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希少疾患の1つ“神経内分泌腫瘍(NEN)”とは――症状や診断、治療選択肢について

希少疾患の1つ“神経内分泌腫瘍(NEN)”とは――症状や診断、治療選択肢について
稲垣 冬樹 先生

国立国際医療センター 肝胆膵外科 診療科長

稲垣 冬樹 先生

目次
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神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう)は、全身のさまざまな臓器に発生し得る腫瘍です。日本における罹患率は10万人あたり約3人(2016年時点)で、いわゆる希少疾患といわれる病気であるものの、診断技術の向上などにより近年では患者数が増加傾向にあるといわれています。今回は、神経内分泌腫瘍の特徴や検査、治療選択肢について、国立国際医療センター 肝胆膵外科 診療科長である稲垣 冬樹(いながき ふゆき)先生にお話を伺いました。

*本記事では膵・消化管神経内分泌腫瘍について紹介します。肺神経内分泌腫瘍については病態が異なる部分があります。

神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine neoplasm:NEN(ねん))とは、神経内分泌細胞(ホルモンなどを分泌する細胞)から発生する腫瘍(しゅよう)をいいます。神経内分泌細胞は体のさまざまな部分に存在するため、神経内分泌腫瘍もさまざまな臓器に発生するものの、日本人では特に直腸や膵臓(すいぞう)に発生する頻度が多いとされています。

比較的進行がゆっくりで、もともとはカルチノイド(“がんもどき”を意味する)と呼ばれていましたが、ほかの臓器へ転移する例もあり、決して良性とは言い切れないことから“神経内分泌腫瘍”という名称に変更されました。

原因はいまだ解明されていないものの、一部の神経内分泌腫瘍では遺伝的要因などが関与すると考えられています。

神経内分泌腫瘍は先述のとおり、遠隔転移をする悪性度の高いものもありますが、中には良性腫瘍に近い経過を示すものもあり、生物学的悪性度の幅が広いのが特徴です。

膵臓や消化管に発生した神経内分泌腫瘍*は大きく4つに分けられます(NEC、NET-G1~G3)。

それぞれの分類は、がん細胞の増殖スピードの指標となるタンパク質(Ki-67)の陽性率によって決定します。 Ki-67が低く分化度**が高い(細胞の形態が正常に近い)ものは神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET(ねっと))、Ki-67が高く分化度が低い(元の細胞の特徴を保っていない)ものは神経内分泌がん(Neuroendocrine carcinoma:NEC(ねっく))に分類されます。また、神経内分泌腫瘍(NET)はさらにG1~G3の3つに分けられ、数字が大きくなるほど悪性度が高くなります。

*肺や気管支に発生した神経内分泌腫瘍はこれと異なる分類を用いる。

**分化度:元の正常な細胞の形を維持している程度。

神経内分泌腫瘍は、ホルモン分泌などにかかわる神経内分泌細胞に由来することから、過剰に作られるホルモンの種類によってさまざまな症状が現れます。このようなホルモン分泌によって症状を引き起こすものを、“機能性”神経内分泌腫瘍といいます。

一方で、ホルモンによる症状は引き起こさないものもあり、その場合は“非機能性”神経内分泌腫瘍といいます。

このほか、PPオーマ、GRFオーマ、PTHオーマと呼ばれるものもあります。

非機能性神経内分泌腫瘍の場合は、ホルモンによる症状は現れないものの、腫瘍が大きくなり周囲の臓器を圧迫すると腹痛や背部痛、腹部膨満感、食欲低下などを引き起こすことがあります。

神経内分泌腫瘍とはいうものの、実際は“非機能性”の割合のほうが多く、症状を感じて自ら受診される患者さんはあまり多くありません。当院を受診される方の多くも、健康診断などで偶然発見されています。具体的には、大腸内視鏡検査で粘膜の盛り上がりを指摘されたり、CT検査や超音波検査で膵臓の腫瘍を指摘されたりして、受診に至るケースがほとんどです。もし健康診断でこれらが指摘された場合には、できるだけ早めに医療機関を受診していただきたいと思います。

なお、大腸については便潜血検査もありますが、神経内分泌腫瘍は粘膜の下に発生する腫瘍であり、便潜血が陽性となることは少ないため、早期発見のためには大腸の内部を直接観察できる内視鏡検査が有用です。

神経内分泌腫瘍が疑われた場合、主に以下のような検査が行われます。

腫瘍がどこにあるのか、またその大きさや広がりを確認するため、造影剤を使ったCT検査やMRI検査を行います。

消化管由来の神経内分泌腫瘍が疑われる場合には、内視鏡検査も重要です。内視鏡で消化管の中を直接確認し、腫瘍が見つかった場合には組織を採取して(生検)、後述する病理検査を実施します。膵臓の腫瘍の場合は、超音波内視鏡(EUS)という内視鏡の先端に超音波装置がついた医療機器を使って検査・組織の採取をすることもあります。

内視鏡などで採取した腫瘍の組織を顕微鏡で調べる検査です。腫瘍細胞の形や増殖のスピードなどを詳しく調べ、神経内分泌腫瘍の種類(悪性度)を判定します。悪性度によって治療方針が大きく変わるため、神経内分泌腫瘍の診療において非常に重要な検査となります。

CT検査やMRI検査では見つけにくい小さな病変や、転移の有無を確認する際に、ソマトスタチン受容体シンチグラフィ(Somatostatin Receptor Scintigraphy:SRS)という検査を行うこともあります。この検査は、神経内分泌腫瘍の多くが持つ、ソマトスタチン受容体という特定のタンパク質を利用した画像検査です。

先方提供

ソマトスタチン受容体と結合する薬を注射し、専用のカメラで撮影すると、腫瘍のある場所が映し出されるため、病変の位置を特定することが可能になります。

なお、詳しくは後述しますが、放射線治療の適応を判定する目的でも用いられます。

切除が可能な神経内分泌腫瘍は、基本的に手術が第一選択となります。手術の方法については腫瘍ができた場所によって異なりますが、膵臓の場合は腫瘍だけをくりぬくように取り除く“核出術”や、膵臓の一部を切除する“膵頭十二指腸切除術” “膵体尾部切除術” “膵中央切除術”などを行います。

また、大腸や胃など消化管にできた神経内分泌腫瘍は、小さな腫瘍であれば内視鏡切除術(内視鏡を使って腫瘍を切除する方法)の適応になります。ある程度の大きさのものはリンパ節郭清を伴う外科的切除の適応になります。

手術が難しい場合や、転移がある場合などには、薬物療法を検討します。神経内分泌腫瘍の薬物療法には、主にソマトスタチンアナログ・細胞障害性抗がん薬・分子標的治療薬の3つの選択肢があります。どの薬を選択するかは、腫瘍のタイプや進行度、患者さんの状態などを総合的に判断して決定していきます。

ソマトスタチンアナログ

人工的に作られたホルモン製剤で、ソマトスタチン受容体に結合することで、神経内分泌腫瘍の増殖を抑えたり、ホルモンの過剰分泌による症状を和らげたりする効果が期待できます。

細胞障害性抗がん薬

いわゆる従来から用いられている抗がん薬で、細胞の増殖を抑えるはたらきがあります。

分子標的治療薬

従来の抗がん薬とは異なり、腫瘍の増殖に関わる分子のはたらきをピンポイントで攻撃する薬です。

肝臓など特定の臓器に転移がある場合は、その部位のみに対して治療を行うことがあり、これを局所療法といいます。たとえば、肝転移に対しては、肝動脈塞栓術(かんどうみゃくそくせんじゅつ)(TAE)やラジオ波焼灼術などの治療法があります。

放射線治療には、外照射と内照射という方法があります。外照射は体の外側から放射線を照射する方法で、骨転移がある場合などに行います。

一方、内照射は体の内側から放射線を照射する方法です。近年、神経内分泌腫瘍が持つソマトスタチン受容体を利用した“ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)”という治療法が日本で保険承認されました。詳しくは次のページで説明しますが、手術ができない神経内分泌腫瘍の新たな治療選択肢として注目されています。

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    稲垣 冬樹 先生

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