに対する有効性が明確な薬がほかになかった時代には、サードラインとして別の自己免疫疾患の治療薬などを使うこともありました。しかし、近年は分子標的薬の開発が進み治療の選択肢が増えています。

分子標的薬とは、病気の発症に関与する特定の分子だけを標的として作用する薬です。現在ITPの治療薬として承認されているのは、胎児性Fc受容体(FcRn)阻害薬、脾臓チロシンキナーゼ(Syk)阻害薬、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬の3種類です(2026年10月時点)。従来の治療では十分にコントロールできなかった難治性ITPにも効果の期待できる治療薬が登場したのは大きな進歩だといえます。

FcRnは、細胞に取り込まれた抗体を再び血液中に戻すという、抗体のリサイクルのプロセスではたらくタンパク質です。FcRn阻害薬はこのFcRnのはたらきを阻害する点滴薬で、抗体のリサイクルを抑えて細胞内で分解させる作用があります。これにより体内の抗体が減少するため、血小板を攻撃する抗血小板抗体も減り、血小板の増加が期待できます。ただし、ウイルスや細菌から体を守ってくれる抗体も減少するため、感染症に注意が必要となります。

Syk阻害薬は、抗血小板抗体が結合した血小板を破壊するマクロファージのはたらきを阻害することで、血小板を壊されにくくします。また、抗体をつくるBリンパ球の活性化も抑えて、抗血小板抗体の産生を減少させる可能性があると考えられています。

副作用として、下痢や吐き気といった消化器系の症状や、高血圧、肝機能障害などが現れた場合は、症状に応じて減薬したり血圧の薬を追加したりと、こまやかな薬の調整が必要です。

BTK阻害薬は、Syk阻害薬とは異なる特徴を持つ新しい飲み薬(2026年6月承認)です。マクロファージのはたらきを阻害して血小板の破壊を抑制するとともに、Bリンパ球の活性化を抑えることで抗血小板抗体の産生を低減し、血小板の減少を抑制すると考えられています。このように免疫系の細胞を抑えるという点で、作用するしくみはSyk阻害薬と似ていますが、承認されて間もないため、実際の臨床におけるデータの蓄積と評価が進められていく段階です。

FcRn阻害薬、Syk阻害薬、BTK阻害薬はいずれも、臨床試験において全ての患者さんに十分な効果が得られたわけではありません。効果が見込めるのは2~4割ほどといわれています。現状では点滴薬か飲み薬か、また副作用の違いなどを考慮して治療薬を選択していますが、それ以上に重要なのは、薬の作用の仕組みから患者さんごとにどの薬が効きやすいか予測できるようになることです。今後は、その予測の指標となるバイオマーカーなどを見つけていく必要があると考えています。

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ITPの治療目標は血小板の数を正常に戻すことではありません。治療による副作用や負担をできる限り抑えながら、血小板数を出血リスクの少ないレベルに維持し、出血に対する不安を和らげてQOLを守ることを重視しています。治療の選択肢が増えたことで、副作用の影響も慎重に考慮しつつ、患者さん一人ひとりに合った治療法を検討できるようになってきたのは大きな変革といえるでしょう。

治療選択においては、医師からは副作用の症状や頻度を含めそれぞれの治療法に関する情報を提供し、患者さんからはご自身のライフスタイルに合った薬の投与方法など、要望を医師に伝えることが大切です。患者さんと医師が話し合い、双方で納得のいく治療法を選ぶSDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)の重要性が高まっています。

また、従来ITPでは小児と20~40歳代の女性の患者さんが多かったところ、近年は60歳以上で発症する方も増えています。一般的に高齢になると感染リスクが高まるため、上述のような免疫を抑える薬を使いづらいケースもあります。薬物療法によって血小板数を一定レベルに維持できていても、ひとたび感染症を起こすと薬を中断せざるを得なくなり、再び血小板が減少してしまうのです。別の病気で薬を服用している方も多く、血小板を増やす治療に加えて全身管理や他科との診療連携がますます重要になってきています。

ITPの発症メカニズムが明らかになり、それに基づく分子標的薬が次々と登場して治療選択肢が広がっています。その結果、個々の患者さんによりふさわしい治療薬を選びやすくなってきているのは大きな進歩です。それぞれのライフスタイルに合った、また合併症も考慮したきめ細かな個別医療を実現するには、患者さんと医師の間の情報共有がこれまで以上に大切になってくるでしょう。皆さんも主治医とよく相談しながらご自身に適した方向性を見出し、治療に臨んでいただきたいと思います。

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  • 日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長、強皮症・筋炎先進医療センター センター長

    桑名 正隆 先生

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