院長インタビュー

栃木県北医療における“最後の砦”として地域を支える那須赤十字病院

栃木県北医療における“最後の砦”として地域を支える那須赤十字病院
井上 晃男 先生

那須赤十字病院 院長

井上 晃男 先生

目次
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日本赤十字社 那須赤十字病院が開設されたのは、1949年のことです。日本赤十字社栃木県支部 大田原赤十字病院として開設されたのが始まりで、2012年に移転新築し、新たに“日本赤十字社 那須赤十字病院”として誕生しました。現在は460床を有し、三次救急を担う県北最大の基幹病院として地域医療を支えています(2024年12月時点)。同院の取り組みや今後の展望について院長の井上 晃男(いのうえ てるお)先生にお話を伺いました。

外観
病院外観(那須赤十字病院ご提供)

当院は、全国に91か所ある赤十字病院の1つです。もともとは、大田原赤十字病院として長い間、地域住民の皆さんに頼られてきた病院でした。

2011年の東日本大震災で建物が被害を受け、一時は病床数を大きく減らしていました。その後は新築移転し、460床の病床と29の診療科を構え、高齢化する地域住民の皆さんの幅広い病気の診療に対応しています。

当院の救命救急センターは県北地域では唯一、三次救急に対応しています。三次救急の役割は重症で高度な処置を要する患者さんを受け入れることであり、最後の砦とも言うべき位置にいます。当院では、獨協医科大学病院のドクターヘリとも協働しており、屋上と駐車場の2か所にヘリポートを備えて風の強い日でもドクターヘリが降りられるようにしています。また、ドクターカーも導入しています。今後もさらに体制を強化して、“断らない救急”を実現していけるように努めてまいります。

当院は日本赤十字社の病院であるため、地域災害拠点病院としての役割も重要だと考えています。これまでに航空機の墜落事故や新潟県中越地震、東日本大震災など、数々の災害時に当院からも救護活動に参加してまいりました。2024年1月の能登半島における震災時には、早い段階から当院DMATや赤十字救護班などの災害派遣チームが現地入りし、活躍してくれました。

また2024年8月にはALSOKグループの北関東綜合警備保障株式会社との正式な締結により、同社のレスキュー隊と当院の災害救護チームが、来るべき災害時には合同で活動を行うことになりました。今後災害時に備えての両チームの合同訓練が定期的に行われる予定です。民間警備会社と医療機関のこうした提携は、全国初の試みとして注目を集めています。

当院の脳卒中センターでは脳出血脳梗塞くも膜下出血などの脳卒中の患者さんを積極的に受け入れております。当院の脳神経外科チームは、脳動脈瘤の開頭クリッピング手術に関して全国的に見ても高度な技術を有しており、くも膜下出血における緊急クリッピング術を24時間365日体制で実施しております。また急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法(t-PA療法)も精力的に行っており、カテーテルを用いた血栓回収療法も実施すべく最終準備を進めているところです。

当院の循環器内科チームは冠動脈カテーテル治療(PCI)を得意としており、急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)に対する緊急PCIに関しては、オンコール体制で24時間365日、断ることなく患者さんを受け入れています。また、慢性完全閉塞病変(まんせいかんぜんへいそくびょうへん)(3か月以上、冠動脈が完全に詰まった状態)を再開通させる手技に関しては全国的に見ても高度な技術を有しており、通常のカテーテル治療では困難な治療においてもさまざまな新規技術を導入し対応しています。さらには冠動脈疾患以外の末梢動脈病変に対するカテーテル治療(EVT)も積極的に行っています。

当院では新世代の高性能CTスキャン装置(キャノンメディカルシステムズ)を導入予定です。本装置は特に脳血管、冠動脈などの血管撮影に威力を発揮します。搭載されたAI機能によりノイズが除去されることにより、極めて鮮明な血管描出が可能です。冠動脈疾患の最終診断にはこれまでカテーテルによる冠動脈造影が必要でしたが、本装置は不必要な冠動脈造影を回避することを可能にします。今後本装置を積極的に用いることで脳血管疾患、冠動脈疾患の診断効率の向上が期待できます。

当院は、地域周産期母子医療センターとしての役割も担っており、小児科と密に連携を取りながら、ハイリスクな分娩にも対応しています。助産師外来やバースセンターを設けているのも、当院の産婦人科の特徴です。リスクの低い妊産婦さんであれば、同科の助産師による健診を受けたり、院内に設けられたバースセンターで自然分娩をしたりすることも可能です。

また、マタニティークラスやWebマタニティー教室も開催しており、出産前から産後まで安心して過ごせるようなサポートを心がけています。

当院の小児科は、NICU(新生児集中治療室)3床、GCU(発育支援室)6床を有しており(2024年12月時点)、早産児や病的新生児にも対応しています。また、外来では内分泌・肥満、心臓、腎臓、神経、喘息アレルギー、血液、新生児フォローアップなどの専門外来も行っています。

当院は“地域がん診療連携拠点病院”に指定されており、栃木県内で5か所あるうちの1つとなっています(2024年12月時点)。治療の面では、手術や放射線療法、化学療法を効果的に組み合わせて行う集学的治療を実施しており、手術支援ロボット(ダ・ヴィンチ)も導入しているため体への負担が少ない低侵襲(ていしんしゅう)な治療も可能です。また、がん患者さんを支えるために、治療以外の部分でもさまざまな取り組みを行っています。中でも特徴的なのが、“がん患者さんの就労支援”“緩和ケア病棟”“がん患者会”です。

当院は、県内でもいち早くがん患者さんの就労支援に取り組み始めました。社会保険労務士の方に来ていただき、就労に関する相談を受け付けています。その取り組みが評価され、宇都宮にあるハローワークとの連携もできるようになりました。

当院では2013年に緩和ケア病棟が開設されました。がん患者さんを対象に、他職種間で構成された緩和ケアチームが治療にあたっています。緩和ケア病棟で行うのは治すための治療ではなく、痛みなどの苦痛を取り除くための治療です。落ち着いた空間で過ごし、ご家族との時間もゆっくり取れるように、治療だけでなく環境づくりにも配慮しています。

当院にはがん患者会が2つあります。1つは“がん患者と家族の会 ピアサポート那須”もう1つは“乳がん患者会 マンマぴあルーチェ”です。どちらも代表となっているのは元患者さんですが、実は私自身もがんを経験しており、がん経験者として患者会でお話をさせていただくことがあります。やはり経験者としての言葉は患者さんには届きやすいと実感したこともあり、今後は患者会としての活動はもちろん、がん経験者を招いて市民公開講座なども行っていければと考えています。

当院は2024年10月1日にがんゲノム医療連携病院に認定され、今後ゲノム医療にも関わっていく予定です。

当院ではチーム医療を実践しており、感染対策や褥瘡対策(じょくそうたいさく)、栄養サポート、入退院支援などさまざまな領域でチーム医療を行っています。チーム医療とは、より質の高い医療の提供を目指し、専門の異なる多職種が集まってチームとなり患者さんをサポートすることです。

当院は、地域医療支援病院として承認を受けており、地域の医療機関と連携しながら患者さんに適切な医療を提供できるよう努めています。県北は当院に限らず地域全体で医師数が不足しており、病病連携、病診連携などの医療連携が重要です。これまで院長自ら地域の全ての医療機関を一軒一軒訪問して回ることで、“顔の見えるコミュニケーション”を心がけながら信頼関係を築いてきました。

また、地域医療連携室を“院長直属”に組織改編し、職員の権限を強化しました。現在、患者さんの紹介、逆紹介は全て“院長責任”で進めております。当院ではかねてより、地域の医療機関から、各診療科への紹介を経ずに直接CTやMRIなどの画像診断サービスを提供できるシステムを構築しており、ご好評いただいております。最近では新たに、地域の登録医からの病理組織検体の処理、診断を受け入れるサービスを開始したところです。このように当院は地域医療連携を強化することで地域全体の医療の質向上を目指した活動を行っています。

この四半期の目覚ましい医学の発展により、さまざまな疾患領域で高度な最先端の医療が提供されるようになり、治療の選択肢も増えました。そしてかつては終末期といわれた病状に対しても治療が可能となりました。しかしながらどんな疾患も早期発見、早期治療が重要ですし、さらには発症予防に努めることが医療経済の観点からも有益です。当院は疾患予防(一次予防・二次予防)のための取り組みにも力を入れています。

当院予防医学センターでは各種健診、人間ドックを実施しています。健診部門では個人利用者とともに契約事業所からの受診者も受け入れており、定期健診のみならず特定健診、特定保健指導なども行っています。人間ドック部門は、現在は半日または一日ドックのみですが、さまざまな血液検査や画像検査オプションを取り入れ、さらにはレディースドックやロコモ・フレイルドックなどの領域別ドックも実施しています。将来はさらにオプションを増やし、ハード・ソフト面を整備し、一泊ドックも取り入れるべく事業拡大を計画中です。

脆弱な県北の医療体制を強化するとともに、地域住民の“健康”“疾病”“医療”に関する意識向上を図ることも当院の大きな使命です。今後行政関連部門との密な連携のもと、地域住民向けの“健康教室”や“健康セミナー”“市民公開講座”などをこまめに実施していきたいと考えています。

地域の発展は医療の発展とともにあり、医療の発展なくして地域の発展はないと考えます。これからも新たな視点で地域医療に貢献できるよう、改革を進めていきたいと考えています。地域のさまざまなイベントへの参加や病院祭での斬新な企画など、医療以外の面でも社会活動を積極的に行い、当院の存在を広くアピールしていきます。そして、当院の理念である“マイタウン・マイホスピタル ~地域に根ざし、ともに歩み、心ふれあう病院に~”を礎に、地域の皆さんに信頼され、愛され、よりよい病院へと進化していくよう、これからも尽力してまいります。

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