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インタビュー

画像でみる皮膚の悪性リンパ腫(菌状息肉症など)の症状と分類

画像でみる皮膚の悪性リンパ腫(菌状息肉症など)の症状と分類
宮垣 朝光 先生

聖マリアンナ医科大学 皮膚科 准教授

宮垣 朝光 先生

この記事の最終更新は2017年06月06日です。

体の免疫機能を司るリンパ球は、皮膚や消化管にも常在し、私たちの体を刺激や異物から守っています。「皮膚の悪性リンパ腫」の多くは、このような皮膚に常在するリンパ球が悪性化したものと考えられています。皮膚の悪性リンパ腫は、全国で毎年400名ほどの新規発症が出る非常にまれな疾患で、菌状息肉症やセザリー症候群など数多くの種類が存在します。最も頻度の高い菌状息肉症の場合、長い年月をかけて徐々に進行していきますが、他の皮膚疾患との判別が困難であることも特徴の1つです。皮膚悪性リンパ腫の症状や、病気の進行に伴う皮膚症状の変化、治療法について、東京大学医学部附属病院皮膚科・皮膚光線レーザー科の宮垣朝光先生にお話を伺いました。

リンパ球にはT細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞という3つの種類があります。いずれも免疫機能を司り、体内に侵入した異物への攻撃を行います。皮膚悪性リンパ腫の8〜9割はT細胞に、1〜2割はB細胞に変異がみられたものです。NK細胞がかかわるケースは、皮膚悪性リンパ腫においては極めてまれです。

皮膚悪性リンパ腫には非常に多くの種類が存在するため、主要なものについて次章で詳しくご説明します。

菌状息肉症(きんじょうそくにくしょう)は、皮膚悪性リンパ腫でもっとも多くみられ、T細胞にかかわる疾患です。2013年のデータでは、全国383例のT細胞性リンパ腫のうち177例が菌状息肉症と、およそ5割を占めています。

菌状息肉症は症状の進行によって、紅斑期(こうはんき)、扁平浸潤期(へんぺいしんじゅんき)、腫瘤期(しゅりゅうき)と、大きく3段階にわけられます。皮膚症状の変化は通常、数年〜数十年という長い時間をかけて徐々に進行していきます。

菌状息肉症の紅斑期には、初期症状として境界がはっきりとした紅斑が皮膚に表れます。この紅斑は表面が若干ざらざらとしていますが、痛みやかゆみが出ることはありません。菌状息肉症によって表れる紅斑は、湿疹アトピー性皮膚炎、治療中の乾癬(かんせん)など、他の皮膚症状と見間違えやすく、皮膚科医でも診断の非常に難しい症例です。よって患者さん自身が、菌状息肉症の初期症状から皮膚悪性リンパ腫を判断することは極めて困難といえます。

菌状息肉症の紅斑期
宮垣朝光先生ご提供

菌状息肉症が扁平浸潤期へ進行すると、紅斑の赤みと表面のざらつきが強くなり、皮膚に厚みが出てきます。扁平浸潤期には、紅斑期にはなかったかゆみが出ることもあります。多くの患者さんは、この段階で異常に気付き、菌状息肉症と診断されます。

宮垣朝光先生ご提供

菌状息肉症を放置した場合、腫瘤期に進行することがあります。ただ、多くの患者さんが扁平浸潤期で異常に気付き、病院にかかるため、腫瘤期まで進行することはまれです。腫瘤期には、結節(直径1センチメートル以上の皮膚の隆起)が発生し、かゆみが出ることがあります。皮膚がみ、感染症にかからない限り、この段階でも痛みはほとんどありません。

皮膚悪性リンパ腫の腫瘤期
宮垣朝光先生ご提供

セザリー症候群は菌状息肉症に非常に近い疾患ですが、血液中にセザリー細胞と呼ばれる異常リンパ球を認めることで診断がつきます。2013年のデータでは全国383症例の皮膚悪性リンパ腫のうちセザリー症候群は2例と、比較的まれな疾患です。セザリー症候群では強いかゆみを伴い、紅皮症(全身が赤くなり皮膚が剥がれる)、リンパ節の腫れなどの症状が表れます。皮膚悪性リンパ腫のなかで唯一、発熱するケースがあるタイプの疾患です。患者さんの平均年齢は50〜60歳で、他の皮膚疾患と見分けがつきにくいため、早期の発見は非常に困難です。

セザリー症候群
宮垣朝光先生ご提供

皮膚原発未分化大細胞型リンパ腫はT細胞生リンパ腫の一種で、菌状息肉症に次いで2番目に多い疾患です。未分化大細胞型リンパ腫はリンパ節を原発とすることもありますが、皮膚を原発とすることもあります。写真のような結節のほかに、浸潤を触れる(少し隆起し、ざらざらとした)紅斑、潰瘍(かいよう:皮膚深部におよぶ組織の欠損)を伴う腫瘤などが症状として表れます。

皮膚原発未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)
宮垣朝光先生ご提供

成人T細胞白血病・リンパ腫は、皮膚悪性リンパ腫のなかで日本に比較的多くみられる疾患で、HTLV-1というウイルスが原因で引き起こされます。成人T細胞白血病・リンパ腫は血液・全身性の疾患であり、症状によって4つに分類されます。そのうち「くすぶり型」の中には、皮膚にのみ症状が現れる症例が含まれており、そのようなケースに対しては皮膚科的治療を試みます。

成人T細胞白血病・リンパ腫は、九州地方での発症が圧倒的に多く、HTLV-1ウイルスが発症の原因となっていることと関係していると考えられます。

皮膚悪性リンパ腫には前述したもの以外にも多くの種類があり、生存率はその種類と進行状態によって異なります。皮膚悪性リンパ腫でもっとも多い菌状息肉症の場合、初期段階で発見できれば10年生存率が95〜100%と予後がよく、進行した状態であれば5年生存率は20〜50%ほどです。

皮膚悪性リンパ腫のなかには、まれに自然治癒するケースもあります。たとえば、皮膚原発未分化大細胞型リンパ腫では皮膚の異常が一部または完全に自然消退することもあります。いずれにせよ皮膚悪性リンパ腫の多くは予後がよいため、大きな心配はいらないケースが多いです。しかし全身の紅斑や、ドーム状に盛り上がったできものが認められる場合には、皮膚悪性リンパ腫ではないとしても悪性腫瘍のリスクがありますので、なるべく早期に皮膚科を受診しましょう。

皮膚悪性リンパ腫はその名の通り皮膚に症状が現れ、全身どこにでも発生する可能性があります。一方で、皮膚悪性リンパ腫の種類によって、好発部位に一定の傾向がみられることもあります。たとえば菌状息肉症の場合は、背中やお尻など日光の当たりにくい場所に発生しやすく、反対に紫外線の当たりやすい顔は発生しにくい傾向にあります。また、B細胞性の皮膚悪性リンパ腫である節外性辺縁帯B細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞(ろほう)中心B細胞リンパ腫は、比較的顔に発生しやすい傾向があります。

前述のように、皮膚悪性リンパ腫の種類によって症状は少しずつ異なりますが、いずれも皮膚の変化以外に自覚症状がほとんどなく、患者さん自身で早期に発見することは非常に困難です。

ただし、皮膚悪性リンパ腫は、菌状息肉症のように長い年月をかけて徐々に進行していくケースも多く、急激に悪化することは非常にまれです。また皮膚症状が小さな紅斑である場合の多くは予後がよいため、早期発見できなくとも大きな心配はいりません。

皮膚T細胞リンパ腫の約半数を占める菌状息肉症は、前述の通り長い年月をかけて、紅斑期から扁平浸潤期、腫瘤期へと進行していきます。菌状息肉症の進行速度は多くの場合ゆるやかなため、発症した患者さんのうち75%は、紅斑期から扁平浸潤期までの症状にとどまります。

記事2『皮膚の悪性リンパ腫(菌状息肉症など)の治療とは?』では、皮膚悪性リンパ腫の治療法、今後の展望についてお話します。

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