札幌市中央区にある札幌南一条病院は1981年の開設以来、心臓や腎臓の病気を中心に地域の慢性期医療を担ってきました。他に先がけて透析患者の無料送迎を行い、心腎代謝連関を考慮した診療に力を入れる同院の役割や今後について、院長である土田 哲人先生に伺いました。
当院は1981年に開設された当初より、循環器、腎臓、呼吸器の3つを柱とした診療を行ってまいりました。その後2003年に呼吸器の部門を肺がんとそれ以外の慢性疾患の2つに分離して肺がん治療に特化した札幌南三条病院が新設されたのに伴い、当院は主に循環器と腎臓、呼吸器(慢性疾患)の病気を診療することで地域の方々の暮らしを支えてまいりました。
札幌市の中でも中央区は医療資源に恵まれ、近隣には専門性の高い診療を行う医療機関が複数あります。その中で当院は、ある程度状態が落ち着いている慢性期の患者さんを担当し、透析療法、外来診療、人間ドッグなどに対応しています。またコロナ禍では症状が落ち着いた患者さんを積極的に受け入れるなど、地域医療にも力を注いでおります。
2階にある透析室では“患者さんにとって最良の透析医療の提供”を基本理念として、血液透析や腹膜透析、血液浄化療法全般を行っています。当院では透析患者さんの送迎を無料で行っているほか、“夜間透析”や“ゲスト透析(旅行者透析)”にも対応しています。1日3便の送迎バスではおおむね60人ほどの患者さんが通院されており、広々とした開放的な空間で透析治療を受けていただけます。また透析治療による筋力低下予防を目的に、透析運動療法にも積極的に取り組んでいます。
外来患者さん専用の透析ベッドは48床、入院専用透析ベッドは22床あり、この他に4階と5階の病棟には重症透析患者さん用の個室をそれぞれ2つご用意しています。こちらの個室は陰圧換気・個別空調になっており、コロナ禍では人工呼吸器を装着した患者さんの透析治療にも活用しました。
日中はお仕事などで忙しいという患者さんには、午後5時からの夜間透析をご利用いただくことが可能です。当院はどのエリアからもアクセスのよい中央区にあり、敷地内には駐車場もございますので、お仕事帰りにも無理なく通院していただけるのではないでしょうか。また旅行や出張などで札幌を訪れる患者さんに向けたゲスト透析(旅行者透析)も行っておりますのでご相談ください。
心臓と腎臓は密接な関係にあり、どちらか一方の機能が低下するともう一方の臓器も機能低下に陥ることがあります。これを心腎連関といいます。心不全と慢性腎臓病の関係性は以前から指摘されてきましたが、最近はこれに内分泌代謝疾患の糖尿病が加わって“心腎代謝連関”という概念が主流になってきています。心臓が悪いからといって心臓の治療だけをすればよいわけではなく、腎臓や糖尿病の状態を踏まえた包括的な治療を行う必要があるのです。
幸い当院には日本糖尿病学会認定の専門医が在籍しており、糖尿病に対する治療と並行して腎臓病や心臓病の治療を行うことが可能です。腎臓病の患者さんが糖尿病を合併していたり、心不全の患者さんが腎臓病を合併していたりするケースは珍しくありませんが、当院ではお薬を使った治療に加えて管理栄養士による食事指導を実施することにより、病気と共に生きる患者さんをサポートしています。
患者さんの命を救うことが急性期病院の使命だとするなら、当院のような慢性期病院の役割は患者さんの日々の暮らしを支えることだと言えるでしょうか。当院の基本理念である“専門性と質の高い医療を通して地域の発展に寄与する”という言葉どおり、地域のニーズに即した医療を提供することが私たちの役割だと考えています。
地域の医療ニーズに対応するため、当院では2002年に睡眠時無呼吸症候群(SAS)専門外来を開設しました。また、日本東洋医学会認定の漢方専門医による漢方外来では、長引くコロナ後遺症に悩む患者さんに対する治療も行っています。
2020年7月に完成した新病院は、高性能な省エネ建材や省エネ設備機器を導入することにより、病院全体の消費エネルギーを削減することを目指して設計されました。CO2排出量を削減することは、この地域のみならず地球規模の温暖化抑制にも貢献できるものと考えています。
地下1階・地上7階からなる建物は合計147の病床を有します。診察や検査がワンフロアで完結する1階、ラウンジを備えた透析室がある2階、リハビリセンターがある3階、その上の4階から6階は入院施設になっています。人工透析に特化したクリニックは多数あるものの、外来での透析治療に加えて入院透析にも対応できる点が当院の強みです。“老人保健施設に入所するにあたってリハビリで体力をつけたい”といったご要望にもお応えできるかと思いますので、お気軽にご相談ください。
私は札幌医科大学の出身で、当時の第二内科で研鑽を積みました。第二内科の守備範囲は循環器、腎臓、代謝内分泌と幅広く、ちょうど当院の診療領域と重なります。若い頃の私は「いろいろな病気を診られるようになって地域に貢献したい」との思いで必死に学んだものですが、そうした全ての知識や経験が今、大いに役立っていると感じます。当院においても難病に指定されている希少疾患の“心臓サルコイドーシス”の患者さんを診療しており、自分のライフワークとして今後も引き続き取り組んでまいります。
当院には私のほかにも心臓、腎臓、糖尿病のスペシャリストといえる医師が複数在籍し、1人の患者さんをさまざまな角度からサポートしておりますが、今後は近隣クリニックとの連携をよりいっそう深めて、地域に暮らす患者さんを地域の中で支えるような仕組みづくりを進めてまいります。心臓や腎臓、糖尿病をはじめとした生活習慣病についてご不安なことがありましたら、お気軽にご相談いただければと思います。
*病床数や医師、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年7月時点のものです。