インタビュー

ドライアイや白内障も―屈折矯正手術の合併症リスクとは

ドライアイや白内障も―屈折矯正手術の合併症リスクとは
鈴木 雅信 先生

国際医療福祉大学三田病院  眼科学教授

鈴木 雅信 先生

この記事の最終更新は2015年12月05日です。

 

『エキシマレーザー手術と有水晶体内レンズ手術―最新の屈折矯正手術』では、屈折力が低下した際、手術によって目の屈折力を高めて、網膜にピントが合った像を結べるようになるエキシマレーザー手術・有水晶体眼内レンズ手術の種類について詳細を紹介しました。同時に知っておくべきことは、屈折矯正手術は手術である以上、一定のリスク(手術リスクや合併症)が考えられるということです。

この記事では、国際医療福祉大学三田病院眼科教授・鈴木雅信先生に、屈折矯正手術の合併症や手術のリスクについて解説していただきます。

エキシマレーザー手術および有水晶体内レンズ手術については、禁忌となる方を日本眼科学会がガイドラインで定めています。しかし、適合が可能と判断される患者さんでも、手術リスクや合併症のリスクが伴います。以下に詳しくご説明します。

エキシマレーザー手術で角膜を削ることによって、術後にドライアイが生じる方が相当数いることが確認されています。原因についてはいろいろなことが考えられていますが、LASIKにおいては、角膜を切断してフラップ(ふた状の角膜)を作ることとレーザーを当てることによって、神経にダメージが加わるためではないかと考えられています(フラップを作らないPRK手術においては、LASIKよりもドライアイは軽いといわれています)。

LASIK手術を受けた患者さんの中には、健康な方なら強い光量とは感じるものの、まぶしいほどではない夜間の車のライトの光などが、ぎらついて見えてしまう状態(グレア現象)が起こることがあります。また、それなりの光量がある街灯などの光を見た際に、何重にも光の輪がかかってみえるような状態(ハロー現象)が起こることもあります。 

LASIKやPRKは角膜を削る手術です。そのため、眼の光学的な性質が変わり、このような現象が起こるのではないかと考えられています。

画像の明暗・濃淡の状態をコントラストといいます。LASIK手術を行った患者さんのなかには、視力ははっきりしているものの、以前より微妙な濃淡が見えなくなったと感じる方(コントラスト感度の低下)がいます。

角膜のカーブが急な方や平坦な方、術前の検査で近視の度数が強く手術の際に角膜を多く削った患者さんは、コントラストの低下を感じやすいといわれています。

LASIK手術の後、少数ながら、角膜に炎症(DLK)が起こることがあります。DLKが起こる原因について明確にはわかっていません。

DLKが起こると、フラップの内側に砂粒程度の白い斑点(炎症細胞)がうっすらと現れます。LASIK手術を受けた方の2%~4%の方において、手術の翌日以降に見られるとされています。このような症状が出た場合は、早急に治療を開始しなければなりません。初期段階ではステロイドを含んだ点眼薬で治療を行います。ごくまれに、フラップをめくって眼を洗浄するなどの治療が必要になる場合があります。

エピセリアル・イングロースとは、手術で作った角膜のフラップとその下の角膜との間に角膜上皮細胞が入り込んでしまう状態です。LASIK手術を受けた方全体のうち3%未満に起こるといわれていますが、再手術のときは発症率が上がるとも考えられています。

一般的な症状は、手術の際に切開したフラップの周辺部が白く濁るだけです。そのため、視力に影響が出ることはあまりありません。自覚症状もないのが通例です。

大多数の方は数か月の間に自然治癒することが多いのですが、濁った部分が中心部に及んでくると乱視遠視が生じ、視力低下を自覚するようになります。そのため、必ず経過観察を行います。

エクタジアは、屈折矯正手術における深刻な合併症です。LASIKやPRK手術を実施した際に角膜の強度が低下してしまうことがあります。すると角膜の後面が前面に突出して、角膜が変形して乱視が発生し、視力が急激に低下します。エクタジアの発症メカニズムについてはいまだ解明されていません。ただし、屈折矯正手術を受けていなくても、エクタジアと同様に角膜が突出して乱視が発生し視力が急激に低下する「円錐角膜」という病気を発症する方もいます。

海外でこれまでにエクスタジアや円錐角膜を発症した方について調査した結果、角膜が柔らかい方や、目をこする癖がある方に起こりやすいことがわかっています。

エキシマレーザー手術や有水晶体眼内レンズ手術において、感染症が起こる可能性がゼロではありません。医師は手術後、他の合併症の発症も含めて、感染症が起こっていないか慎重に観察を行います。

有水晶体レンズ手術を行う場合、白内障が生じるケースが確認されています。

白内障とは、レンズの役割をする水晶体が濁ってしまい、視力が低下する病気です。ほとんどの場合は視力に影響しない程度だとされていますが、万が一視力障害を生じる場合は手術で眼内に入れたレンズを摘出して白内障手術を行います。

また従来のICLでは、房水の流れをよくするために虹彩を切除してレンズを挿入する必要がありました。一方、レンズの前面に0.36㎜の穴が空いている「穴あきICL」の場合、レンズに空いた穴から房水が流れるため、白内障が生じにくくなっています。

閉塞隅角緑内障とは、眼球内を流れる房水と呼ばれる液体の排出口(隅角)が虹彩によってふさがれることにより、房水の排出が困難になる病気です。眼球内の房水がたまり眼圧が高くなるため、緑内障を生じ、視力の低下を招くことになります。

有水晶体レンズ手術で眼球内にレンズを入れる際、房水の流れをよくするために虹彩に穴があけられます。ただし穴あきICLはレンズの真ん中に穴が空いていますので、虹彩に穴を開けて房水の流れをよくする配慮は必要ありません。手術後の経過観察で眼圧が上がるなどの症状が見られた場合は、なんらかの原因で房水の流れが悪くなり、眼圧が上がっていることは確実です。手術によって挿入したレンズの問題も含めて、医師は総合的に原因を判断します。

LASIK手術後、ごくまれに、硝子体混濁が生じ、飛蚊症が生じることがあります。

エキシマレーザー手術・有水晶体内レンズ手術については、安全性が高い術式として手術方法が確立しています。しかし手術である以上、一定のリスクは伴います。先に述べた合併症の危険性だけでなく、以下のことも手術のリスクとして検討する必要があります。

屈折矯正手術のうち医師が強く意識するリスクとして、過矯正や低矯正があります。屈折矯正手術自体は精密なものの、患者さんが術前の検査で過剰に緊張してしまったり、角膜表面が乾燥してしまったりすると、正確な度数を計測できません。そのため、正確な手術を行っても網膜にピントが合わないといった不具合が生じることがありえます。これらのリスクは、手術前の検査や適応を慎重に確認することで低減させています。

有水晶体眼内レンズ手術では、40歳以上の方、近視度数の強い方は白内障の発生リスクが高くなることがわかっています。また、長期にわたってコンタクトレンズを使用されている方や、前房型の眼内レンズを手術で挿入した方は、角膜内皮細胞密度の減少のリスクがあります。そのため定期的な診察が必要です。ただし、Hole-ICL(穴あきICL)については、白内障の発症はほとんど報告されていません。