院長インタビュー

結核やてんかんなど、社会が必要とする医療を提供する――奈良医療センター

結核やてんかんなど、社会が必要とする医療を提供する――奈良医療センター
メディカルノート編集部  [取材]

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奈良県奈良市にある奈良医療センターは、1950年に国立の結核の診療所として開設されました。当初から結核や神経難病などのセーフティ医療(政策医療)に注力し、現在でも各分野のスペシャリストを集めた特殊専門外来を開設するなど、奈良県の地域医療を支えています。そんな同院の役割や今後について、院長の永田 清(ながた きよし)先生にお話を伺いました。

当院は1950年に、結核の診療を行う結核病床200床の国立奈良療養所として開設しました。その後、重症心身障害児病床や筋ジストロフィー病床を新設するなど、開設当初からセーフティ医療(政策医療)に取り組んでおり、現在も呼吸器内科診療、てんかん、機能脳神経外科、発達障害などの分野の診療に積極的に取り組んでいます。2004年には国立病院機構奈良病院と統合し、奈良医療センターに改称しました。

現在の病床数は一般病床が174床、結核病床が30床、筋ジス病床が36床、重症心身障害者病床が100床で、合計で340床になります。患者さんの多寡にかかわらず、社会にとって重要な分野の治療をより専門的に行えるよう、その分野のスペシャリストを集め、特殊専門外来を開設して診療に取り組んでいます。

救急においては、近隣に3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)の役割を担う奈良県総合医療センターがありますので、当院はそれらの病院に搬送されたものの、軽症で手術がいらないと判断されたケースや、満床で患者さんの受入ができないなどといったケースで連絡をいただき、患者さんを受け入れています(“下り搬送”と呼ばれています)。また、奈良県立医科大学とは患者さんの受け入れ協定を結んでいます。奈良県の地域医療全体を考えた場合、急性期治療後の継続的な治療や、急性期からのリハビリテーションなどを行う当院のような存在は、とても重要だと自負しています。

2010年にてんかんセンターを開設し、てんかんの専門的な検査・診断・治療を行っています。当院では、てんかん診療を専門とする医師が在籍し、2021年に奈良県てんかん診療拠点機関に指定されました。また、今年(2024年)の春からてんかん外科を開設し、外科的治療も実施しています。これにより、てんかんに関しては内科的治療から外科的治療まで全て行うことが可能となりました。

てんかん診療における当院の特徴は、“長時間ビデオ脳波モニタリング”を、年間100件ほど*実施しています。一般的な脳波の検査では時間に制約があるのですが、その間に脳波の異常が見られないと、てんかんと診断するのが難しいケースもあります。長時間ビデオ脳波モニタリングの場合は、5日間ほど入院していただき、時間をかけて脳波を測定します。その際の脳波をもとに判定するため、かなり正確な診断となっています。

*長時間脳波ビデオモニタリング検査年間実績……2020年度:110件、2021年度:101件、2022年度:101件

機能的脳神経外科では、脳や脊髄(せきずい)を電気で刺激したり、一部を破砕したりして、さまざまな神経の病気や症状を改善するための手術を実施しています。電気刺激や薬物の持続注入により神経(ニューロン)の働きを変える技術を使うことから、最近ではニューロモデュレーション治療とも呼ばれています。

当院は国立病院機構の病院として、セーフティ医療(政策医療)を積極的に展開する役割を担っています。

たとえば呼吸器内科では、奈良県における結核の拠点病院として結核の診療を積極的に行っており、2022年には91名の入院患者を受け入れました。また、近年増加傾向にある非結核性抗酸菌による肺の慢性感染症“肺MAC症”の診療実績も多く、年間400名以上の患者さんの管理を行っています(2024年8月時点)。結核については周辺で診ることができる病院が少ないことから、当院の役割は大きいものであると感じています。

また、小児神経科では専門外来として小児神経外来を開設し、小児期におけるてんかん・頭痛・発達の問題・行動の問題・体の麻痺・睡眠の問題など、脳や神経の病気の診療を行っています。特に発達障害などは、専門的な診療をしている病院はそれほど多くありません。当院ではセーフティ医療の観点からも診療に力を入れており、行動療法・薬物療法を取り入れながら、社会生活ができるだけ円滑に行えるようにサポートしています。

当院の周辺は桜の名所になっていて、春になると多くの方が訪れます。そこで地域の皆さんに満開の桜を見ていただきながら日頃の健康チェックを行い、健康に関する知識を深めていただくため、周辺地域の自治連合会と協力して“さくら健康まつり”を開催しています。

これまで開催したさくら健康まつりでは無料で参加できる検査コーナーを開設し、血管年齢測定や骨密度測定などを実施しました。体験コーナーでは嚥下(えんげ)食クッキングや救急処置・AED実施体験を実施し、相談コーナーでは看護師による床ずれ相談やリハビリテーションに関する相談などを受けており、毎回多くの方にご参加いただいています。同時に開催している市民公開講座では、さまざまな病気に関する情報を発信しています。過去には脳卒中血管性認知症の治療と予防、早期発見などをテーマに開催しており、今年(2024年)はてんかん外科を開設したこともあり、てんかん講演会を実施しました。

忘己利他(もうこりた)”という言葉があります。“己を忘れて他を利する”という仏教の教えです。働き方改革の時代ではありますが、医療人として心に留めておきたいと思っています。

当院では開設当初から、結核や神経難病、重症心身障害(重度の身体障害と知的障害が重複している状態)などセーフティ医療を中心に、結核やてんかん、機能脳神経外科、発達障害など、重点的に行っている病院は少ないものの、社会にとって重要な分野の診療に取り組んでいます。専門的な治療ができるようそれぞれの分野のスペシャリストを集め、特殊専門外来も開設もしてきました。

また、近年は地震をはじめさまざまな災害が危惧されていますので、奈良市内の重症心身障害者施設とのあいだで「災害時における療養介護事業所のある医療機関への入院に関する協定」を締結するなど、障害のある方(特に重症心身障害者)を大規模災害時に受け入れる準備を進めています。このように当院の強みを生かしながら、地域の皆さんに対してできることを1つずつ実践していきたいと思います。

*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年8月時点のものです。

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