「更年期障害」と聞くと、女性に起こるものであるとイメージされる方も少なくはないでしょう。しかし現在、更年期障害に悩む中高年の男性が増えており、メンズヘルス外来などの専門機関も続々と登場しています。
女性とは異なる点も多い男性の更年期障害とはどのような原因により起こり、どのような症状を呈するものなのでしょうか。順天堂大学医学部泌尿器科学講座教授で、日本で初めてメンズヘルス外来を開設された経験をお持ちの堀江重郎先生にお伺いしました。
性ホルモン分泌の低下や乱れが原因で起こる「更年期障害」は、これまで女性特有のものと捉えられてきました
しかし男性にも、男性ホルモン・テストステロンの減少により、「加齢男性性腺機能低下/LOH(ロー)症候群」と呼ばれる様々な不調が起こります。
LOH症候群は一般的に「男性の更年期障害」と呼ばれ、近年大きな注目が寄せられています。本記事では、より普及している「男性の更年期障害」という言葉を用い、LOH症候群について解説していきます。
女性の更年期障害は、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの減少が原因となります。一方、男性の更年期障害の原因は、前項でも述べた「テストステロン」の減少です。
このテストステロンには次のような作用があります。
●筋肉や骨を作る
●男性の性機能を保つ
●自己表現や自己主張をしながら社会で活躍する源となる
このように、パワーやチャレンジ精神を湧き起こさせる「社会的ホルモン」としての役割も持つため、テストステロンが減少すると、心身だけでなく社会生活の面においても様々な影響が現れるのです。
テストステロンが急激に減少することで、はじめに現れる典型的な症状はED(勃起不全)です。夜間勃起(いわゆる「朝立ち」)がなくなることなどが、自覚しやすい初期症状です。
ED以外にも種々の男性機能の低下がみられるほか、疲れやすい、集中力が湧かず新聞や本を読むことができない、なんとなくだるいといった心身の不調が現れる方が多くいらっしゃいます。
不安/イライラする/不眠/記憶力や集中力の低下/性欲の減少
筋力低下/疲労感/ほてり・のぼせ/発汗/頭痛/めまい/耳鳴り/頻尿
更に、テストステロンとは男性が社会で活躍するために不可欠なホルモンであるため、減少してしまうことでその人を「引きこもりがち」「非社会的」にしてしまうことがあります。しばしば会社を定年した後に、社会的評価や刺激を受けなくなることからうつ症状を呈する方もみられますが(俗に「定年後うつ」といいます)、この年代の男性のうつ病や抑うつ状態も、男性の更年期障害の一環として捉えられる場合もあります。
また、働き盛りの男性であっても、休日に外出することが億劫になってしまい、自宅に閉じこもりきりになってしまうことがあります。これらが生活面に現れる典型的な変化です。
また、テストステロンにはストレス耐性を高める作用もあるため、ストレスに弱くなり、うつ状態に陥ってしまう男性も少なくはありません。
このほか、性格に変化が現れることもあります。いわゆる「男らしさ」を感じさせるような性格から遠ざかり、従属的な性格になったという方やそのご家族の方は、医療機関の受診を考慮したほうがよいでしょう。決断力や判断力の低下や、仕事に熱心に打ち込むことができなくなるといった変化が現れることもあります
先にLOH症候群のことを一般的に「男性の更年期障害」というと記しました。しかしながら、男性の更年期障害は、よく知られている女性の更年期障害とは根本的に異なります。女性の更年期障害は時間的・生物学的に捉えられますが、男性の場合はこれができません。以下に両者の差異を詳しく記します。
女性の更年期障害の原因はエストロゲンの減少であり、ほとんどの場合40代半ばで激減しはじめ、数年でほとんど0に近い分泌量になります。これは、40代後半から50代前半にかけて、「閉経」という大きなライフイベントを迎えるためです。
女性の更年期障害は、この時期の急激なホルモン分泌量の低下に体が追いつけず起こるものであり、数年後には体が慣れて不定愁訴も消失することがほとんどです。多くの場合、女性の更年期障害は「閉経の前後5年」に起こると認識していただけるとわかりやすいでしょう。
このことから、女性の更年期障害はきっかけが明らかであり、人生のある一時期に期間限定的に起こるものとして、生物学的に捉えることができます。また、閉経後数年で症状は治まるため「老化現象」とは異なります。
一方、テストステロンが減少する主な原因は、(1)加齢と(2)ストレスの2つです。このことから、男性の更年期障害は老化現象の一環として捉えることができます。
ただし、テストステロンの減少は30代からはじまるものの、どこまで低下するかといった数値などには個人差があり、同じ年齢の男性同士でも大きく異なるため、生物学的な視点のみで語ることはできません。
また、男性更年期障害の原因のほとんどには、過労や退職等、社会的な要因が関係しています。このようにきっかけがわかりにくく、個別具体的に社会的な視点から紐解いていかなければなられないという点に難しさがあります。反対に、女性の更年期障害は、「退職したから」「家庭環境がうまくいっていないから」というソーシャルな理由で発症するものではありません。
これに加え、男性の更年期障害は、女性の更年期障害のように一定の期間に限定的に起こるものではありません。ですから、打開策をご自身で見つけたり、病院で治療を受けない場合、長期間不調と付き合っていくことにもなりかねないのです。テストステロンとは、男性が健康に長生きしていくために不可欠なものといえるでしょう。
※治療法や打開策については記事2「男性更年期障害の病院での治療」をご覧ください。
では、なぜテストステロンはストレスを受けることにより減少してしまうのでしょうか。これには自律神経の働きが深く関係しています。
私たちの心身は、緊張時に働く交感神経とリラックス時や睡眠時に優位になる副交感神経の2つがうまく切り替わることで正常に機能しています。
テストステロンは、後者の副交感神経が優位になっているときに増え、交感神経が優位に働いている状況下では減るという性質を持っています。
ですから、ストレスを受けて過緊張状態が続いている場合や、労働時間が過度に長い場合、また、睡眠不足や不規則な生活などでうまく息抜き(リラックス)ができていない場合には、テストステロンが十分に分泌されなくなることもあり注意が必要です。
テストステロンが減少することで起こる問題は、更年期障害だけにとどまりません。
具体的には、中性脂肪やコレステロールの代謝が悪化し、以前と変わらぬ食生活を送っているにもかかわらず、内臓脂肪や皮下脂肪が増えるということが挙げられます。
そのため、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧症などのリスクが高まり、動脈硬化の危険性も上昇します。
このほか、テストステロンには骨を作る役割があるため、骨密度が低下し、骨粗しょう症になりやすい状態にもなります。
ただし、男性の更年期障害の治療は、単に不足したテストステロンを補充すればよいというものではありません。次の記事「男性更年期障害の病院での治療」では、病院を受診したほうがよい症状や、男性の更年期障害にかかりやすい方、治療法についてお話します。
順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 教授
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