緑内障は、年単位でゆっくりと視野が欠けていく病気です。治療の開始が遅れた場合は、失明に至る場合もあります。今回は、視野障害とその診断方法について、JCHO東京山手メディカルセンターの地場達也先生にお話をうかがいました。
日本は世界有数の長寿国です。2016年の厚生労働省の調査では、男性の平均寿命は80歳ほど、女性は87歳ほどでした。健康寿命も男女とも平均寿命と10歳前後の差はありますが、平均寿命とともに年々伸びています。
「見える」ことは、健康寿命を超えた年齢、介護を要する時期になっても重要と考えます。緑内障は、40歳以上の約5%、60歳以上の約10%と、まれな病気ではありません。しかし、視野障害を自覚することは少なく、緑内障を発症していても9割近くの方は無自覚といわれています。
現況では、視野障害を回復させる治療法はなく、視野障害の進行を遅らせる眼圧下降治療法のみが治療の主体です。そのため、生活に支障をきたす段階で手術を行う白内障治療とは異なり、生活に支障をきたしていない・視野障害を自覚していない早期の段階から治療が必要です。
下の図で、40歳で緑内障を発症した場合の、生涯にわたる視野障害の進行予測をしてみましょう。
あくまでイメージ図ですが、もし40歳で緑内障を発症した場合、未治療だと70歳のときに日常生活に支障をきたす予測になります。平均寿命まで生きると仮定すると、男性は10年間、女性は17年間も、不自由を感じる目の状態で過ごさなければなりません。また、今後さらなる医学の進歩や食生活の改善により、日本人の寿命はさらに延びると予想されています。
緑内障の視野障害は通常進行がゆっくりであるとはいえ、一度障害された視野は元に戻ることはありません。視野障害が生活に支障をきたすレベルにまで進行すると、非常に不快な生活を送ることになります。早期に発見し早期に治療を始めることで、視野障害の進行を遅らせていくことが重要となります。
日常生活に支障を感じる程度は、運転・歩行・食事・読書など、それぞれの生活動作により使用する視野が異なるため一定ではありません。
たとえば、下方視野障害の場合、歩行や食事に支障をきたし、中心近くの下方視野障害の場合、読書時に支障をきたします。
また、視野障害が進行している場合でも欠けている視野の部分は黒く抜けるのではなく、霞がかかったように見えることが報告されています。
個々人の生活スタイルや動作により、視野障害の感じ方は異なります。しかし、歩行時や階段昇降時に使用する下方視野の障害は、転倒などの重度な障害になる可能性があり、初期から下方視野に障害をもつ場合は注意を要します。
緑内障では、視野障害(視野の欠損)を自覚することが少ないため、障害の程度を視野検査で精密に調べる必要があります。
視野計を用いた視野検査では、緑内障で障害された網膜神経線維部分の光感度が低下していることを計測し、障害部位の範囲・程度を判定します。
たとえば下の画像のように、固視点中心から約30度の範囲の視野検査で、黒い部分は視野検査での光感度がほぼゼロの部分で、灰色部分は光感度が低下している部分です。
上記画像で、視野障害を生じている黒い部分は、右眼のほうが多く、視野障害の程度が左右で違うことがわかります。これだけ視野障害があるにも関わらず、日常生活ではまったく支障を感じないというのは緑内障の特徴です。
実際、左右の画像を重ね合わせた両眼重ね合わせ視野の画像をみると、視野障害の程度が大幅に減少していることがわかります。上記合成画像のように普段は両目で見ているため、右眼に高度な視野障害があっても、左眼が右眼の視野障害部分を補い、日常生活では支障を感じにくいのです。さらに、この視野障害は通常年単位でゆっくりと進行するため緑内障による視野障害だと気付くことは少なく、発見が遅れることになります。
視野障害の進行速度は、通常ゆっくりのことが多いですが、個々人により異なるため、視野障害の程度、眼圧、緑内障タイプなどにより治療方針を決めていきます。
緑内障は、点眼治療を継続することで残存視野を維持できる場合があります。ただし、点眼薬での眼圧下降治療には限界があるため、生涯必要な緑内障治療のなかで手術療法は選択肢としておくべきだと考えます。
緑内障手術は、白内障手術のように視機能を改善させる手術ではないため、患者さんは手術に対して消極的な場合が多いのですが、手術のタイミングが遅れないようにすることは重要と考えます。
繰り返しになりますが、医療機関受診前は、緑内障に気付かないことがほとんどです。そのため人間ドックや、地域健診を経て医療機関で総合的な眼科検診を受け、緑内障を極早期から発見しておくことが重要と考えます。
自分でもできる眼のチェック方法としては、たまに片目で見え方をチェックすることです。見え方の左右差を意識しておくことは、緑内障を含むさまざまな眼疾患の早期発見になる可能性があります。積極的に片目で見え方チェックを行ってみるのが望ましいと考えます。
提示した典型的ケースは、多くのケースを複合し理解しやすいように作成した参考例であり個人を特定できるものではありません。
独立行政法人 地域医療機能推進機構(JCHO) 東京山手メディカルセンター 眼科部長
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