IgA腎症は慢性糸球体腎炎の一種で、日本人の慢性腎炎の多くの部分を占める病気です。IgA腎症の患者さんの中には何も治療をせず経過観察だけで過ごすケースや、積極的な治療が必要なケースなど様々です。また治療方法も扁桃腺の摘出やステロイドパルスなど比較的新しい方法も登場しています。そこで、IgA腎症の治療について聖路加国際病院腎臓内科部長の小松康宏先生にお話を伺いました。
IgA腎症の治療法は大きく
・副腎皮質ステロイドによる免疫抑制療法
・RA系阻害薬による降圧療法
・生活習慣改善、食事療法
に分けられます。
さらに、口蓋扁桃摘出術、抗血小板薬、n-3系脂肪酸(魚油)も治療の選択肢と考えられています。
これらの治療法はすべてのIgA腎症の患者さんに一律に行うのではなく、腎機能(GFR)、蛋白尿の程度、腎生検の組織所見などから総合的に判断して決めていきます。蛋白尿が陰性、腎機能も血圧も正常で、血尿だけが認められる患者さんでは、特別な薬物療法をすることなしに定期的な経過観察でよいこともあります。
蛋白尿が高度で、血圧も高めの場合には、これらの治療法をすべて行うこともあります。いずれにしてもよい生活・食事習慣をつづけることは大切であり、適度な運動を行い、肥満を防ぎ、禁煙することが奨められます。
塩分の摂取量が増えると血圧が高くなる傾向がありますが、高血圧は腎臓への負荷が高まるので、IgA腎症には悪影響を与えます。そこで塩分摂取を控えるとともに、降圧薬を用いて血圧を正常範囲に保ちます。高血圧の薬の中でもACE阻害薬やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬などRA系阻害薬と呼ばれる薬は、血圧を下げる作用に加えて、蛋白尿を減らし、腎臓を保護する作用ももっています。蛋白尿が0.5g/日以上ある場合には、RA系阻害薬を用いて血圧を130/80mmHg未満に保つようにしましょう。
蛋白尿が1日1g以上で、腎機能が正常範囲(GFR≧60mL/min/1.73m2)の患者さんでは、副腎皮質ステロイド療法が腎不全に進行することを防ぐと考えられます。経口プレドニゾロン 0.8~1.0mg/kg/日で治療を開始し1~2カ月間続け、その後6か月程度かけてゆっくり減量していきます。
ステロイド・パルス療法といって、点滴で副腎皮質ステロイド(メチルプレドニゾロン)を3日間連続投与するのを2カ月毎に合計3回繰り返し、点滴と点滴の間は少量の経口副腎皮質ステロイド薬を服用する方法もあります。
副腎皮質ステロイド療法は効果も期待されていますが、骨粗しょう症、白内障、緑内障、糖尿病悪化、感染リスク増大などの副作用に注意が必要です。治療開始前には、B型肝炎や結核にかかっていないことを確認します。治療中に感染症を疑わせる発熱などの症状がみられたら、担当の先生に連絡しましょう。
口蓋扁桃摘出術+ステロイド・パルス療法は日本で広まっている治療法です。IgA腎症は免疫グロブリンA(つまりIgA)が腎臓の糸球体に沈着することによって生じると説明しましたが、IgAは扁桃腺で生成されます。IgA腎症の患者さんでは、過剰な免疫応答によって質が変わったIgAが過剰産生され、腎糸球体に沈着し、腎炎が進んでいくと考えられるので、異常なIgAの発生源である扁桃腺を取り除くことで、腎炎の進行を防ぐことができるだろうと考えるのは理にかなっています。
IgA腎症患者では扁桃摘出後に血清IgA値が低下することが示されています。また、扁桃腺摘出術+ステロイド・パルス療法を行うと、尿蛋白が減少し、腎不全の進行も抑えられることを示した研究も日本から多く発表されています。この治療法が、将来の腎不全への進行を防ぐことができるかどうかを科学的な見地から証明するには、扁桃腺摘出術+ステロイド・パルス療法を行った患者群と、行わない患者群の経過を長期間(20年)観察する必要があります。そういう意味では、現時点で扁桃腺摘除+ステロイド・パルス療法の有効性が証明されているとはいえません。
現時点で、効果があるかもしれないと考えて治療しても、2040年ころには、「2010年代の治療は効果がなかった」との結論になるかもしれませんし、あるいは、「21世紀初頭に日本で広まった扁桃腺摘出術+ステロイド・パルス療法はきわめて有効な治療法である」との結論がでるかもしれません。タイムマシンに乗るわけにはいかないので、現時点で最善と考えられる治療法を担当の医師と十分に話し合って選択することが大切です。私自身は、蛋白尿が多いIgA腎症の患者さんには、有効性はまだ十分に証明されていないものの、腎不全の進行を抑制できる可能性が期待できる治療法であることと、副作用を説明したうえで、扁桃腺摘出術+副腎皮質ステロイド療法をお奨めしています。
IgA腎症は腎生検、約20年で3~4割の患者さんが透析に至るといわれていましたが、副腎皮質ステロイド療法やRA系阻害薬が使われるようになった1990年代以降は予後が改善しています。IgA腎症の経過も個人差が多きいので、一律に「IgA腎症は・・・」ということはできません。治療法や予後予測については、診断時の腎機能(GFR)、血圧、蛋白尿の程度、腎生検の所見などで異なるため担当医と話し合ったうえで治療法を選択してください。
尿潜血反応が(-)~(±)もしくは尿沈渣赤血球が5/HPF未満を血尿の寛解、尿蛋白定性反応が(-)~(±)もしくは0.3g/日未満を蛋白尿の寛解といいます。扁桃腺摘出術+副腎皮質ステロイド療法を行うと6、7割が寛解するとの報告もあります。尿所見が寛解した場合、透析が必要になる末期腎不全に進行する可能性は低くなりますが、ゼロではありません。
尿所見がいったん寛解しても、その後に悪化することもあるので、自己判断で外来通院をやめることがないようにしてください。外来受診の間隔は、尿蛋白や腎機能の程度によって異なります。尿蛋白が寛解して、(-)になっていれば1年に一回の定期受診でよいこともありますし、尿蛋白が1g/日以上で腎機能も低下していれば2~4週間毎の通院が必要になることもあります。
薬物療法中はもちろん、薬物療法が不要な患者さんでも、生活習慣の改善は必要です。塩分と蛋白質の摂取量、飲水量を適切にすることが大切です。かつては、運動は腎臓によくないと言われていた時代もありましたが、最近は運動制限は不要であるとの考えが主流となっています。むしろ、健康の面から運動不足にならないよう、適度な運動を継続することが奨められます。
聖路加国際病院 副院長/腎臓内科部長
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