院長インタビュー

標準治療を基本としながら、専門的ながん治療・精神的緩和ケアを提供する呉医療センター・中国がんセンター

標準治療を基本としながら、専門的ながん治療・精神的緩和ケアを提供する呉医療センター・中国がんセンター
谷山 清己 先生

独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 前院長

谷山 清己 先生

この記事の最終更新は2018年01月15日です。

独立行政法人国立病院機構呉医療センター・中国がんセンターは、広島県呉市に所在し、2019年で創立130周年を迎えます。1889年(明治22年)に開設された、同センターの前身である、「呉海軍病院」がその歴史の始まりで、開院以来、長い伝統を持つ大規模総合病院です。1965年には中国地方がんセンターを併設し、高度で専門的ながん治療の提供を開始しました。2004年に運営が独立行政法人国立病院機構へ移管し、「呉医療センター・中国がんセンター」と現在の名称となりました。呉地域において、高度・専門的な医療を提供してきた多彩な特色を持つ同センターは、がんでは標準治療を基本としています。また、国際的に活躍できる人材育成にも労を惜しみません。同センターの特色や、病院つくりをするにあたって大切にしていることを院長である谷山清己先生にお話を伺いました。

当センターは、呉地域でトップクラスの医療資源を有しています。病床数は700床で、内訳としては、一般病床が650床、そのうち救命救急センターが30床、NICU6床、緩和ケア19床です。それとは別に精神病床を50床用意しています。

37の診療科は、それぞれが呉地域の高度総合医療を提供する施設として、重要な役割を担っています。また、がんの基幹医療施設や、エイズや災害医療の政策医療施設としての位置付けがなされているほか、循環器、精神、成育、内分泌・代謝、肝臓の専門医療施設でもあります。幅広い分野の専門家がそろっている当センターでは、総合病院としての立場を活かし、各診療科横断的な体制を確立させています。特筆すべきことは、がんセンター、心臓センター、救急センター、人工関節センター、周産期母子医療センター、精神科リエゾン・サイコオンコロジーなど各分野で高いレベルの専門性を誇っていることです。

呉地域の心臓疾患医療のさらなる向上をはかるために、呉地域においてもっとも質の高い循環器治療の提供を目標としています。2004年には、循環器内科、心臓血管外科、救命救急センターの連携強化のために、呉心臓センターを開設しました。あらゆる循環器疾患に対応できる同センターでは、循環器専門医、心血管インターベンション治療専門医、超音波学会専門医、高血圧専門医、心臓リハビリテーション指導士などが在籍しており、専門性の高い治療をしています。また、24時間365日、心臓専門医師が迅速に治療できる体制を整え、救命率の向上に尽力しています。

循環器内科の得意分野は狭心症や末梢血管疾患に対する血管内治療です。最新の精密検査機器を用いて正確な診断を行っているほか、入院治療の際は、血管内超音波検査(IVUS)、冠血流予備能検査(FFR/iFR)、光干渉断層撮影(OCT)を使用して的確で安全な治療や検査をしています。

心臓血管外科ではさまざまな心臓疾患に対して、患者さんの体を可能な限り傷つけない、低侵襲手術の実施を心がけています。たとえば、狭心症や心筋梗塞に対して行う冠動脈バイパス術の際には、人工心肺を使用せずに、心拍動下オフポンプ冠動脈バイパス術を第一選択としています。冠動脈バイパス術は、一般的に行われている開胸心臓手術のことで、心臓疾患に対する外科的治療のなかでもっとも多く行われています。当科で行う手術は、体への負担が少ないため、高齢者や合併疾患を持つ患者さんも安心して手術を受けていただけます。加えて、これまでの当科の手技向上の努力が実り、一般的な皮膚切開よりも小さな切開術の実現に成功しました。そのため、患者さんは術後の早期回復が期待できるほか、体に負担の少ない治療・手術の選択をできます。また、大動脈瘤に対する治療法としては、血管内治療(ステントグラフト内挿術=切らずになおす手術)を行っています。

当センターの精神科は、精神政策医療の専門医療施設であり、広島県精神科救急医療システムの支援病院です。広島県南部(呉・東広島・竹原地域)において、総合病院内に精神科の入院施設を設置しているのは当センターのみです。総合病院内に精神科を設置していることで、精神疾患と身体疾患をあわせもつ患者さんであっても、双方に同時に適切なアプローチができます。当科はチーム医療(医師や看護師および臨床心理士など他職種連携で診療すること)を実践し、あらゆる精神疾患(うつ病双極性障害統合失調症、神経症、認知症てんかん、など)に対応しています。標準的なガイドラインを大切にしながらも、個々に応じたオーダーメイド的な治療で患者さんとともに歩んでいます。治療内容は、外来治療、入院治療、多岐に渡る検査のほか、短期行動活性化療法や、先端医療である電気刺激療法、磁気刺激療法、経頭蓋直流刺激法なども実施しています。

また、広島県内で唯一のクロザピン処方を認可されている精神科でもあります。クロザピンとは、複数の抗精神病薬による治療を受けてきたにもかかわらず、症状が十分によくならなかった統合失調症の患者さんに対して効果があると世界で唯一認められた薬です。

当センター精神科の特徴のひとつとして、臨床研究部に精神神経科学研究室を設置している点が挙げられます。これを活かして、精神科では臨床研究部と密な連携をはかっています。臨床研究部による脳科学研究の最先端の情報や、エビデンスに基づいた薬理学的知見(薬物投与をした際に生体に起こる変化を研究する学問)は、服薬治療を要するケースの多い精神疾患に対する治療に非常に有用です。また、国内では先駆的な取り組みであったがん患者さんへの精神的ケアにも力を入れており、リエゾン精神医学(連携精神医学)、サイコオンコロジー(精神腫瘍学)発祥施設でもあります。

標準治療は、ある意味もっとも進んだ医療です。最良の標準治療を行うためには、常に先を見据えて考え、試行錯誤しながら行動していく必要があります。そのために当センターではさまざまな試みをしています。各種がんに関連するいろいろな診療・臨床研究・情報発信に対して積極的に取り組んでいます。1982年に発足した臨床研究部には、主にがん研究を対象とした7つの研究室(腫瘍病理、免疫応用科学、精神神経科学、予防医学、先進医療、腫瘍統計・疫学、分子腫瘍)があります。臨床研究部では、臨床研究および基礎研究をしていることに加えて、がん治療の最先端医療実現に向けた治験も実施しています。

がんに対する標準治療として、化学療法、手術治療、放射線治療を行っています。当センターは、呉医療圏における地域がん診療連携拠点病院として国から指定を受けており、中国地方でのがん治療の中核的施設に位置付けられています。

近年では、最新の放射線治療機器を導入しています。また、全身のがんなどを一度に調べられる陽電子放出断層撮影(PET-CT)についても呉医療圏で初めて導入しました。そのほか、患者さんのQOL(生活の質)向上をめざすための「よろず相談窓口」や、がん患者さんに有用な情報を提供する「がん相談支援センター」、がんや悪性腫瘍の全疾患に関する「セカンドピニオン外来」を設置し、あらゆるがん治療の相談を受け付けています。

広島県内において、先駆け的に開設した緩和ケア科は、かねてより当センターが注力してきた分野です。リエゾン外来では、精神医療のスペシャリスト(精神科医師、うつ病看護認定看護師、心理療法士)が中心となって、がんによる身体的・精神的痛みで苦しむ患者さんを、精神的にも身体的にもサポートしています。リエゾン外来を本格的に開始したのは国内では当センターがはじめてです。

一般の人の中では、緩和ケア、緩和医療というのは患者さんが終末期になった段階で受ける医療という認識を持っている人が多いようですが、実のところそうではありません。緩和医療は、患者さんに対して『がんなどの重大な病名を告知』した瞬間から始まります。当センターでは「診断時から始まる精神的痛みの緩和」を強く意図しています。がんなどの重大な病気には、身体的痛みのみならず、精神的痛を必ず伴うからです。患者さんは「病理外来」などで具体的な病名と自分の病状や状態を正確に把握すると精神的痛みの緩和につながります。当センターの緩和ケアは、精神科と連携しながら治療を進めています。精神科と連携した緩和医療の歴史が長い当センターからは、国立がん研究センターや広島大学をはじめとして名高い機関へ優秀な人材を輩出しています。

当センターでは、若手の段階(研修医含む)から世界に飛び出すチャンスがあります。2008年より当センターが中心となって、国際学会「呉国際医療フォーラム;略称K-INT」を毎年開催しています。同フォーラムへの海外参加国は、アメリカ、イギリス、インド、韓国、台湾、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポールなどさまざまです。毎年話題性のあるテーマを取り上げている同フォーラムの2016年テーマは「Advances in Cancer Therapy Over the Next Ten Years (がん治療の進歩;10年後への展望)」としました。このように、国際的に開けた環境を整えているうえに、さらに、世代を問わず積極的に海外で論文発表をしてもらっています。当センターが人材育成においてもっとも大切にしていることは、人生を楽しみながら各自がやりがいを持って医療に従事してもらうことです。私たちは、安心・安全で理にかなう医療を実践し、高い理想を表す病院理念のもとに一致団結しており、レベルの高い親身な指導を行っています。やりがいを求め、チャンスに挑む積極姿勢のある医療系学生の人はぜひ当センターに就職してください。

呉医療圏域外からの患者受け入れ体制をさらに進めると同時に、呉医療圏域内医療者と顔のみえる関係つくりに一層の力を注いでいきます。当センターには最先端の情報が日々入ってきますので、それらを地域の医療・介護機関や行政機関、そして住民の皆さんへ発信し、地域包括ケアシステム推進の一助となるよう積極的な活動を行ないます。また、防災面においても、防災拠点センターとしての機能を強化する構想があります。当センターは、明治時代に海軍が目をつけた土地なだけあり、非常に強い岩盤の上にあります。なおかつ高台に位置するため、津波被害を心配する必要がありません。緊急時に備えて水源・電源も二重に確保できています。万が一の場合に医療施設間連携の中心となるだけでなく、医療と行政の連携の柱にもなれるように、現在保有している体育館の改築を計画しています。

当センターの理念「相手の心情に寄り添う愛のある医療を笑顔で実践します」を運用するキーワードは、LOVE and SMILES(和顔愛語)です。すべてのスタッフが一致団結し、愛にあふれる心を持って患者さんに寄り添っていきます。当センターをよろしくお願いします。

受診について相談する
  • 独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 前院長

    谷山 清己 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。
  • 独立行政法人国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター 前院長

    日本病理学会 病理専門医・病理専門医研修指導医日本臨床細胞学会 細胞診専門医・細胞診指導医・教育研修指導医日本癌学会 会員

    谷山 清己 先生

    1978年広島大学医学部卒業。2000年広島大学医学部臨床教授。2002年国立病院機構呉医療センター・中国がんセンターを経て、2014年同センター院長に就任。広島大学客員教授、第17回日本デジタルパソロジー研究会総会会長、第64回日本病理学会秋期特別総会会長。病理医が病理診断結果を直接患者に説明する“病理外来活動”を我が国で最初に公表した。

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。