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インタビュー

頭頚部がんに対する動注併用放射線治療の今後

頭頚部がんに対する動注併用放射線治療の今後
不破 信和 先生

伊勢赤十字病院 放射線治療科 顧問、兵庫県立粒子線医療センター 名誉院長

不破 信和 先生

この記事の最終更新は2016年03月04日です。

口の中や舌などをはじめとする頭頚部のがんは、外科手術によって治療することができても、患者さんのQOL(生活の質)を大きく損なうことが避けられないという問題があります。動注併用放射線治療とは、がんの組織が栄養をとりこんでいる動脈に直接抗がん剤を注入し、同時に放射線を照射することで選択的にがんを治療する方法です。がんの根治性と患者さんのQOL維持を両立できる治療法として期待されています。

日本における粒子線治療のトップランナーであり、口腔がん領域における動注療法でも国内有数の名医として知られる伊勢赤十字病院放射線治療科部長(兵庫県立粒子線医療センター名誉院長)の不破信和先生にお話をうかがいました。

動注併用放射線治療は舌がん口腔がんには特に有効であることがわかっています。ただし、今はまだ施設や個人によって技術の差が大きい状態ですから、安易にやってほしくはありません。動注でやってみてうまくいかなければ手術をすればいいというものでもありません。それでは何のためにやっているのかわからないということになってしまいます。

私のところに来る患者さんは、紹介されて来る方もいますが、自分で情報を集めてたどり着いたという方も少なくありません。しかし多くの場合、手術が標準治療だといわれるので、私たちのところへは来ない方が多いでしょう。あるいは、動注化学放射線治療を受けたいと思っても、主治医に説得されてあきらめる方もいます。しかしそれでは患者さんのためにはなりません。

たとえばそれで舌の3分の2を切除すれば流動食だけの生活になりますし、場合によっては肺炎を起こすからといって、喉のほうまで大きく切除することもあります。そうすると、声を失って仕事ができなくなってしまいます。

がんの中で自殺する患者さんがもっとも多い、頭頚部がんとはそういう病気なのです。手術をしても形成術で顔貌を整えられる部位はまだいいかもしれませんが、特に舌(ぜつ)は「食べる」「話す」という、人を人ならしめている行為に直結しています。それらの機能が失われることは患者さんにとってあまりにも大きな負担であり、精神的にも参ってしまうのは当然です。

X線照射で一番問題なのは顎の骨への影響です。舌に放射線を照射するとどうしても味覚が失われます。しかも顎の骨がダメージを受けると歯もなくなってしまいます。そこで陽子線などのモダリティを使って被曝を減らしつつ、リンパ節などに対してもしっかりと集中的に照射して治療を行なうことが重要です。

粒子線には陽子線と重粒子線の2つがありますが、この両方が使える施設は日本では兵庫県立粒子線医療センターだけです。しかし海外の施設は両方出せるものが普通になっています。つまり大きな加速器で炭素を加速できる施設は当然、陽子も加速できるということです。

陽子線と重粒子線のそれぞれに長所・短所があります。日本では放射線医学総合研究所が重粒子線を推進していますが、重粒子線は設備により多くの費用がかかります。実際のところ、兵庫県立粒子線医療センターでの結果から見ると、陽子線と重粒子線の治療成績に遡及的な解析ですが違いはありません。

私が頭頚部癌に対する動注療法を始めたのは1992年からですが、これからエビデンス(科学的根拠)や治療実績をしっかりと積み重ねていくつもりです。陽子線などの新しいモダリティを組み合わせることでよりスマートに行くだろうと考えています。ある意味、探索的な治療かもしれませんが、その中でもしっかりと結果を出すことが求められていると実感しています。

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