院長インタビュー

「がん診療」と「救急医療」を中心に「死角のない医療」をめざす茨城県立中央病院

「がん診療」と「救急医療」を中心に「死角のない医療」をめざす茨城県立中央病院
吉川 裕之 先生

ベビースマイルレディースクリニック有明 院長、茨城県立中央病院 名誉病院長

吉川 裕之 先生

この記事の最終更新は2017年10月11日です。

茨城県立中央病院は、JR友部駅からバスで5分ほどのところに位置します。水戸市から少し距離があるのは、昭和31年に結核の療養所として開設された名残だとされています(翌年、茨城県立中央病院と改称)。現在は500床(一般病床475床、結核病床25床)、36診療科を擁し、県内唯一の県立総合病院です。診療の特徴に関して、病院長の吉川裕之先生にお話を伺いました。

 

 

当院は県内唯一の県立総合病院であり、ほぼすべての診療科において県民の期待に添える医療、すなわち「死角のない医療」を提供しています。そのなかでも高度急性期医療・急性期医療の中心である「がん診療」と「救急医療」には、特に大きく貢献していると自負しています。

 

当院は、茨城県地域がんセンターを併設しています。難治性のがんに対する高度専門医療の提供を目的として、1995年に開設されました。また、全国の主ながん治療病院の連合体である全国がん(成人病)センター協議会にも所属しています。2017年現在、国立がん研究センターなど全国32施設が参加しており、茨城県では当院のみです。また、県で唯一の都道府県がん診療連携拠点病院となっています。

 

当院の放射線治療センターでは、最新型放射線治療装置(リニアック)が稼働しています。高精度な治療を短時間で行うことが可能で、強度変調放射線治療(IMRT)も行います。この装置を用いると、呼吸などで動いてしまうがん腫瘍に対してもピンポイントに照射が可能となり、周りの正常細胞にはほとんど傷がつきません。

前立腺がんの手術では、内視鏡手術支援ロボットであるダヴィンチも用いています。これは腹部に小さな穴を開け、そこから体内に入れた3Dカメラとロボットアームを遠隔操作し、前立腺を切除します。開腹手術の必要がないため傷口は小さく、回復も早いのが特長です。泌尿器科では前立腺がん、膀胱がん、腎がんで計200近くに達してします。最近では呼吸器外科でも、縦隔腫瘍にダヴィンチが使われるようになりました。

今後は、がんの高度治療病院として地域に認識されたいと願っています。

 

がんの種類別にみると、消化器がん胃がん大腸がん、肝臓がん、膵臓がんなど)の患者さんが以前から多く、初期がんの内視鏡治療(ESD, EMR)や進行がんに対する開腹手術が多くを占めています。肺がんの患者さんも多くみられ、内科、外科、放射線治療科が呼吸器センターとして治療しています。これらのがんは県で最多です。

昨今、増えてきたものとしては婦人科のがんが挙げられます。新鮮例は2016年は160件ほどでしたが、2017年は180件を超えると予想されます。

 

当院は2008年、茨城県としてはじめて本格的な外来化学療法施設である「化学療法センター」を開設しました。専用の部屋にベッド22床・チェア13床を備え、専従医師をはじめとする多職種チームによる医療を提供しています。現在は1か月に800名を超える患者さんがいらっしゃっています。今後、外来化学療法を、さらに多くの患者さんに提供する考えです。

 

救急の患者さんには、ほぼすべての診療科の医師から構成される「救急センター」が内科系、HCU(外科系)、ICU(外科、麻酔科)、CCU(循環器内科、循環器外科)、産婦人科の当直体制で対応します。原則として、小児科と産科以外であれば、すべての救急患者さんを引き受けています。産科も異所性妊娠子宮外妊娠)・流産など妊娠初期の救急は多く受けています。空きベッドがない、専門医がいないという理由でお断りすることはありません。本年度の救急車の応需率は97.3%です。

また救急車だけでなく、ドクターヘリも受け入れています。救急外来を受診した患者さんは年間14,000名を超えており、救急車とドクターヘリによる搬入患者さんは5,000名近くいらしゃいます。

 

患者さんのところまで救急専門医が駆けつける「ドクターカー」も運用しています。以前は救急車を用いたドクターカーのみでしたが、2015年にドクターカー専用車(ラピッドカー)も導入しました。出動回数はこれまで、年間200件ほどで推移してきましたが、2016年度は277件に達しました。消防署からの要請を受け、石岡市や小美玉市、桜川市などかなり離れた地域まで駆けつけています。

 

平成23年に循環器センターを新設し、平成27年に透析センターを34床に増床しました。

循環器センターのCCUは6床であり、循環器疾患の集中管理を行います。特色としては、循環器内科医と循環器外科医がチームを組んで治療する点です。年にカテーテル治療250例、アブレーション治療125例行い、リハビリも積極的に行っています。透析センターでは、在宅透析と夜間透析に力を入れています。夜間透析は、17時以降から開始して帰宅する「準夜」と、21以降に開始して泊まり込みで行う「深夜」の2パターンを用意しました。在宅、夜間のいずれも、対応する施設が少ないため、患者さんからは非常に評判がよいです。特に在宅透析は、患者さんのQOL(生活の質)をほとんど損ないません。2017年7月時点で15名の患者さんが、在宅透析を受けられています。

 

当院は精神科外来をオープンにしていないものの、精神疾患を理由に患者さんをお断りすることはありません。常勤の精神科医1名とこころの医療センターからの応援によるリエゾン回診を行っています。身体合併症の治療を行いながら、同時に常勤の精神科医がケアします。また、身体障がいや発達障がいがある患者さんも受け入れています。この方針は救急医療にも共通しています。

 

 

2011年、当院は地域医療支援病院の承認を受けました。認定以来、地域かかりつけ医の先生には、当院の画像検査や消化管内視鏡などをお使いいただけるようになりました。ここ数年の紹介率は約78%で推移しています。逆紹介率も増えはじめ、現在は70%ほどです。さらに、当院の診療内容やスタッフを紹介すべく、2015年から「ほっとタイムズ」を年4回、患者さん、地域のかかりつけ医を対象に発行しています。今後も、連携をより一層進めてまいります。地域住民の方々に対しては、病院外来ホールにて医師による講演会を定期的に開催しています。その際、医療職による相談会を併設することも多くあります。また、ご要望があれば、院外への「出前講座」も行なっています。

 

今後の展望としては、産科を充実させ、地域周産期母子医療センターを立ち上げたいと考えています。

現在、茨城県内の高度周産期医療は、水戸済生会病院産科と隣接する県立こども病院新生児科が1つの総合周産期母子医療センターとして一手に引き受けています。しかし県内では産婦人科の閉鎖が続いており、一か所の病院だけでは産科医療を支えきれなくなる恐れがあります。そこで当院の産婦人科では、最終的に地域周産期母子医療センターをめざします。そうなれば、現在、救急の弱点となっている産科と小児科にも対応できるようになります。

 

4年後をめどに、新病棟での診療開始を予定しています。手術室、集中治療室の整備に加え、外科中心の220床ほどの病棟になる予定です。現在、院内に点在している集中治療室(ICU)と心疾患集中治療室(CCU)、準集中治療室(HCU)を一か所に集め、生命に関わる外科系の治療を集中的に行えるようにします。新病棟が完成すると、手術数は飛躍的に増えると予想されます。手術数の増加に応じて麻酔医も確保する必要があります。

加えて新病棟は、災害医療拠点ともなるよう設計するつもりです。2017年、当院が原子力災害拠点病院に指定されたためです。緊急時には、ロビーに100床以上の病床を設営できるようにします。また敷地のマンホールも緊急時にはトイレに転用できるものを採用するつもりです。

 

当院には、未来医療の担い手を育てる「教育」、未来の標準医療を作る「臨床研究」など、取り組むべき課題は多くあります。

それらを含め当院は、あらゆる手段を駆使しながら地域のみなさまの健康を守っていきたいと考えております。

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    吉川 裕之 先生

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