インタビュー

視神経脊髄炎の症状

視神経脊髄炎の症状
楠 進 先生

近畿大学医学部 名誉教授/客員教授

楠 進 先生

この記事の最終更新は2018年01月31日です。

視神経脊髄炎(ししんけいせきずいえん)とは、視神経や脊髄に障害が起こり、急に視力が低下する、手足が動かなくなるなどの症状があらわれる自己免疫性疾患です。英語のneuromyelitis opticaの略で「NMO」とも呼ばれます。短期間で症状が悪化することが多いため、早期の診断・治療開始が望まれます。視神経脊髄炎の症状について、近畿大学医学部の楠進(くすのき すすむ)先生にお話を伺いました。

視神経脊髄炎とは、急激な視力低下、手足が動かない・感覚が鈍くなる・痺れるなどの症状、排尿障害(尿が出なくなる)などを引き起こす病気です。

2011年に視神経脊髄炎についての疫学調査(集団を対象に疾患の分布・増減などを調べる方法)を行った結果、視神経脊髄炎の患者数は10万人あたり1.64人でした。1)この調査結果から、日本における視神経脊髄炎の患者数はおよそ2,000人であるといえます。ただ、のちほどお話しするように、原因が同じと考えられる非典型的な状態も含めた視神経脊髄炎関連疾患(NMO spectrum disorder, NMOSD)として考えると、患者数は約4,000人と推定されます。

視神経脊髄炎のおもな症状は以下の通りです。これらの症状は短期間で急激に進行・悪化することが多いです。

  • 目の痛み
  • 視力低下
  • 手足の麻痺
  • 感覚低下
  • 体の痺れ感

視神経脊髄炎の特徴的な症状は、しゃっくりと吐き気です。視神経脊髄炎と多発性硬化症は関連する病気ですが、視神経脊髄炎は、多発性硬化症に比べて、しゃっくりや吐き気が多く症状としてあらわれます。

視神経脊髄炎が重症化した場合、失明、脊髄の障害による手足の動作不能、排尿障害などをきたします。排尿障害が進行すると、自己導尿(カテーテル(医療用の管)を使用し自分自身で尿を体外に排出する方法)が必要になることもあります。

失明、手足の動作不能、排尿障害といった症状は、いずれも日常生活に支障をきたし、患者さんのQOL(生活の質)を大幅に低下させうる点において、重症といえるでしょう。

視神経脊髄炎の合併症(ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状)は、以下の通りです。

シェーグレン症候群

橋本病(甲状腺に慢性的に炎症が起こる自己免疫性疾患)

膠原病(全身にさまざまな症状をもたらす自己免疫性疾患の総称)

視神経脊髄炎の原因となる因子は、アクアポリン4(脳や脊髄と血液の間で水の移動にかかわる膜タンパク)に対して産生される自己抗体(異物を認識し排除する役割を持つ免疫系が、自分自身の細胞や組織に反応してつくられる抗体)です。これを、抗アクアポリン4抗体と呼びます。抗アクアポリン4抗体が血中に存在すると、脳のアストロサイトと呼ばれるグリア細胞(神経系にかかわる細胞)に影響を及ぼし、脳や脊髄、視神経に障害をきたすといわれています。しかしながら、抗アクアポリン4抗体が産生されるメカニズムについては未だ解明されていません。

視神経障害と脊髄障害の両方がみられる典型的な視神経脊髄炎だけでなく、視神経障害か脊髄障害のどちらか一方のみ、あるいはどちらもみられず大脳や脳幹だけに病変がみられて抗アクアポリン4抗体が陽性の場合を、同じ原因によっておこる病気と考えて全て含めて、視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)と呼びます。視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)の患者数は10万人あたり3.42人であり、日本における患者数は約4,000人と推定されます。1)

視神経脊髄炎はもともと、症状の似ている多発性硬化症の亜型の1つと考えられていましたが、2004年に抗アクアポリン4抗体が発見されたことにより、別疾患と考えられるようになりました。視神経脊髄炎と多発性硬化症は急性期(病気が始まり、病状が不安定かつ緊急性を要する期間)の治療は同じですが、再発予防の方法がまったく異なります。症状の似ている2つの病気を検査によって診断することは、適切な治療を行うために非常に重要といえるでしょう。

※視神経脊髄炎の検査については後述します。視神経脊髄炎の治療については記事2『視神経脊髄炎の治療—視神経脊髄炎は完治するのか』をご覧ください。

目の症状(目の痛み・視力低下など)、手足の麻痺・痺れ感などの症状があらわれた際には、すぐに病院を受診しましょう。先に述べた通り、視神経脊髄炎は急激に症状が悪化することが多く、また、視神経脊髄炎の症状である視力低下や手足の動作不能は患者さんのQOL(生活の質)を大幅に低下させてしまうことから、できるだけ早期の診断・治療開始が望まれます。

視神経脊髄炎を疑うときには、神経内科の受診を推奨します。

視神経脊髄炎の診断では、まず視神経や脊髄の病変が疑われる臨床症状を確認し、次にMRI検査でT2やフレアーなどの高信号を調べます。次に脳脊髄液検査で細胞数の上昇をチェックし、最終的には抗アクアポリン4抗体の検査を行います。抗アクアポリン4抗体は視神経脊髄炎に特異性の高い抗体であるため、確定診断の指標となります。

視神経脊髄炎の診断

  1. 臨床症状の確認
  2. MRI検査
  3. 脳脊髄液検査
  4. 抗アクアポリン4抗体の検査

基本的に、視神経脊髄炎の検査には数回の外来受診か数日間の入院が必要です。診断が確定し治療を開始した場合には、通常、数週間の入院を要します。

先述の通り、視神経脊髄炎は急激に症状が悪化することが多いため、できる限り早期に検査を行い、治療を開始しましょう。

楠進(くすのき すすむ)先生

 

出典

1)Miyamoto K, Fujihara K, Kira JI, Kuriyama N, Matsui M, Tamakoshi A, Kusunoki S. Nationwide epidemiological study of neuromyelitis optica in Japan. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2018 Jan 11. pii: jnnp-2017-317321. doi: 10.1136/jnnp-2017-317321. [Epub ahead of print]

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