院長インタビュー

心ある医療を目指して先端技術を積極的に導入する札幌医科大学附属病院

心ある医療を目指して先端技術を積極的に導入する札幌医科大学附属病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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北海道札幌市にある札幌医科大学附属病院は、30の診療科をもつ総合病院です。2024年7月現在、北海道で唯一の高度救命救急センターや基幹災害拠点病院に指定されているなど、地元札幌だけでなく、北海道全域の医療を支える役割も果たしています。先進医療を積極的に取り入れ、医療サービス向上を目指す同院の取り組みや今後について、病院長である渡辺 敦(わたなべ あつし)先生に伺いました。

CAP: 札幌医科大学附属病院外観(札幌医科大学附属病院ご提供)
札幌医科大学附属病院外観(札幌医科大学附属病院ご提供)

札幌医科大学附属病院は、1950年(昭和25年)に戦後の新制医科大学の第一号として札幌医科大学が誕生すると同時に開院しました。2024年7月現在、30診療科、844病床をもつ、公立医科系総合病院となっています。

当院の目的は、患者さんに信頼、満足、安心していただける質の高い医療サービスを提供することです。同時に先端医療の研究・開発や、地域を担う医療人材の育成を行うことを柱としております。

1996年(平成8年)には、高度な医療技術を提供する特定機能病院の承認を受けました。また2002年(平成14年)には北海道初の高度救命救急センターを設置しました。そのほか、北海道ブロックのエイズ治療拠点病院、基幹災害拠点病院、北海道リハビリテーション支援センター、地域がん診療連携拠点病院、肝疾患診療連携拠点病院などにも指定されています。

2024年8月には既存棟改修工事が完了し、診療機能がさらに充実します。患者さんがより安心して治療を受けられるだけでなく、医師やコメディカルスタッフにとっても働きやすい病院を目指して、新たな一歩を踏み出すことになります。

近年では手術支援ロボットを導入している病院も増えてきました。本院は大学病院として北海道で初めて手術支援ロボットを導入し、先進的な治療を実践してきました。

代表的な手術支援ロボットとしては、ダヴィンチ、Hugo、hinotoriの3つが挙げられますが、当院ではそのすべてについて院内に導入し、症例検証をしております。

ダヴィンチについては、従来型のXiと、新型のSPの双方を導入しております。4つの創から4本のアームを入れていたXiに対して、SPは1つの創から4本のアームを操作するようになっていて、より侵襲が少なく患者さんへの負担も少なくなることが期待できます。ダヴィンチはアタッチメントなども豊富にそろっていて、他院での使用例も多く、安心して使えるといっていいでしょう。当院にはダヴィンチによる手術の指導ができるプロクター医師が複数名在籍しており、泌尿器科、消化器外科、呼吸器外科、耳鼻咽喉科、婦人科で手術を実施しています。

Hugoについては、重量が約300kgと比較的軽く、アームがセパレートタイプなところが利点となっています。移動もしやすいので、手術室内での配置に余裕ができるのもメリットで、今後の開発の進度によってはさらに使いやすくなっていくことでしょう。hinotoriは機能としてはダヴィンチとほぼ同等で、国産ロボットということもあり徐々に他院でも導入が増えています。

当院のロボット支援手術の実施件数は、年間約300件です。これまでの検証結果を踏まえて、症例に合わせて最適な手術支援ロボットを選択し、患者さんの負担をより少なくできるよう取り組んでおります。

MRI(磁気共鳴画像法)検査は、狭い空間に入らなければならないこと、画像撮影にかなりの騒音が伴うことから、患者さんにとっては大きな負担となっていたことでしょう。

当院では2024年中に、AIを使ったMRI検査機器を導入することとなりました。どの角度から撮影すれば患部が一番分かりやすいかといったことをAIが判断して、半自動的に撮影してくれるので、結果的に撮影時間が従来のほぼ半分になる予定です。出力されるMRI画像も、AIによって調整されているので、非常に画像が精密になり診断しやすくなっています。

当院は今後も患者さんの負担を軽くし、よりよい診断ができることを期待して、新しい機器を積極的に導入してさらなる医療サービスの向上を目指します。

当院ではソフトメーカーと共同で、医用画像解析ソフトの開発に取り組んできました。医用画像の解析には、過去の画像と比較しての変化を見ることが重要ですが、その比較を短時間でできる解析ソフトです。

たとえばX線写真で、新しい影があるかどうか、元からあった影に変化はないかなどが解析できます。また肺に影があったとして、影の原因が間質性肺炎なのか、それとも別の要因なのかといったことも、ある程度は分類できるようになっています。

これまで約5年間、研究開発を続けてきましたが、ようやく商品化の目処がつきました。この画像解析ソフトを導入すれば短時間で診断がつき、早期のうちに治療に入れることでしょう。こういったAIや画像解析ソフトの分野は日進月歩ですから、呼応するように今後も継続して研究開発を続けていきたいと考えています。

2012年に当院と北海道が策定した”札幌医科大学施設整備構想”に基づいて、病棟の増改築を行ってきました。

本年8月に終了する南北病棟の改修では、1病床あたりの面積をこれまでより広くするなど患者さんの療養環境に配慮しており、平成30年から供用開始している西病棟も含め、個室もこれまで以上に確保しています。近年はプライバシーを重視する患者さんが増えていますが、個室病床なら周囲を気にすることなく療養に専念できることでしょう。

この改修だけにとどまることなく、これからも患者さんが安心して治療を受けられる環境作りに注力していきたいと思っています。

先方提供
個室の一例(札幌医科大学附属病院ご提供)

2024年5月、クラウドファンディングサービス"READYFOR"と業務提携を行い、”外科手技トレーニング施設の環境整備””患者さんへの治療説明用動画を作成”といった5件のプロジェクトを公開しました。

当院が目指す地域医療への貢献を果たすためには、設備費用や研究資金など金銭面での充実が欠かせません。その手段のひとつとして、初のクラウドファンディングサービスの利用に踏み切りました。

おかげさまでどのプロジェクトも皆様からの多大な支援をいただき、心より感謝しております。今後はこの資金をどれだけ活かせるかが問われることになるでしょう。皆様のご支援を無駄にしないためにも、さらなる医療の質の向上に邁進していきます。

当院では、先端技術を積極的に取り入れています。しかし、ただ先端技術を導入しただけでは、医療の質の向上には繋がりません。技術を扱う者の心構えによっては、宝の持ち腐れになってしまうこともあります。

AIなどの先端技術を患者さんへの医療サービス向上に繋げるためには、心ある医療人の育成が必須といっていいでしょう。当院では大学病院として、また特定機能病院として、その育成にも力を入れています。

例として、当院の2つの取り組みをご紹介したいと思います。ひとつは消化器内科の仲瀬裕志先生が、2021年から取り組んでいる炎症性腸疾患(IBD)遠隔診療です。

潰瘍性大腸炎クローン病などのIBDは近年患者さんが増えつつある病気ですが、北海道内では診断や診療のできる専門医の数も少なく、地域によって医療格差が生まれています。

当院のシステムでは遠隔地の病院とオンラインで繋がり、専門医である仲瀬先生が問診や検査結果の共有をすることで、専門医のいない地域でも都市部の札幌と同様の医療が受けられます。さらに診療の場に若手の医師やコメディカルスタッフが同席することで、次代の専門医の育成にも繋がるという利点があります。

もうひとつは、臨床研修・医師キャリア支援センター長を務める総合診療科の辻喜久先生が行っている”たすきがけ研修”です。

当院の卒後臨床研修プログラムは3コースあり、2年間のプログラムの内、1年間をたすきがけ研修病院で、もう1年間を当院で研修することができるコースがあります。また、多様な協力施設での短期研修を行うことも可能です。たとえば、総合診療科での研修中に、道立江差病院で4週間の研修を行うといった形です。どんな患者さんとどう接したいのか、どんな医師を目指すのかといった研修医の希望に合わせて、研修場所や内容が選択できるシステムです。

研修プログラムのオーダーメイドと言い換えてもいいでしょう。ただ研修を受けるのではなく、地域医療の実態に触れて、医師という仕事に対しての心構えを新たにしてもらうために、この取り組みを行っています。

遠隔診療にしろ、たすきがけ研修にしろ、北海道内各地の医療機関との連携が必要です。地域による医療格差をなくしたい、未来の地域医療を支える人材を育成したいと、お互いに想いをひとつにして連携をとっています。

今後もさらに、地域とのネットワークの強化を図っていくつもりです。それが当院の患者さんの満足度向上はもとより、北海道全体の医療サービスの底上げに繋がると信じています。

実績のある医師をチェック

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