院長インタビュー

熊本市立熊本市民病院―熊本地震を乗り越え新病院で目指す医療とは

熊本市立熊本市民病院―熊本地震を乗り越え新病院で目指す医療とは
髙田 明 先生

熊本市立熊本市民病院 院長

髙田 明 先生

目次
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熊本県熊本市に病院を構える熊本市立熊本市民病院(以下、熊本市民病院)は、2016年4月に発生した熊本地震によって甚大な被害を受けました。地震以降、病院機能の縮小を余儀なくされるなか、病院再建に向けて再建案の検討を重ね、新病院の着工に乗り出しました。

現在、熊本市民病院は2019年10月の新病院開院を目指し、順調に歩みを進めています。熊本地震を乗り越え、新病院で目指す医療について、院長である髙田明先生にお話を伺いました。

熊本市立熊本市民病院 外観
熊本市立熊本市民病院 外観

当院は、1946年に9診療科、76床の熊本市立民生病院としてはじまりました。その後、診療科の新設と増床を重ねながら、地域の皆さんの健康を支える地域の中核病院(34診療科、556床)としての役割を担ってきました(2016年4月時点)。

2016年4月に起きた熊本地震によって病院が被災し、診療を継続することが難しい状況となりました。地震後から現在まで、診療や病院機能を縮小する形で医療提供を続けています(2019年5月現在)。

2019年10月に新病院を開院するにあたり、地震などの災害に強く、いかなるときも地域の皆さんへ医療提供ができる病院となれるよう準備をすすめています。当院は、0歳児からご高齢の方まで、幅広い世代の皆さんの健康を守る存在となれるよう、職員一同、力を結集してまいります。

周産期医療は、当院の診療における柱のひとつです。しかし、熊本地震後、当院は大きな被害を受け、診療停止に陥りました。そこで、少しでもその機能を回復させるため、2016年12月に新館の一部を改修し、新生児病棟をつくりました。現在はNICU(Neonatal Intensive Care Unit:新生児集中治療室)9床とGCU(Growing Care Unit:後方病床)5床の運用を行い、熊本大学病院、医療法人社団愛育会 福田病院と連携しながら新生児患者さんの受け入れを行っています。

2019年5月現在の新生児病棟の様子

2019年5月現在の新生児病棟の様子

次の項目では、周産期医療から各診療科に引き継ぎ、小児・成人期へと途切れることなく医療を提供する当院の取り組みについてご説明します。

周産期母子医療センターでは、合併症をお持ちの妊婦さんや異常妊娠*・異常分娩*など、出産のなかでも特にハイリスクとされる妊婦さんに対応しています。また、1000g未満の超低出生体重児や、心疾患・合併症を有する新生児や乳幼児などの診療を行う総合周産期母子医療センターの役割を担ってきました。新病院が開院した際には、早急に整備を進め、周産期医療機能を復活・充実させていく予定です。

異常妊娠…子宮内に複数の赤ちゃんがいる多胎妊娠や、子宮外妊娠などのハイリスクな妊娠の総称。

異常分娩…早産や帝王切開などのハイリスクな分娩の総称。

新生児や小児の心疾患に対する診療・手術ができることが当院の特徴です。心臓に病気を持つお子さんは、手術や長期間にわたる治療や経過観察が必要な場合が多くあります。そこで当院では、小児循環器内科・小児心臓外科、さらに成人の循環器内科の連携によって、心疾患を持つお子さんが新生児から成人期まで診療できる体制を整備する予定です。

現在は、熊本地震の影響があり、重篤な心疾患で手術を要するお子さんを県外の施設にご紹介している状況です。そこで、生後2か月以上のお子さんで手術治療が可能な場合には、熊本大学病院の協力をいただき、当院のスタッフが熊本大学病院に出向いて手術や術後管理を行っています(2019年5月時点)。

新病院の開院に伴い、熊本地震以前と同様に心疾患のお子さんの診療・手術を実施する体制を整えていきます。加えて、心疾患を抱えるお子さんに対して継続した診療を提供してまいります。

近年、高齢出産は増加傾向にあり、出産にリスクのある妊婦さんも増えています。このような社会で、若い世代の方々が求めることとは、周産期母子医療センターの充実によって、安心して出産や育児ができる地域づくりではないでしょうか。

今後は、多様な病気を抱えるお子さんに対しても、複数の診療科で連携体制を取り、大人になるまで診療を担う所存です。このような取り組みによって、お子さんを育てやすい地域づくりに尽力していきます。

新病院完成予定図
新病院完成予定図

熊本地震後、救急診療を中断せざるを得ない状況になってしまいました。地域の皆さんにも多大なるご迷惑とご心配をおかけしていると痛感しております。

地域の皆さんの当院に対する思いに応えるためにも、新病院の開院後は、救急診療に力を入れていきたいと考えています。以前と同じように二次救急を担うべく、24時間365日体制で救急診療を行っていきます。新病院は免震構造やライフラインの多重化など災害に強い病院となっています。加えて、新病院にはヘリポートを配備しており、有事の際にも救急医療を提供できる病院に生まれ変わる予定です。また、災害にそなえた設備や人員配置などの整備にも努めます。

当院は、エボラ出血熱や新型インフルエンザなどの感染症に対応する感染症指定医療機関です。現在は、熊本地震の影響によって診療ができない状況ですが、当院は第一種感染症の患者を受け入れられる熊本県唯一の病院でもあり、重要な役割を担う必要があります(2019年5月時点)。

新病院では、感染症病棟の設備の充実を行っていきます。また、熊本県内の感染症指定医療機関および県行政と連携しながら、熊本県の感染症対策にも取り組んでまいります。

当院は、2003年にユニセフが認定する「赤ちゃんにやさしい病院」に認定されました。新病院開院後もその精神を引き継ぎ、周産期医療や小児医療に注力いたします。

助産師による専門外来では、出産前の心配ごとや母乳育児に関するお悩みなど、お母さんが一人で抱え込まないように、気兼ねなく相談できる雰囲気づくりに努めています。

当院は、お子さんにもお母さんにも優しい病院であれるよう、さまざまな取り組みを行っていきます。

どれほど技術革新が進んだとしても、患者さんの声を直接聞くこと以上に大事なことはないと私は考えています。それは、医師が患者さんとベッドサイドで話し、患者さんの声をしっかり受け止めることが病気の兆候を見逃さない第一歩と思うからです。

若手医師の皆さんには、患者さんの声に耳を傾け、その声に真摯に応える姿勢を忘れないでいただきたいです。単に電子カルテ画面上のデータだけで、患者さんの状況を判断してしまうのではなく、実際に患者さんのそばに行き、患者さんの声を聞いて診療する医師になってください。

地域の皆さんには、ご自身の病気のことを何でも相談できる、かかりつけ医をつくっていただきたいと考えています。

当院は、幅広い診療科をそろえ、周産期医療や感染症医療も担う地域の急性期中核病院です。当院はかかりつけの病院やクリニックでは対応が難しいときに治療を引き継ぐ、地域医療支援病院としての役割を果たしてまいります。

高田先生

地域の皆さんには、熊本地震前と同様の医療を提供できていない状況が続いていることを大変心苦しく感じています。地震後、地域の皆さんにどのような医療が求められ、どのように応えていくべきなのか、職員一人ひとりが考えてきました。

新病院の開院に際し、各方面や地域の医療機関、さらには地域の皆さんの意見を伺ったうえで、新病院の役割を検討いたしました。具体的には、周産期医療・小児医療の充実、24時間体制の二次救急医療や急性期医療の提供と、災害に即時対応できる体制や感染症医療などの整備です。

新病院では、地域の皆さんが住み慣れた地域で生活を続けられるよう、医療という側面から地域の皆さんを支えてまいります。

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