体が動いてしまう:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部 医長、医学博士
向井 洋平 先生【監修】
私たちの体には3種類の筋肉がありますが、そのうち“骨格筋”と呼ばれる筋肉は手足や体幹などの運動を担っており、脳からの指令が神経を通って伝えられると収縮する仕組みになっています。そのため、通常は何かを避ける際に反射的に体を動かしたりする場合を除いて自分の意志以外で体が勝手に動いてしまうことはありません。
しかし、次のような症状がみられる場合は思いもよらない原因がある場合もあります。
これら自分の意志によらず生じる動きを不随意運動といいます。原因としてどのようなことが考えられるのでしょうか。
体が突然動いてしまうといった症状は、以下のような病気によって引き起こされることがあります。
脳や神経のはたらきに異常が生じる病気によって体が勝手に動くといった症状が現れることがあります。具体的には次のようなものが挙げられます。
薬の影響や病気によって脳内物質のドーパミンが過剰になったり、神経がドーパミンに過剰に反応するようになったりすることで大脳基底核という部位が過剰にはたらき、手足などが不規則に動いてしまう症状のことです。
舞踏運動はやや速い動きを繰り返すのが特徴である一方、アテトーゼはゆっくりとうねるような動きが特徴です。両者は同時に現れることもあり、あたかもダンスしているかのように見えることもあります。
舞踏運動を生じる病気として代表的なものにハンチントン病があります。そのほか、全身性エリテマトーデス、甲状腺機能亢進症、脳卒中などが原因で引き起こされることがあり、高齢者や妊婦は特に健康上の異常がない場合でもみられることがあります。
脳の視床下核と呼ばれる部位に脳梗塞や脳出血などでダメージを受けることで運動を抑制する能力が損なわれ、片方の腕や脚を動かそうとした際に投げ出すような動きになってしまう病気のことです。“ヘミ”は片側という意味であり、ヘミバリスムは体の左右どちらか片側だけに生じたバリスムという意味です。たとえば下肢にバリスムが生じると歩行時の動作がスムーズに行えなくなるなど、部位と程度によって日常生活に支障をきたすことがあります。
一部の筋肉が短時間の収縮を起こす病気のことです。原因はさまざまであり、肝不全、腎不全、血糖値の異常、低酸素血症、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病などが挙げられます。
また、薬の副作用で発症することもあり、症状の現れ方も一瞬で終了するケースから連続した筋肉運動が起こるケースまでさまざまです。
大脳基底核、視床、小脳など脳のいくつかの部分の活動が活発になることで、長時間にわたる筋肉の収縮が生じる症状のことです。その結果、手足や体幹、首などが捻じれるなど不自然な体勢になりやすくなるのが特徴です。症状が出現する部位により病名がついていることがあります。たとえば、勝手に目が閉じる“眼瞼けいれん”、首が勝手に正面以外に向く“痙性斜頸”、字を書くときに手に余計な力が入って書きにくくなる“書痙”、楽器を演奏するときのみ指(鍵盤、弦楽器など)や口(管楽器、笛など)に力が入って演奏できなくなる“音楽家のジストニア”などがあります。精神的ストレス下で特定の動作を繰り返すことが発症の引き金になることや、抗精神病薬などによって引き起こされることもありますが、遺伝子の変異によって生じるケースもあります。
“ジス”は悪いことを示し“キネジア”は動きを示す言葉です。よってジスキネジアとは広義では不随意運動全体を指す場合があります。狭義では、抗精神病薬の長期間服用がきっかけで出現した不随意運動を指す言葉として使われます。本人の意思とは関係なく出現する、唇をすぼめる・舌を左右に動かす・口をモグモグさせる・手足が勝手に動いたり力が入ったりするといった症状が現れます。
パーキンソン病治療薬の副作用として四肢、首、体幹、口などに不規則な不随意運動が現れることがありジスキネジアと表現しますが、遅発性ジスキネジアとは言いません。
体が動くといった症状はホルモン分泌異常を引き起こす病気が原因になることもあります。具体的には以下の病気です。
甲状腺機能が過剰になり、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる病気のことです。発症すると動悸、発汗などの症状のほか、手の震えが起こりやすくなるのも特徴です。特に、手を挙げたときなど何らかの動作をする際に震えを生じやすいとされています。
勝手に体が動いてしまう症状は、日常的に生じると正常な動きを邪魔するだけではなく、他人から注目されて気になるなど生活上のさまざまな場面で支障をきたすことがあります。疲れているときなど健康上異常がない場合でも自分の意志とは関係なく筋肉の収縮が生じることもありますが、長く続く場合は上で述べたような思いもよらない病気が原因のこともあります。
手足が動いてしまうことで日常生活に支障が出ている場合、体が動いてしまうという症状以外にも何らかの症状がある場合はできるだけ早めに病院を受診しましょう。
初診に適した診療科は脳神経内科ですが、抗精神病薬などを服用中の方は処方を行っている主治医に相談する必要があります。また、どこの診療科を受診すればよいか分からない場合は、かかりつけの内科などに相談するのも1つの方法です。
病院を受診した際には、いつから症状が続いているのか、内服中の薬剤の種類や治療中の病気、随伴する症状について詳しく医師に説明するようにしましょう。
体が動いてしまうという症状は、次のような好ましくない日常生活上の習慣によって引き起こされることもあります。
過度なストレスや睡眠不足、疲れなどは自律神経バランスを乱し、交感神経のはたらきを活発にすることがあります。その結果、手の震えなどが生じやすくなることも少なくありません。
社会生活を送るうえでストレスや疲れを完全に避けることはできません。しかし、十分な休息や睡眠と取り、熱中できる趣味を持つなど自分なりの気分転換を図る方法を身につけることで心の乱れを防ぐことが可能です。
日常的に過剰なアルコールを摂取していると、アルコール依存症を発症し、絶えず手が震える症状が現れるようになります。
適度な飲酒は必ずしも健康に悪影響を与えるわけではありません。1日平均純アルコール換算20gが適量であるとされており、ビール中瓶1本、日本酒1合などに相当します。また、適度に“休肝日”を設けるのも1つの方法です。
日常生活上の好ましくない習慣を改善しても症状が改善しない場合は、上で紹介したような病気が背景にある可能性があります。軽く考えず、早めに医療機関を受診しましょう。