院長インタビュー

地域を越えて貢献する防衛医科大学校病院が実践する医療

地域を越えて貢献する防衛医科大学校病院が実践する医療
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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防衛医科大学校病院は、自衛隊の医官と看護官等の育成と地域医療への貢献を主たる目的とする大学病院として、1977年に埼玉県所沢市に開設されました。災害時の医療提供などを通して得た技術や知識を広く地域に還元することが、同院の使命であるとされています。

幅広い方々に医療で貢献する同院の取り組みとは、どのようなものなのでしょうか。病院長である塩谷 彰浩(しおたに あきひろ)先生にお話を伺いました。

当院は、1977年に自衛隊の医官と看護官等の育成と地域医療への貢献を主たる目的で設立されました。医官は、有事の際に活動する自衛隊の方や、災害や紛争でけがをされた方々への医療を担います。そのため当院では、災害医療・感染症対策・救急医療に特に力を入れています。

また、医官の育成の場としての役割を担うだけでなく、日々の診療を通して得た技術と知識を地域の皆さんに広く医療で還元することが当院の使命であると考えています。その一環として、病院機能の充実を図り、1997年には特定機能病院の認定を取得しました。特定機能病院は高度な先端医療を提供し、一般病院では対応が難しいけがや病気に対応できる能力を有する病院が指定されるもので、多くの大学病院が指定されています。

当院の救命救急センターでは、三次救急をはじめ、年間約5000人の救急患者さんを診療しています。また、特徴的なものとして、“外傷・熱傷・事態対処医療センター”を2024年4月に設置しました。このセンターは診療科ごとの縦割りによらない多科複合診療体制を構築し、傷病受傷から社会復帰までに至るシームレスな医療を施すとともに、医官及び看護官に対しては、初期診療からリハビリテーションまでの一連の技術を一元的に習得する体制を構築することを目的としております。まだ開設したばかりで、これから本格始動に向け準備を進めていく予定です。

当院の患者さんは所沢市のほか、入間市、狭山市、都内からも来られています。当院は地域を越えて、どのようなときも医療で貢献できる病院を目指して職員一人ひとりが技術や知識を磨き、地域医療に還元してまいります。

当院は、地域災害拠点病院に指定されています。そこでDMATを組織し、地震や水害などの災害が発生したときに医療提供を行っています。

DMATとは、災害の急性期に当たる48時間以内に災害現場で医療提供を行う専門のチームです。当院のDMATは、平成27年9月関東・東北豪雨や令和6年能登半島地震などの際に、県の要請に基づき、被災患者・地域に対する救援・復旧支援を行いました。

当院ではDMATを中心に訓練を行うことによって、災害時に迅速な対応ができる体制を整えています。

医療が必要とされるのは、災害急性期だけではありません。大きな災害を経験された方は、誰もが心に傷を負い、強いストレスを感じます。このような状況が続くことで、災害時を繰り返し思い出し、眠れなくなり、ストレスや不安を感じる方が多くいらっしゃいます。これは、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)の症状のひとつで、カウンセリングを受ける必要があります。

PTSDは、長期化してしまうと、うつ病アルコール依存症などの合併症も誘発する場合もあります。それを防ぐために、災害時における心のケアは、体の治療と同様に大切です。

東日本大震災の際には、当院の精神科の医師が、被災された方へのメンタルケアを行いました。今後は、被災された方が災害時のストレスを一人で抱えてしまわないよう、相談できる環境をよりいっそう整備していきます。

感染症・呼吸器内科では、肺炎結核のほか、HIV感染症や海外から持ち込まれる輸入感染症など幅広い感染症に対応しています。当院では、感染症・呼吸器内科と感染対策室が協力し、感染症患者さんの治療を行う体制を整えています。

当院における感染症対策の特徴は、エボラ熱出血や新型インフルエンザなどの国際的に脅威となる感染症対策に力を入れている点です。自衛隊員の方々が、さまざまな国や地域で国連平和維持活動や災害派遣などを行っていることから、感染症対策は急務であると考えています。

特に海外渡航後、咳や熱の症状がある場合には、そのまま放置せずに速やかに受診してください。

尿道狭窄症は、外傷や手術後の後遺症などが原因で尿道が傷つくことによって、尿道内が狭くなり、排尿しづらくなる病気です。泌尿器科では、尿道狭窄症に対し、尿道形成術を行っています。

尿道形成術には、尿道が狭くなった部分のみを切除する術式と、代用組織を用いて尿道を形成する術式の2つの術式があります。どちらの術式を選択するかは、尿道狭窄の原因や部位、大きさなどから総合的に判断しています。

泌尿器科では、これからも患者さんの生活の質を保つための治療に努めていきます。

のどは呼吸をはじめ飲食の飲み込みや発声など重要な機能を持っているため、がん手術の際も患者さんのQOL(生活の質)に配慮しなるべく機能を温存できる手術を行います。当院では従来の術式に比べて低侵襲(体に負担が少ない)で内視鏡を用いて行う“経口的咽喉頭部分切除術(Transoral video laryngopharyngoscopic surgery: TOVS)”を独自に開発し、積極的に行っています。対象は中咽頭、下咽頭、喉頭のがんで、適応のある方に行うことで従来の切開手術と比べて早期回復や嚥下機能維持がしやすく、合併症の発生率が低いなど、利点が多いのが特長です。

先にも述べましたとおり、当院は心停止や脳卒中など緊急対応を必要とする患者さんの受け入れを行っている三次救急医療機関です。救急患者さんが搬送されたとき、まずは救命救急センターで初期診断と初期治療を行います。その後、各診療科に救急患者さんを引き継ぎ、専門的な治療を行っています。

当院は、大規模災害時の医療活動や一般の医療機関では対応出来ない緊急性・専門性の高い重篤患者への対応など、経験豊富な医師が多数所属しています。そのため、災害医療や救急医療は当院の強みのひとつになっています。

当院の特徴として大腸がん診療に数多く取り組んでおり、下部消化管外科での手術数は年間400件以上となり、これまでに6,000例を超える大腸がん手術を行ってきました(2020年現在)。大学病院ならではの高度な外科的治療で、多くの患者さんにとって安全安心ながん治療を提供しています。

大腸がんは大腸にできたポリープを放置していると起こりやすい病気です。そのため、当院は医療の提供だけでなく、一般の方にももっと大腸がんについて知っていただきたいという思いから、外科学教授の上野秀樹先生がキャンサーネットジャパン主宰のブルーリボンキャンペーンに賛同し啓もう活動に一役買っています。ブルーリボンキャラバンという毎年行われる市民公開講座で、2017年には講演しました。

“顕微鏡で見た大腸がん~いろんなことがわかります~ 上野 秀樹”
https://www.youtube.com/watch?v=rKN718ET35I&t=59s

また上野先生は、大腸がんの患者さんの状態別のレシピや人工肛門のケア、公的サービスについてなど大腸がんに関するセルフケア本の出版にもかかわり、積極的な発信を行っています。
https://www.sociohealth.co.jp/book/detail/30260615/

高齢化の進む社会では、地域全体で住民の方の健康を支えることが大切です。そこで当院では、患者支援センターが主導して、地域の医療機関との医療連携に尽力しています。

入院が決定した患者さんには、入院生活への不安の軽減や退院後に活用出来る社会資源等の案内等を行い安心した入院生活が送れる様に取り組んでいます。さらに、退院後の療養生活の相談や経済的なお悩み等がある患者さん等にはご相談に応じるなど多岐にわたって対応しております。

引き続き、地域との医療連携の強化を図り対応してまいります。

当院は代表機関・参加機関として多くの臨床研究を行っております。特に肝・胆・膵外科が参加している“神経内分泌腫瘍の本態解明の研究”は、国立がん研究センターや香川大学病院をはじめとする複数の施設による共同研究により、稀少がんである神経内分泌腫瘍の解明を目指すものです。神経内分泌腫瘍は患者さんの数が年間に10万人当たり3~5人と少なく、また研究で使える細胞が不足していることから、解明がなかなか進まず、研究においても困難な状態であるため、2029年まで続く本研究の成果に期待をしています。

この研究のほか、さまざまな薬や機器、治療法についても取り組んでいます。われわれの研究が未来の医学の土台となるよう最善を尽くしてまいります。

また、当院では防衛医科大学校の免疫・微生物学講座教授である木下学先生が奈良県立医科大、埼玉医科大学とともに進めている人工赤血球の臨床研究にも協力しています。

血液型に関係なく投与でき、長期保管可能な人工赤血球製剤は、輸血を必要とする医療現場への貢献が期待され、すでに動物実験で産科危機的出血に対して人工赤血球を投与し救命に成功しています。さらに、早稲田大学と共同で人工血小板も開発しており、こちらも室温静置で長期保存できるため、医療現場に大きな福音となることが期待されています。

防衛医科大学校病院は、特定機能病院として、また地域の中核的な病院として地域の皆さまのお役に立つため、安全で質の高い医療の提供を心掛けています。また当院は地域での医療連携も大切に考えており、急性期に対する治療が落ち着いた方は、地域の先生方へ患者さんをご紹介して日々のケアをしていただけるよう、スムーズな連携とっています。

そのほかにも、防衛省の1組織として研究だけでなく自衛隊の医官と看護官等の育成を実施する施設として、一般の病院にはない役割を担っていますが、その責任をしっかりと果たすべくこれからも医療に貢献していきます。

今後も、これまで培ってきた経験や知識を地域の方へ還元し、未来の医療を築く病院であるよう力を注いでまいります。

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