院長インタビュー

地域の救急医療から専門医療まで急性期医療を支える大原綜合病院の取り組み

地域の救急医療から専門医療まで急性期医療を支える大原綜合病院の取り組み
佐藤 勝彦 先生

大原綜合病院 理事長兼統括院長

佐藤 勝彦 先生

この記事の最終更新は2018年02月05日です。

福島県福島市に所在する一般財団法人 大原記念財団 大原綜合病院は、2017年で創立125周年を迎えます。福島市の中心地に位置する同院は、開院以来、地域の急性期医療を支えてきました。また、福島市における唯一の市民病院としての役割も担っており、地域住民から厚い信頼を受けています。

 

1892年に前身である「大原医院」が開設されて以来、徐々に医療機能を拡大させてきました。1951年に「大原綜合病院」に改称、その後1952年に運営母体が財団法人大原綜合病院となり、2016年には法人改革にともない「一般財団法人大原記念財団大原綜合病院」に改称しました。2018年1月には福島市上町に新築移転し、それまであった予防医療を担う「大原健康クリニック」を新病院内に併合しました。現在は、新病院棟での診療を開始しています。

 

同財団では急性期医療と予防医療を担う地域医療支援病院としての「大原綜合病院」をはじめ、回復期医療を担う在宅医療支援病院としての「大原医療センター」、精神医療を担う「清水病院」、在宅医療を担う訪問看護ステーションを有しており、あらゆるケースに対応できる体制を整えています。多くの若手医師や研修医が働く活気溢れる同院の院長である、佐藤勝彦先生に病院の特徴や取り組みについてお話を伺いました。

2018年1月1日開院 大原綜合病院の新病棟

 

当院の主たる役割は、救急車の受入れを行う2次救急医療と、地域医療機関からの紹介患者さんの受入れを行う専門医療です。当院は病床数353床(個室109床)を有し、22の診療科を構えます。総合救急センター、画像診断センター、手術センター、HCU、そして屋上のヘリポートを一本の導線で結び、高度急性期医療や広域災害医療にも対応可能です。また、市中病院で唯一の病理診断科も設置されています。

 

福島市の中心地に位置し、多様な急性期症例を経験できることはもちろん、大学病院に近いことや、公共機関のアクセスが良好であることも後押しし、臨床研修医や専門医を目指す専攻医の研修先として人気を得ています。

屋上ヘリポートを併設

 

消化器内科では、上部消化管、下部消化管、肝臓、胆のう、膵臓疾患など消化器疾患全般の診断と治療にあたっています。特に内視鏡治療を得意分野としている同科では、経験豊富な医師と高性能な医療機器を取りそろえて、精度の高い内視鏡診断と治療が行えることが特徴です。内視鏡検査の治療実績においては、上部内視鏡は年間4,000件を超え、下部内視鏡は3,000件近くの件数を誇ります。同科が導入している医療器具は以下の通りとなります。

 

高画質電子内視鏡システム

高画質電子内視鏡システムは、上部・下部内視鏡とともに患部の細かなところまで見ることができます。

 

硬度可変式最新電子スコープ

下部消化管疾患の患者さんに対して使用する、硬度可変式最新電子スコープは、腸の状態に応じて内視鏡の硬さを変えることができ、微細な内視鏡診断を実現させています。

 

超音波内視鏡

胆のう、膵臓疾患の診断や消化管がんの深達度の診断に効果を呈する高性能機器です。

 

小腸内視鏡

消化管のなかでも高精度な診断検査は難しいとされていた小腸でしたが、この小腸内視鏡によって小腸全域の観察が可能になりました。

 

多岐にわたる医療機器は、それ以外にも上部拡大内視鏡、NBIシステム、経鼻内視鏡、カプセル内視鏡などを備えています。そのほか、肝臓、胆のう、膵臓疾患の診断をする場合にはCTとMRIを用いた画像診断も行っています。

 

また、同科では、慢性肝炎に対してはインターフェロン療法、肝臓がんに対してはラジオ波療法・動注療法なども行っています。特殊な治療としては潰瘍性大腸炎に対する顆粒球除去療法、クローン病に対する抗TNF-α抗体療法を行っているほか、あらゆる消化器がんに対して外来化学療法も実施しています。

 

外科には、胃がん大腸がんをはじめとした消化器がんに加え、甲状腺腫瘍胆石症、急性虫垂炎、鼠経(そけい)ヘルニアなど、豊富な手術実績があります。そのほかにも消化器疾患、甲状腺疾患、良性・悪性腫瘍、外傷急性腹症などの消化器外科疾患全般を幅広く診ています。

 

どのような疾患であっても適切な処置をするために、消化器内視鏡外科を専門とする医師、肝胆膵外科における高度技能を有する医師、内分泌・甲状腺外科を専門とする医師を配置し、高い水準の医療を提供しています。消化器がんについては、消化器内科と連携し、低侵襲の内視鏡手術を積極的に取り入れています。

 

がんの治療で重要視しているのは、安全性と根治性です。また、化学療法のための外来化学療法室を備えており、がん手術後のフォローにも力を入れています。さらに、再発抑制のための補助化学療法や再発がんに対する化学療法も行っています。

 

整形外科では、外傷センターと脊椎センターを有し、外傷・骨折と脊椎脊髄疾患を得意としています。地域の高齢化によって大腿骨近位部骨折が増加していますが、外傷センターには骨折治療を専門とする医師が所属しており、内科や麻酔科と連携して早期手術を施行して成果をあげています。

 

脊椎センターには脊椎脊髄疾患を専門とする医師が所属し、高い水準の医療を提供しています。脊椎手術件数は県内でも有数の実績を誇り、近隣の地域ばかりでなく県内外からも多数の患者さんが紹介されてきます。

 

脊椎疾患治療について

脊椎手術の進歩は目覚ましく、皮膚切開を最小限にとどめ、顕微鏡視下に行うことで術後の疼痛や合併症を可能な限り抑えられるようになりました。また、高性能3.0TMRIを用いて脊椎疾患の詳細な病態の把握を可能にし、脊椎の痛みに対しては神経ブロックで対処しています。ご高齢の患者さんが多いこともあり、低侵襲治療を原則としています。

 

急性期疾患の手術後の早期リハビリテーションは非常に重要です。私が当院に赴任した2011年頃には、リハビリスタッフは4名だったため、リハビリテーション科の拡充を図りました。現在では理学療法士、作業療法士、言語聴覚士をすべて含めて29名のスタッフが在籍しており、リハビリテーションは当院の自慢できる分野へと成長しました。

 

当院では、原則として脊椎外科手術の翌日の朝飯前から歩行訓練を行ってもらっています。 リハビリスタッフに早朝から出勤してもらい、対応してもらっています。当院では、ご高齢の患者さんを含めても90%以上の患者さんが歩行可能となっています。可能な限り早期にリハビリを開始することが、早期の回復につながります。

 

私は院長就任以来、人材育成や病院機能充実化のために全国各地の病院に赴き、経営から医療技術、マネジメントや研修制度などを学び、当院に持ち帰ってきました。その結果、当院は若い人材にとって魅力的な病院へと成長することができました。病院のみに限らず組織の繁栄には、若い人材は欠かすことのできない大切な存在です。彼らが成長できる環境整備や取り組みなどを積極的に試みています。

 

福島市には、臨床研修病院が3つあります。その3つの病院の頭文字をとって、「NOWプロジェクト」というものを発足させました。これは、福島市のバックアップのもと3つの病院が共同で研修医の教育を行うというものです。研修は、プログラム内容の充実だけでは十分ではありません。現場で活躍している優秀な指導医からの教育が必須です。さらには全国各地から一流の指導医を招聘して教育してもらう機会を作っています。NOWプロジェクトの発足によって、福島という場所であっても全国トップレベルの研修が受けられるように変わりました。そうした取り組みの結果、研修医の意識や向上心も高まり、自然と医学生に対するアピール効果もあり、学びたいという研修医が数多く集まってくるようになりました。

院長と初期研修医

 

●医療の質向上のためのTQM活動

TQM活動とは、医療の質の改善(Total quality management)のための取り組みです。医師を含めて多職種でチームを編成し、病院改善のために具体的な目標を掲げて活動をしています。この活動では、全職員に院内の改善テーマを見つけてもらい、テーマが同じ職員同士でチームを組みます。チーム編成後は、各チームが取り組み内容を発表し、1年間にわたり改善活動を実施して、最終的にその結果を発表します。そのなかでもっとも優れたチームには、一般社団法人医療のTQM推進協議会の主催する「医療の改善活動全国大会」に参加してもらっています。この取り組みは、参加型であるため職員のモチベーションが高まり、団結力が強まるほか、職種間の垣根が低くなることでコミュニケーションの円滑化にもつながるなど、豊富なメリットがあります。

TQM発表大会

 

当院の強みのひとつである地域医療連携室では、室長とスタッフ全員の努力のおかげで、地域の連携登録医が400名を超えています。心がけてきたことはシンプルであり、紹介患者をしっかり管理することはもちろん、電話でのやり取りを丁寧に行うこと、可能な限り紹介を断らないことなど基本的なことです。いざというときに、登録医にとって頼れる存在でありたいと思っています。

カフェを併設した総合受付と地域連携室

 

福島県の地域性として、脳卒中心筋梗塞といった脳血管疾患で亡くなる方の割合が全国平均より多くなっていることが挙げられます。そこで、改善策として減塩プロジェクトを発足させました。地域住民のみなさまの関心も高く、主催イベントには100名近くの方が参加されたこともあります。また、この減塩プロジェクトはTQM活動のなかで生まれたアイデアでもあります。当院では、腰痛を治療するための腰痛教室を開くなど、慢性疾患の自己管理法を学んでもらう講座も行っています。

 

地域に優良な病院があれば、住民のみなさんは安心して暮らすことができます。一方で病院は、時代の変化や地域の医療ニーズにマッチしていないと生き残れません。そのうえで、社会貢献が求められています。全国的に少子高齢化の傾向がますます強まってきているなかで、病院が何をなすべきかを常に考えて行動したいと思っています。

 

今後、当院が取り組んでいきたい分野は4つあります。

1つ目は、安心して子どもを産み、育てられる社会にするために、当院はより子どもと女性に優しい病院になりたいと思っています。

こども病棟内わくわくルーム

 

2つ目は、高齢化社会のニーズにしっかりと応えるために総合的な医療体制を整え、救急医療を充実させていこうと思っています。

 

3つ目は、健康寿命の伸延のために市民のみなさんに対して健康講座などを積極的に開催していこうと思います。

 

4つ目は、病院が街中にあるメリットをいかし、安心して暮らせる街づくりにも貢献したいと考えております。

将来的に、福島がよりよい地域になるために努力してまいりたいと思います。

佐藤勝彦先生

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