ゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸や息苦しさなどが生じる喘息(ぜんそく)は、決して子どもだけの病気ではありません。大人になってから喘息を発症する方もいます。また、喘息は糖尿病などと同じく慢性疾患(徐々に発症して治療も経過も長期におよぶ病気)であることから、症状が出ていないときでも継続した治療が必要です。喘息の症状と治療、生活での注意点について、山口大学医学部附属病院 呼吸器・感染症内科の松永 和人教授にうかがいました。
喘息(ぜんそく・気管支喘息)とは、気管支に炎症が起こることで息苦しさなどの呼吸器の症状が起こる、慢性のアレルギー疾患です。
2008年実施の調査による喘息患者の割合※は、幼稚園児で19.9%、小学生(1~2年生)で13.6%、中学生(2~3年生)で9.6%、高校生(2~3年生)で8.3%でした1)。
喘息を含めたアレルギー疾患の患者数は増加傾向にあります。厚生労働省の調査によると、日本国民の2人に1人はなんらかのアレルギー疾患を持っていることが明らかとなっています2)。
※最近12か月間の期間有症率
1) 平成21(2009)年度 気管支喘息の有症率、ガイドラインの普及効果とQOLに関する全年齢全国調査に関する研究
2) 厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書(平成23年8月)」
喘息は、子どもだけの病気ではありません。子どものころから喘息を持っている方が、成人後も喘息を患っている場合もあれば、大人になって初めて発症する方もいます。
2008年実施の調査において、実際の成人(20〜44歳)の喘息患者の割合※は12.3%2)で、この数字をみると決して大人の喘息がめずらしくないことがうかがえるでしょう。
※最近12か月間の期間有症率
喘息の症状は、子どもも大人も大きく変わることはありません。炎症により気管支が狭まることによって、以下の症状が起こります。
激しい発作(喘息の症状が急激に悪化した状態)を起こすと呼吸困難に陥ることがあり、その際には、ときに命にかかわることがあります。
喘息は、夜間や明け方に発作が起こることが多いです。発作のために十分に眠ることができないことにより、生活に支障をきたすことがあります。
喘息の発症初期に、風邪のあとの咳が長引いてなかなか治らない、、夜間や明け方になると息苦しくなるという症状を自覚して、受診される方がいます。
このような症状が長く続くようであれば、喘息の可能性があるため病院を受診したほうがよいでしょう。
喘息の主な治療は、吸入ステロイド薬による治療です。軽症から重症まで、年齢にかかわらず、吸入ステロイド薬による治療を行います。継続して治療することにより、ステロイド*が気管支の炎症を鎮め、喘息の症状を出にくくします。
2018年2月現在、各製薬会社からさまざまな吸入ステロイド薬が登場しています。
吸入ステロイド薬は大きく2種類にわかれます。粉末の薬剤を一気に吸い込む「ドライパウダー」タイプ、機器で霧状にした液剤を吸入する「エアロゾル」タイプです。
患者さんの年齢や状態に合わせ、どの吸入ステロイド薬を使うかが決まります。
ステロイド…炎症を抑えたり,免疫の働きを弱めたりする薬
吸入ステロイド薬の安全性について、気にされる方もいるかと思います。確かに、ステロイドは長期服用によって副作用を起こすこともある薬剤ですが、吸入ステロイド薬の場合には、副作用が現れにくいものと考えられます。吸入ステロイド薬は、吸入することによって直接患部(気道)に作用します。そして、1回あたりのステロイドの使用量もごく少量ですみます。実際に、経口ステロイド薬(飲み薬)ではmg単位(1gの1,000分の1)、吸入ステロイド薬ではμg単位(1gの100万分の1)です。
吸入時に口のなかに付着した薬剤も、うがいをすれば洗い流されます。したがって、毎日吸入ステロイド薬を使用しても、ステロイドの副作用は現れにくいと考えられます。
もし、吸入ステロイド薬の使用について疑問や不安に思う点があれば、主治医に相談してください。
吸入ステロイド薬だけでの治療で十分に喘息の症状を抑えられない場合には、気管支拡張剤を併せて使用します。気管支拡張剤は、その名の通り気管支を拡げ、呼吸を楽にします。
吸入ステロイド薬と気管支拡張薬を同時に吸入できるタイプの薬剤も多く使用されています。
このほか、重症度により喘息の悪化に関連する炎症物質を抑制する薬剤などを用いることもあります。
2018年2月現在、喘息を根本から治す治療は確立されていません。そのため、現在の治療法では治癒が難しいですが、吸入ステロイド薬などの治療を毎日継続することで、健康な方と同じように生活することが十分に可能です。
なかには、吸入ステロイド薬をきちんと継続することで喘息の定期治療が必要でなくなった患者さんもいます。
喘息は、糖尿病や高血圧と同じく慢性の病気です。そのため、自覚症状が出ていても出ていなくても、毎日継続して治療を行う必要があります。患者さんの自己判断で治療をやめてしまうと、症状が悪化したり発作が起きてしまったりすることがあるからです。
もし、治療を続けることが難しい理由があれば、必ず主治医に相談してください。自己判断で治療を中止することは避けましょう。
また、薬を服用し忘れてしまう場合は、毎日決まった時間に飲む、携帯電話・スマートフォンなどのアラームを設定しておくなどして、飲み忘れを防ぐ工夫をすることもよいでしょう。
喘息はアレルギー疾患であることから、アレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)に触れると症状が現れる原因となります。
代表的なアレルゲンには、ホコリやダニ、ハウスダスト、ペットの毛などがあります。そのため、家のなかはこまめに掃除をし、清潔を保つよう心がけるとよいでしょう。
喘息の症状と肥満には関係があることがわかっています。肥満は喘息を悪化させる要因とされ、肥満により気道が過敏になり、炎症が起きやすくなるといわれます5)。
そのため、喘息の患者さんで肥満傾向にある方は、適正体重までダイエットすることで喘息の悪化を防ぐことができると考えられます。
5) 玉置 淳「肥満が喘息に与える影響とその対策」耳鼻免疫アレルギー 33(2):20,2015
山口大学医学部附属病院 病院長/山口大学大学院医学系研究科 呼吸器・感染症内科学 教授
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