妊娠しているわけではないのに月経の止まった状態が続いていたら、卵巣機能不全の可能性があります。卵巣機能不全は、女性ホルモンが分泌されない状態になるため、更年期に特有ののぼせなどの症状が現れることがあります。また、がん治療や過度の体重制限により引き起こされることもあります。月経が3か月以上止まっていると気付いたら、医師に相談することが大切です。
今回は、卵巣機能不全とはどのような病気か述べるとともに、原因や症状、検査方法などについて、横浜市立大学附属市民総合医療センター病院長 榊原 秀也先生に伺いました。
卵巣機能不全とは、卵巣機能が何らかのトラブルを起こして正常にはたらかず、月経が起こらない状態を指します。更年期の閉経も卵巣機能不全の1つといえますが、これは加齢によるもので、病気ではありません。
一般的には、本来なら閉経が起こる年齢ではないのに閉経が起こることを卵巣機能不全と考えます。また、適切な時期に初経(初めての月経)を迎えられていない状態も、卵巣機能不全に含まれます。
卵巣機能不全の中でも、これまであった月経が3か月以上止まっている状態のことを、続発性の卵巣機能不全といいます(初経の前、妊娠中、閉経後などの無月経は除く)。主な原因は次のとおりです。
体重は女性の生殖機能に関わっており、無理なダイエットによる痩せが、卵巣機能不全を引き起こすことがあります。人間は、極端に痩せると“飢餓状態”だと脳が認識し、生命を維持するために生殖機能を低下させるため、月経が止まってしまいます。
また、体重制限を必要とする職業の方も、卵巣機能不全のリスクがあります。たとえば、長距離走、体操、フィギュアスケートなどの厳しい体重制限が求められる競技のアスリートの方は、卵巣機能不全のリスクが高いと考えられます。ファッションモデルやバレエダンサーの方も同様です。
肥満が卵巣機能不全の原因になることがあります。人間は極端に太ると、脂肪細胞から肥満を改善させようとするホルモンが分泌されます。そのホルモンが生殖機能に影響を及ぼすことから、月経が止まってしまうのだと考えられています。なお、脂肪細胞を減らすことができれば、月経の周期を回復させることが期待できます。
どのようなストレスでも、生殖機能に影響を及ぼす可能性があります。身体的ストレスを感じた体は生体防御反応として、生殖機能を抑制して生命維持を図ります。その結果、月経が止まると考えられます。
また、精神的ストレスに伴う拒食や過食も、卵巣機能不全を引き起こすことがあります。
治療の副作用などが原因で、卵巣機能不全になることがあります。これを医原性の卵巣機能不全といい、主な原因は次のとおりです。
がんや膠原病に用いられる治療薬が、卵巣機能不全を引き起こすことがあります。抗がん剤や免疫抑制剤の中には、卵巣機能に影響を及ぼす毒性を持っているものがあるためです。
たとえば抗がん剤には、一般の細胞とがん細胞の増殖するスピードの違いを利用して、より増殖のスピードが速いがん細胞にダメージを与えるものがあり、抗がん剤治療の際には、細胞分裂が活発な生殖細胞も一緒にダメージを受けてしまいます。
がんに対する手術や放射線療法が卵巣機能不全を引き起こすことがあります。たとえば、卵巣がんの手術で卵巣を摘出した場合、卵巣から女性ホルモンが分泌されない状態(卵巣機能不全)になります。放射線療法は、卵巣内の卵子を減少させる場合があります。
18歳になっても初経が起こらない状態のことを、原発性の卵巣機能不全(原発性無月経)といいます。卵巣機能に障害がある場合や、出生時に存在する卵子の数が少ない場合、特定の遺伝子異常などによる場合などがあり、生まれつきの病気です。
一般的に、卵子の数は胎児期の約700万個をピークに減少し続け、閉経時には0個に近づいています。しかし、原発性の卵巣機能不全の患者さんは生まれつき卵子の数が少なく、卵子の数が通常より早く0個に近づくか、生まれた時点でほとんど0個に近づいていることがあります。
卵巣は、女性ホルモンを分泌させ、月経を起こす役割を担う臓器です。卵巣機能不全では卵巣機能に異常が生じていることから、無月経をはじめとするさまざまな症状が現れます。また、主な症状は、発症する年齢によっても異なります。ここでは、大人と子どもそれぞれの特徴についてご説明します。
女性ホルモン量の低下により、更年期に起こるような症状が若年でもみられるようになります。
一般的に、女性は50歳前後になると更年期に入り、さまざまな症状が現れるようになってきます。たとえば、月経不順、のぼせ、気分の落ち込みなどです。また、女性ホルモンの低下に伴って、骨粗しょう症のリスクが高くなります。
子どもの卵巣機能不全に特徴的な症状は次のとおりです。
女性ホルモンは骨量の獲得にも大きく関わっているホルモンです。初経の前に骨の発育がピークに達した後、女性ホルモンが分泌されることによって骨密度もピークに達します。
卵巣機能不全で女性ホルモンが正常に分泌されない状況では、成人女性としての体がつくられる過程で十分な骨量を獲得することが難しくなります。
女性の第二次性徴は、乳房発育、陰毛の発生、初経の順番で起こります。卵巣機能不全ではこの第二次性徴がみられず、成人女性としての体がつくられないまま成長していくことがあります。“友達と比べて自分だけが幼児体型”、“12歳前後になっても月経が始まらない”、といったコンプレックスを持つ患者さんもいらっしゃいます。
初経前の子どもの子宮は小さく、女性ホルモンが分泌されることで発育していきます。卵巣機能不全で女性ホルモンが正常に分泌されず、子宮の成熟が得られないと、将来の不妊につながります。妊娠しても流産や死産を繰り返し、元気な赤ちゃんを産むことが難しい不育症になる可能性もあります。
卵巣機能不全の患者さんは、ご自身では卵巣機能不全に気付いていないことが多く、月経不順や無月経、更年期障害のような症状があることなどを相談しに来られます。そこで、気になる症状や最近の月経周期などを伺って、卵巣機能不全の可能性を考えていきます。
卵巣機能不全と考えられる場合、血液検査でホルモンの測定をします。無月経が長期にわたって続いている場合、X線検査などによる骨密度測定をします。また、卵巣や子宮に収縮がみられるかどうか、超音波検査で調べることがあります。
月経は、多くの場合10~14歳頃までに始まります。15歳になっても初経が来ない場合、専門の医療機関を受診するようにしてください。
子宮の成熟や骨量の獲得を考慮すると、あまり長く様子を見ていては治療が後手に回ってしまう恐れがあります。病気ではなく初経が遅い方もいらっしゃいますが、まずはご近所の産婦人科(レディースクリニックなど)で相談してみてください。
第二次性徴が2~3年ほど早く始まることを思春期早発症といい、10歳6か月までに月経が始まることが特徴です。
一般的に女性は初経の前に身長が伸びるピークを迎え、女性ホルモンが分泌されると骨は成長を止めて硬くなっていきます。早い時期に女性ホルモンが分泌されると、小柄なまま成人女性としての体が完成し、身長の伸びが止まってしまいます。
思春期早発症は、女性ホルモンを低下させる治療を行うことで身長の伸びる期間を長くすることが期待できるため、できるだけ早い受診が大切です。
無月経の定義は3か月です。妊娠中や閉経後以外の時期に月経が3か月来ないときは、病気の可能性を考えて医師に相談してください。
なお、1年以上などの長い期間を無治療で放置すると、回復させることが難しくなっていきます。その場合、ホルモン剤を大量に投与するなどの治療が必要となり、つらい副作用も出やすくなります。無月経に気付いたら、まずはお近くの産婦人科(レディースクリニックなど)で相談することをおすすめします。
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