インタビュー

多量の腋汗(わきあせ)とニオイは対策できる? 原発性腋窩多汗症の患者さんができること

多量の腋汗(わきあせ)とニオイは対策できる? 原発性腋窩多汗症の患者さんができること
百澤 明 先生

山梨大学医学部附属病院 形成外科 教授・診療科長

百澤 明 先生

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原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)は、(わき)に過剰に汗をかく病気です。患者さんの中には、わき汗が気になって人前に出られなかったり、仕事に支障が出たりして悩んでいる方も少なくないといわれています。多量の汗と同時に、腋のニオイが気になる方もいるでしょう。多量のわき汗やニオイを抑えるために、できることはあるのでしょうか。

原発性腋窩多汗症や、腋のニオイに対する治療について、山梨大学医学部附属病院 形成外科診療科長の百澤 明(ももさわ あきら)先生にお話を伺いました。

原発性腋窩多汗症とは、ホルモンや神経の異常など汗をかきやすくなるほかの原因がないにもかかわらず腋に過剰に汗をかく病気です。日常生活に支障をきたすほど多量のわき汗が出る点が特徴です。

原発性腋窩多汗症の多くは思春期以降に発症します。原因は明らかになっていませんが、発症には遺伝も関与しているといわれており親子ともに現れるケースもあります。

原発性腋窩多汗症を発症している方の中には、腋のニオイを気にする方も少なくありません。汗の量だけでなくニオイも気になるという場合には、腋臭症(えきしゅうしょう)という別の病気を併発している可能性があります。腋臭症とは、腋の下から特有のニオイが放たれる病気のことを指し、“ワキガ”と呼ばれることもあります。

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提供:PIXTA

原発性腋窩多汗症と腋臭症は関連があると考えている方もいるかもしれませんが、実はまったく別の病気です。汗を分泌する汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類があり、エクリン汗腺が原発性腋窩多汗症、アポクリン汗腺が腋臭症の発症に関与します。

それにより原発性腋窩多汗症と腋臭症には、多量のわき汗が気になるのか、腋のニオイが気になるのかという違いがあります。

原発性腋窩多汗症はわき汗が過剰に出る病気ですが、多量の汗と同時にニオイを気にする患者さんが多いのも事実です。当院の例を挙げると、受診される患者さんの約3分の2は汗の量とニオイの両方について相談されます。

原発性腋窩多汗症の方が腋臭症を併発しているかどうかは、基本的に患者さんの訴えを基に判断しますが、耳あかが湿っている、家族に腋臭症の方がいる、シャツにわき汗の黄ばみができる場合には腋臭症の可能性が高くなりますので、これらを判断材料にすることもあります。

多量のわき汗やニオイが気になる方は、セルフケアだけでなく、以下のように医療機関で治療を受ける選択肢もあります。

抗コリン薬の外用薬は、寝る前など1日1回腋につけるタイプの塗り薬です。腋からの発汗にはコリン作動性交感神経が関与していて、塗り薬を使うことでこの交感神経のはたらきを抑えることが可能です。実際に使用した患者さんの中には、「しばらくこれでいい」とおっしゃる方もいます。

抗コリン薬の塗り薬は長期処方が可能になったので、1~2か月分をまとめて処方しています。患者さんには2か月ごとなど定期的に受診してもらい、効果を実感できているか、接触皮膚炎かぶれ)が出ていないかなどを確認します。毎日塗り薬を使うのが面倒に感じる方や接触皮膚炎が起こって腋窩(腋の下)の皮膚がかぶれてしまった方などは、A型ボツリヌス毒素による治療がおすすめです。

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抗コリン薬の塗り薬が副作用で使用できなかったり効果が不十分だったりした場合は、A型ボツリヌス毒素による治療をおすすめします。これは、A型ボツリヌス毒素を腋窩の皮膚に注射する方法です。

A型ボツリヌス毒素は神経と汗腺の接合部に作用して、神経伝達をブロックすることで発汗を抑制します。効果は4~6か月程度続くので、夏場のみ症状が気になる方は1年に1回、通年で症状が気になる方は1年に2回注射することが多いです。

A型ボツリヌス毒素による治療は、症状の重症度を測る指標であるHDSSを基に、保険適用になるかどうかが決まります。具体的には、以下に示す①~④のうち、③以上に当てはまる場合は、保険診療で治療を受けることができます。

自覚症状により

①発汗は全く気にならず,日常生活に全く支障がない.
②発汗は我慢できるが,日常生活に時々支障がある.
③発汗はほとんど我慢できず,日常生活に頻繁に支障がある.
④発汗は我慢できず,日常生活に常に支障がある.

原発性局所多汗症診療ガイドライン2015年改訂版より引用】

自費診療の場合の費用は、1回3〜4万円(税込)が相場です。原発性腋窩多汗症の治療に用いる投与量では副作用はほとんどありませんが、注射時に軽い痛みを生じる場合があります。

治療の特徴

マイクロ波メスによる治療は、電子レンジにも使用されているマイクロ波という電波を腋の下に照射して、汗腺を熱処理する治療法です。保険適用外で自費診療となり、当院では33万円(税込)ほどの費用がかかります。

施術にかかる時間は1時間から1時間半ほどで、事前予約が必要です。治療の効果やメカニズム、過去の治療成績や合併症のリスクについてあらかじめ説明したうえで、納得していただけた方のみ施術に進みます。施術当日は、腋の毛を事前に剃っておく以外に患者さんが準備することは特にありません。

マイクロ波は、効果を最大限に発揮するため基本的には最大出力で照射します。ただし、患者さんのご事情によっては出力を抑えて照射することもあります。出力を抑えて照射した事例を1つ挙げると、結婚式を1か月後に控えた女性の患者さんへの治療です。その方のご希望は、結婚式までにわき汗を軽減させつつ、当日に腋の傷あとが残っていない状態にしたいというものでした。

一時的でもやけどの傷あとが残らないことを優先する場合は、出力を下げても料金が変わらないことを了承していただいたうえで、少し出力を下げて施術を実施します。

起こりうる合併症

施術後に起こる可能性のある合併症には、やけど、拘縮(肉を焼いた後のように患部が縮んで引きつってしまう症状)、膿瘍(のうよう)(患部から菌が感染してがたまってしまう症状)があり、三大合併症といわれています。そのほか、施術した側の上腕の神経障害が起こることもあります。

患者さんには実際の症例をお見せしながら、時間がたった後の傷あとが気にならないのであれば最大出力で照射して、わき汗やニオイを減らすことを優先するようおすすめしています。やけどは半年ほど経過するときれいになることがほとんどです。患部の肌が引きつってしまう拘縮も、半年から1年ほどでほぼ回復するので大きな問題になることは少ないでしょう。

ニオイ対策としても有効な理由

マイクロ波メスは原発性腋窩多汗症を対象とした治療ですが、当院で400人ほど施術を実施した結果、腋のニオイのほうがむしろよい結果が得られることが分かってきました。

マイクロ波メスによる治療が腋のニオイに効果が期待できる理由は、ニオイの原因であるアポクリン汗腺の分布が限られた場所にとどまっているためと考えています。わき汗を分泌するエクリン汗腺が広いエリアに分布しているのに対して、アポクリン汗腺は腋毛が生えているエリアに集中しているのです。そのため、アポクリン汗腺のほうがマイクロ波の照射範囲内に収まりやすいのでしょう。

マイクロ波メスによる治療を実施した後もわき汗が気になるという方に対しては、抗コリン薬の塗り薬やA型ボツリヌス毒素による治療を併用することもあります。

抗コリン薬の塗り薬とA型ボツリヌス毒素による治療、マイクロ波メスによる治療のどれを選択するかは、患者さんのご希望が最優先です。私たち医師は各治療法のメリット・デメリットや、患者さんの現状を踏まえて適応があるかどうかなどをお伝えします。お伝えした情報を基に患者さんに判断していただき、その方が選択された治療を実施するのが基本的な流れです。

中には、軽症であるにもかかわらず、ご本人が過剰に気にされているというケースもあります。多量のわき汗やニオイが認められない場合には、治療を行っても満足できないかもしれません。このように患者さんのご希望があっても治療の適応がないと判断した場合は、適応外になる旨を丁寧に説明します。

多量のわき汗やニオイに悩んでいる方の多くは、市販のデオドラントや制汗剤を使っていることでしょう。もしも市販のケア用品で効果を実感できない場合は、まずは抗コリン薬の塗り薬を試してみてください。抗コリン薬の塗り薬は薬理的な作用が認められた成分を配合していて、保険適用内での治療が可能です。実際に使用した患者さんも、効果を実感している方が多くいらっしゃいます。

抗コリン薬の塗り薬でもコントロールできない場合は、マイクロ波メスの治療がおすすめです。汗じみや腋の下の不快感など悩みの解決につながるかもしれないので、ぜひ一度相談してください。マイクロ波メスの治療を受ける際は、信頼できる医療機関で施術を受けてほしいと思います。実際に医師と話をして、丁寧に施術をしてくれる医療機関を選びましょう。

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  • 山梨大学医学部附属病院 形成外科 教授・診療科長

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