痔は便秘や下痢などで肛門に大きな負担がかかることも主な原因ですが、排便習慣がその大きな要因となっています。その中でも痔核・痔瘻・裂肛の3つはそれぞれ異なるメカニズムによって引き起こされます。牧田総合病院 肛門病センター長の佐原 力三郎先生に痔核・痔瘻・裂肛のそれぞれの原因とメカニズムについてお話をうかがいました。
主に排便時のいきみ、あるいは便秘や下痢などで、肛門のクッション部分に負担がかかることによって起こります。
また、肛門部の血液の流れが悪くなり、うっ血して腫れることでも症状が悪化します。
下痢をしていると、歯状線の横にある肛門陰窩と呼ばれる小さなくぼみに便が入り込みやすくなります。肛門陰窩の奥には肛門腺という線組織がだれにもあります。身体の抵抗力が落ちているなどの条件で、便の中に存在する大腸菌などの細菌がこの肛門腺に感染して化膿することがあります。
細菌感染によって肛門の周囲に膿がたまっている状態を肛門周囲膿瘍といいます。肛門周囲膿瘍が進行して膿が外に出るトンネルができた状態が「痔瘻」と呼ばれます。
肛門陰窩(いんか)または肛門小窩とも呼ばれるクリプト(crypt)は、生まれながらに誰でも持っていて、男性にも女性にもあります。クリプトは非常に小さなくぼみですから、形になっている固形便はまず入りません。
一方、下痢のときには、何か出しきれていないというか、肛門の中に違和感や残便感をおぼえることがあります。そこで残った便を出そうとしていきむことが肛門管内圧を上げ、小さなくぼみに下痢便がついたところに圧をかけて押し込んでしまうのではないかと考えられます。
肛門括約筋の内圧を測定すると男性の方が高いというデータがあり、このことから肛門管内圧を上げてしまう傾向がある男性に痔瘻が多いのではないかと考えられます。また、飲酒習慣などの影響もあり、男性では便秘よりも下痢が多いという要因もあります。一般的傾向として下痢便が多いうえに、肛門括約筋が発達していることや肛門内圧が高いことなど、いくつかの要素が合わさって女性よりも男性に痔瘻が多いのではないかと推測されます。
便秘の硬い便や、勢いよく下痢便が通過することで肛門上皮が切れてしまうことが主な原因です。
硬い便でももちろん起こりますが、ゆるい便でも起こります。女性の裂肛の多くは硬い便で起こります。
おそらく、仕事中に便意を催しても席を外せないなどの理由でタイミングを逸することによって、便が硬くなるのではないかと考えられます。臨床的にみても便秘はやはり女性のほうが多く、そういったことを背景にして、硬い便で切れる裂肛が女性の場合には多いのであろうと推測されます。
裂肛で切れるのは括約筋ではなく肛門上皮という非常に敏感な部分です。肛門の内側ですが歯状線より低い位置(外側からは見えないところ)で、知覚神経が鋭敏です。上皮が切れて薄い裂肛創という傷ができることは、誰でも1度や2度はあるものですが、そういった傷はすぐに自然修復されます。
しかし、その切れる環境が繰り返されると傷がだんだん深くなります。そうすると肛門上皮という表皮だけではなく、痔核の際に大きくなるクッションの組織にも潰瘍ができます。その部分を越えると次は内括約筋という括約筋群がありますが、裂肛では括約筋そのものまで切れることはありません。
ただし、肛門上皮と括約筋の間の傷が深くなり深掘れ潰瘍に進むと、内括約筋が硬化してきます。肛門が狭くなる、あるいは緊張が持続していくという環境は、肛門の中をずっと締めている状態を作ってしまいます。慢性裂肛の患者さんでは肛門管上皮内の血流がぐっと落ちるため、組織を修復する働き(修復機転)が遅れてしまい、治りにくい傷になっていくのだと考えられます。
長距離運転や立ち仕事、教師、デスクワークで長時間座りっぱなしの方などはこれにあたります。
血流の面から言えばうっ血はよくありませんが、そのことが単独で痔の原因になることはありません。ただし、初期の痔核などの病変があったときに、仕事上の制約や姿勢などの環境要因がそれをより悪化させる可能性はあります。
また、寒冷地において肛門疾患が多いかというと、そんなことはありません。痔の傾向がある方が寒い季節あるいは寒い地方において、少し肛門のことが気になるという程度の問題であると考えます。
同様に、生まれつき痔になりやすい・なりにくいということもありません。ただし、生活習慣が似ているために同様な痔になっている家族は見られます。
治療の方法、手術法などによって再発率は異なります。
たとえば痔核の場合、手術による切除よりもALTA療法という注射による保存治療のほうが再発率は高くなります。しかし再発は生活習慣によるものですから、痔核を手術で取ったとしても、同じ生活習慣を続けていれば10年単位で、また次のずれ出てくる組織になったりするようです。
患者さんが1回手術をして大変な思いをされた後は、再びそうならないためにも、少し振り返って排便習慣や生活習慣を見直してもらえるよう指導することが必要だと思います。
牧田総合病院 肛門病センター長
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