月経時の血液量が多い状態である過多月経や、痛み止めが手放せないほどに痛みが強い月経困難症などは、総称して“月経異常”と呼ばれます。中には血液の病気が原因で過多月経がみられる場合もありますが、適切な治療を行うことで症状の改善や将来のライフイベントへの対策が期待できるため、月経に関する悩みがある方は、早めに産婦人科を受診することが大切です。
今回は、過多月経を中心にした月経異常と血液疾患の関連について、千葉大学大学院医学研究院 生殖医学講座 教授の甲賀 かをり先生にお話を伺いました。
自分自身の月経について知っておくことは、今の自分の健康状態だけでなく、仕事のパフォーマンス向上、ライフイベントである妊娠・出産の安全性、さらには将来生まれてきた赤ちゃんの健康増進にもつながります。まずは自分自身の経血の量と痛み、周期を振り返ってみましょう。
正常な月経は、出血量が20~140ml、痛みはあっても軽い腹痛程度、周期は25~38日おきとされています。しかし、経血の量を実際に測定するのは現実的ではなく、月経時の痛みも客観的な指標はありません。
そのため臨床の現場では、患者さんが“月経によって生活に支障があると感じているか”がもっとも重視されます。すなわち月経量や月経周期が数値的には正常範囲内であっても、患者さんがつらいと感じていれば治療の対象となります。
月経異常かどうかは、“経血の量”“痛み”“周期”それぞれの状態から考えていきます。
まず経血の量に関して、貧血を指摘されている場合や量が多くて困っている場合は、過多月経の可能性があります。ただし過多月経による貧血とは、体内を循環する血液の量が少なくなるために起こる “鉄欠乏性貧血”です。鉄欠乏性貧血では少し走っただけで息が切れるなどの症状がみられます。間違えられやすいのですが、立っているとくらくらしたり、耳鳴りがしたりするようないわゆる“脳貧血”は、過多月経による貧血とは種類が違います。
痛みに関しては、毎回痛み止めが必要な場合や、痛み止めを飲まずに我慢していると学校や仕事を休んでしまうような場合は、月経困難症の可能性があります。
最後に、周期に関しては月経が毎回25~38日の範囲からずれる方をはじめ、当院の場合は、周期が安定しているときもあれば3か月こないときもあるような方も月経不順の可能性があると考えるようにしています。
過多月経や月経困難症があると、思うように体が動かせない、頭が働かない、トイレにしょっちゅう行く必要がある、集中力が下がってしまうなど、月経中の生活の質(QOL)が低下します。
さらに注意してほしいのは、特に月経困難症の場合、現時点ではただ痛みが強いだけで子宮自体には問題がなくても、その状態が続くと将来的に子宮内膜症などの病気を発症する可能性があることです。病気が発症すると不妊症につながるリスクもあるので、放置しないことが大切です。
正常な月経量は、140mlまでとされています。しかし先ほどもお話したように、月経量を計測することは現実的ではないため、臨床では患者さんの感覚をもとに月経量が多いか、治療が必要かを判断しています。
月経量が多いかどうかを判断するチェック項目には以下のようなものがあります。
月経は他人と比べるのが難しいため、このようなチェック項目が作られています。しかし、数値やチェックはあくまでも判断の目安、きっかけに過ぎません。上記のほか、たとえば“月経とかぶらないように旅行や試験、仕事、イベントなどのスケジュールを調整する必要がある”など、日常生活に支障が出ている場合も、月経異常と考えることができます。チェック項目に当てはまらなくても、月経に関して困っていることがあれば、気軽に受診してみていただければと思います。
診察では、「ナプキンが2~3時間でいっぱいになりますか」「多い日用のナプキンを3日以上使いますか」などと伺って過多月経かどうか確認していますが、月経量を記録するツールとして、上図のようなPBACスコアシートを用いる方法もあり、当院では原則過多月経を疑う全ての患者さんに記録していただいています。
PBACスコアシートには、ナプキンやタンポンの染まり具合と使用量、血液の塊について記録してもらいます。月経終了後に合計点を出して、100点を超える場合は“過多月経の疑い”と評価されます。また、スコアが高い場合は、単なる体質ではなく血液が固まりにくい病気の可能性もあるため、検査して治療を進めていきます。PBACスコアが100点未満でも、患者さんが困っている場合は改善のための方法を考えていきます。
月経異常には病気が隠れている可能性がありますし、先ほどお話したように今は病気ではなく痛みが強いだけでも、放っておくと大きな病気につながる可能性もあります。そのため早めに受診することが重要です。
病気が見つかった場合は、早めに治療を始められるため、将来の妊娠や出産などへのリスクを回避できます。病気が見つからなかった場合も、治療することで将来的な病気進行の予防となるうえ、月経中に起こるさまざまな困りごとの解決、ひいては生活の質の改善が期待できます。そしてなにより“病気ではなかった”という安心が得られます。心配や不安を抱えたまま過ごさずに、一度相談してみていただければと思います。
過多月経と月経不順の原因は子宮などの臓器自体に病気のある“器質性疾患”と、それ以外の原因によって起こる“機能性疾患”に分かれ、さらにPALM COEINという基準によって9つに分類されます。PALM COEINでは、器質性疾患の原因を子宮内膜ポリープ・子宮腺筋症・子宮平滑筋腫・悪性腫瘍または子宮内膜増殖症の4種類に、機能性疾患の原因をフォン・ヴィレブランド病などの凝固異常・排卵障害・子宮内膜機能異常・医原性(医療行為が原因で起こる病気・障害)・その他の5つに分類します。
過多月経の患者さんのうち13%が有しているとされる病気にフォン・ヴィレブランド病があります。遺伝性血液疾患の中では患者数が多い病気の1つで、止血の役割を果たすフォン・ヴィレブランド因子が不足するために血が固まる仕組みに異常をきたすことが知られています。
フォン・ヴィレブランド病以外にも、急性の免疫性血小板減少症(ITP)や白血病なども月経異常がきっかけで見つかることがあります。器質性疾患の可能性が低いのに出血量がかなり多く、体のほかの部分にも出血の兆候があるような場合は血液疾患を疑うことが多いです。
このような血液疾患の場合は月経だけではなく、出産や手術などの出血を伴うイベントでのリスクにもつながるので、早期に診断して対策することが大切です。出血について気になることがある方は怖がらず医師に相談することをおすすめします。
当院にいらっしゃる患者さんは紹介状を持って受診する方がほとんどですので、紹介元での診断状況に応じて追加で必要な検査を行っています。
月経量が多い症状で産婦人科を受診した場合の一般的な検査の流れとしては、まずは器質性疾患の有無を内診や超音波、MRI検査で確認します。内診では医師が腟または肛門から直接子宮の状態を調べ、超音波は腟の中やお腹の上などから子宮の状態を映し出します。
続いて、機能性疾患を疑う場合などは必要に応じて血液検査を行います。過多月経の原因となる血液疾患の中で患者数が多いフォン・ヴィレブランド病は遺伝性疾患のため、患者さんを診る際に家族歴を必ずお聞きします。そのほか、一度鼻血が出ると止まりにくい、歯科医院での抜歯治療後に血が止まるスピードが遅い、初経(初潮)間もないころから月経量が多いといったエピソードがあるような方も血液疾患を疑います。
器質性疾患・機能性疾患いずれの場合も、病歴・家族歴のヒアリングや、貧血状態のチェックが診断に重要です。さらに、過多月経の原因として器質性疾患が見つかっても、実はフォン・ヴィレブランド病をはじめとする血液疾患も併発していることがあるため、常に複数の病気の可能性を考慮して検査を行っています。
当院は、検査への不安を少しでも和らげられるように意識しています。検査をする前には患者さんにしっかり説明し、納得が得られてから検査を行います。特に内診をする前には、内診して分かること、内診しないと分からないことをお伝えし、さらに腟から診るのか肛門側から診るのか、超音波の機械を入れるだけなのか、金属の機械を入れるのかなども細かく説明します。
検査の途中でも、気持ちの変化や痛みがあって止めたい場合は、遠慮なく医師にお伝えください、とお伝えしています。
検査の結果、過多月経の原因として血液疾患が見つかった場合、「恐ろしい病気ですので、すぐに血液内科に行く必要がある」と伝えるのではなく、「こういう病気の可能性があるけれど、見つかれば病気に対する治療法も計画できます。そして将来の妊娠や出産に対しても適切な準備や予防ができるため、しっかりと診断がつくのはよいことですよ」というふうにお伝えしています。
血液内科を受診していただく場合も、なるべく通院回数が少なくなるように、採血などの検査はできるだけ1回で済むように、などを心がけています。そして、当院では専門的な話は専門の医師から患者さんにお伝えするよう役割分担しており、血液内科のことは血液内科の医師が、婦人科のことは婦人科の医師が説明します。役割分担はしながらも、患者さんが安心して治療を受けられるように、血液内科の医師と連絡を取り合いながら一貫性のある説明を行うよう心がけています。
過多月経の治療は、原因が器質性疾患か機能性疾患かによって異なります。
子宮内膜ポリープなど器質性疾患が原因の過多月経の治療は、外科的な方法と薬物治療があります。外科的な方法は、患部の切除、もしくはアブレーション*を行います。薬物治療はピルやホルモン剤を使います。ピルやホルモン剤は、器質性の病気を治療するために使う場合もあれば、月経量をコントロールする意味合いで使う場合もあります。
*アブレーション:子宮内の患部にマイクロ波を照射し、患部を破壊する治療。
機能性疾患の場合は、外科的な処置は行わず、ピルやホルモン剤を使って月経をコントロールします。排卵障害の場合はピルを使うと排卵がコントロールされて、排卵の異常による出血も止まります。
また、原因がフォン・ヴィレブランド病の場合は、血液凝固に必要なフォン・ヴィレブランド因子の補充療法が有効です。ただし過多月経の治療として、月経のたびにフォン・ヴィレブランド因子を足すことは基本的には行いません。フォン・ヴィレブランド因子を補充するのは、出産や手術をして血が止まらない状況などに限り、基本的にはピルやホルモン剤を使って、月経が楽になるようコントロールする治療が中心になります*。
*日常生活の活動などに重篤な影響を及ぼす可能性が高い過多月経に関しては、患者さんのQOLの改善を目的として、投与量や頻度を調整しながらフォン・ヴィレブランド因子を定期補充する治療が行われる場合もあります。
患者さんが受診するのをためらう理由はいくつかあると思います。検査などの物理的な痛みが怖い方は、先ほどもお話したように「こういう検査はしたくない」など、医師に相談すれば大丈夫です。検査や治療を無理強いすることはありませんので、安心してください。
中には、大きな病気が見つかるのが怖い方もいらっしゃるでしょう。しかし病気の発見が遅れて病気が進行し、治療も難しくなることのほうがよっぽど怖いことです。
長期的に見れば、早く見つかるに越したことはありませんし、過多月経の原因として血液疾患が診断されていれば、出産や手術時のような緊急の場合も適切な対処が行えます。
ですから病気が見つかることは決して悪いことではありません。私たちは治療法を患者さんの意思に寄り添いながら考えていきますし、今困っていることの解決にもつながります。
そしてもちろん、大きな病気が見つからなければ安心が得られるわけですから、気軽に受診していただければと思います。
産婦人科を受診される患者さんは、検査や診察に不安をもっている方も多くいらっしゃいます。検査や診察をする前にはしっかりと説明を行い、患者さんに安心して治療を受けてもらえるよう努めることも大切だと思います。
そして、過多月経の患者さんの中にはフォン・ヴィレブランド病のような血液疾患を併せもっている患者さんもいます。病気の診断がつくことは将来の妊娠・出産に対するリスクの回避や、遺伝性疾患であれば患者さんの家族の病気が見つかるきっかけにもなります。器質性疾患で説明がつかないような過多月経がある患者さんがいたら、血液疾患を念頭に置いて問診や凝固系の検査をしてみるのもよいのではないかと思います。
千葉大学大学院医学研究院生殖医学講座 教授
千葉大学大学院医学研究院生殖医学講座 教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医・社会保険委員会 委員日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医・社保委員会 代表幹事日本エンドメトリオーシス学会 幹事日本生殖医学会 生殖医療専門医・代議員・Female Reproductive Tract Special Interest Group (FRTSIG) 委員長日本産婦人科医会 研修委員会 委員日本生殖免疫学会 評議員日本受精着床学会 評議員日本妊娠高血圧学会 代議員World Endometriosis Society(WES) Ambassador日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(産科婦人科領域)日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・内分泌代謝科指導医日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医
甲賀 かをり 先生の所属医療機関
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生理開始から1週間以上経っても、出血が止まらない。
3月22日に予定通り生理がはじまったが、4月3日現在になっても止まる気配がない。 生理がはじまった時の状況は、 いつもよりもかなり少なく、不正出血かな?と言うくらいの少なさが4日程続き、その後通常の量の出血に変わった。 痛みは無し。 2017年の9月に流産の手術をしてから 生理不順になり、安定してきても たまに出血が止まらないことがおこる。 前回は、2018年の年始に出血が止まらなくなり、婦人科を受診。 ガン検査は異常なし。 出血量は、少量だったり通常量だったり。 診察結果は、排卵が上手く出来ておらず、子宮が我慢出来なくて出血がダラダラ続いているといった内容だったと思います。 排卵が来たと勘違いをさせるために ホルモンの薬を10日分処方されました。 その後は、たまに不順になるけど 周期も安定してきてました。 質問:この体は、大丈夫なのでしょうか? なぜこんな不安定になってしまったんでしょうか? 手術のせいですか? 病院に行ってもホルモンの薬で整えての繰り返しで治らないなら行かなくてもいいのかなとか思ってしまうけど それでも行った方がいいんですか? 以前から、若年性更年期障害なのではと 思うことが多々あり、 生理も不順になるので、このまま閉経になるのかなと不安になります。 質問が多くて、長々とすみません。 よろしくお願いします。
生理?出血?
3月7日に彼としました。 前回2月23日に生理がきて28日に終わりました。 生理予定日25日だったんですけど、今日生理がきたかなって思ってトイレに行ったら織物とまざった血がちょっと出てきて、今は量が多いんですけどいつもより血が水っぽいです、これは生理ですか?
生理の時のレバー状の塊
毎月生理の時にレバー状の塊があり、3cm×3cmほどと大きさもそれなりにあります。 古くなった子宮内膜だろうとあまり気にしていませんでしたが、毎月2日目に必ず塊があり大量に出血するため検査した方がいいのか気になってきました。 ただ、子宮内の検査は最近下記の通り行っています。 ・1月 化学流産したため婦人科にて内診(完全流産で異常なし、次の妊娠に差し支えるようなこともないと言われました) ・5月 健康診断で婦人科の内診(超音波、子宮頸がん等一通りの検査を受けてますが異常なし) 生理痛は昔から重いのでロキソニンを服用しています。痛いのは初日のみで1錠飲めばあとはおさまるので何錠も服用することはありません。 生理の出血は先述の通り2日目がかなり多いですが、その後かなり量は減り7日以内で終わります。 また現在第2子を考えておりますがなかなか授かれません。 妊活期間は1年ほどで、その間に先述の通り1度化学流産しております。 このこともあり医療機関でもっときちんと受診すべきなのか迷っておりますが、レバー状の塊が毎月出るのは特に問題ないことなのでしょうか。
月経の乱れ
3月初旬に月経があり、通常であれば30日後の4月初旬に月経が来る予定が来ず、予定日から遅れて1週間後に妊娠検査薬を実施するも陰性。20日後にも実施するも陰性。当初の予定より1ヶ月遅れて5月初旬に月経が来ました。 今まで26日〜32日周期で60日も期間が空いたことがなかったので気になります。年齢によるホルモンバランスの乱れなのでしょうか?
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