
「ずっと鼻がつまっている」「食事の匂いや味が以前より感じられなくなった」。そのお悩みは、鼻の粘膜が炎症によって腫れた“鼻茸”が関係しているかもしれません。近年は、好酸球性副鼻腔炎という難治性の病態が関連するケースも増加しており、鼻だけでなく全身の状態を見据えた治療が重要となっています。
「嗅覚は患者さんの生活の質(QOL)に直結します。早い段階で耳鼻咽喉科の受診を」と話す、北東大阪耳鼻咽喉科 鼻・副鼻腔手術クリニックの朝子 幹也先生に、鼻茸が発生するメカニズムや症状、治療の選択肢などについてお伺いしました。
鼻茸は “鼻ポリープ”とも呼ばれ、鼻の粘膜が慢性的な炎症によって丸く腫れ、鼻腔内に垂れさがった状態を指します。これは腫瘍などの“できもの”ではなく、炎症によって生じるものです。
かつては、治療を受けずに放置された結果、鼻の穴から外に見えるほど巨大化した鼻茸がみられる方もいらっしゃいました。しかし現在では、医療の普及や内視鏡検査の進歩により、そこまで深刻化する前に発見されるのが一般的です。

鼻茸が発生するメカニズムは十分に明らかになっていませんが、現状ではいくつかの要因が組み合わさり発生する可能性があるといわれています。細菌やウイルスへの感染、花粉症などのアレルギー、あるいは黄砂やたばこの煙といった外界の刺激物が鼻から入り込み、粘膜で炎症を引き起こすことが発生のきっかけになると考えられています。
また、“凝固・線溶系”と呼ばれる、血液が固まったり溶けたりする体のメカニズムが鼻茸の発生に関係するともいわれています。鼻の粘膜の中でそのメカニズムのバランスが崩れることで、出血した傷口を塞ぐ役割を果たす線維状のタンパク質(フィブリン)が粘膜の中に溜まってしまい、粘膜を腫れさせることが1つの要因と考えられています。
鼻茸は基本的に、外からの刺激によって鼻の粘膜に慢性的な炎症が引き起こされることで生じます。主に慢性副鼻腔炎*に伴って発生することが多いですが、同じような刺激を受けても鼻茸ができる方とできない方がいます。これは、外からの刺激に対する粘膜の感受性や反応の強さに、個人差があるためと考えられます。
また、アレルギー性鼻炎のある方は注意が必要です。副鼻腔という鼻の奥の空洞において、空気の出入り(換気)がスムーズにいかなくなることが、鼻茸の発生や悪化に影響を与える場合があります。
*慢性副鼻腔炎:鼻の奥にある副鼻腔という空洞に膿などが溜まる病気。かぜなどをきっかけとした炎症が3か月以上持続するものを指し、細菌感染やアレルギー、歯のトラブルなどさまざまな要因によって発症する。
鼻茸による最も代表的な症状は、物理的な空気の通り道が遮断されることによる鼻づまりです。鼻茸が小さいうちは自覚症状がないことも多いですが、大きくなるにつれて常に鼻がつまった感覚や、目や鼻の周りの重苦しさを引き起こすようになります。
慢性副鼻腔炎に伴う鼻茸の場合は、膿のような鼻水が出たり、その分泌物が喉に回って痰が絡んだりすることが多くあります。また、膿が溜まり嫌な臭いを感じたり、頬の奥に重苦しさを覚えたりすることもあります。
近年、鼻茸治療において、原因の1つとして注目されているのが好酸球性副鼻腔炎です。これは、白血球の一種である“好酸球”が鼻の粘膜に過剰に集まって強い炎症を起こす病気です。通常の慢性副鼻腔炎による鼻茸は副鼻腔の出口付近にできることが多い一方で、好酸球性副鼻腔炎の場合は、匂いの神経がある嗅裂と呼ばれる場所などにも多発的に発生するという違いがあります。治療をしても再発しやすく難病に指定されており、近年増加傾向にあります。
好酸球性副鼻腔炎が増加している一因として、近年の衛生環境の向上が関係しているといわれています。好酸球は寄生虫などの外敵を排除して体を守る役割を担う細胞ですが、衛生環境の向上により排除すべき寄生虫が激減したために、無害な花粉やほこりを排除しようとするようになったと考えられています。
好酸球性副鼻腔炎に伴う鼻茸には、特有の症状があります。1つは、非常に粘り気の強い“好酸球性ムチン”と呼ばれる糊のような鼻水が出ることです。このため、鼻をかんでもスッキリしない感覚が残ります。
もう1つの大きな特徴は、全身状態との関連です。この病気の患者さんの多くは、喘息を合併していたり、解熱鎮痛薬に対するアレルギー反応(アスピリン喘息など)の背景を持っていたりします。鼻だけの問題ではなく、呼吸器全体、あるいは全身の炎症反応の一部として鼻茸が現れることがあるのです。
さらに、匂いを感じる神経の集まる嗅裂を鼻茸が塞ぐと、嗅覚障害が現れます。匂いが分からなくなると、単に香りが楽しめないだけでなく味覚の低下を招き、QOLを損なうことがあります。食事が美味しく感じられず食欲が減退したり、食卓での会話が楽しめなくなったりすることで、精神的に落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。また、食品の腐敗臭やガスの漏れる匂いに気付けないといった、安全面でのリスクにもつながるでしょう。
QOLの低下などを防ぐためには、鼻づまりなどの症状があれば、なるべく早く受診していただくことが大切です。「鼻づまりくらいで受診するのは大げさでは」と思われるかもしれませんが、早期発見・早期治療には大きな2つの意味があると考えています。
1つ目は、がんなどの病気との鑑別です。鼻茸自体は炎症によるものですが、腫瘍の周囲に炎症が起きて鼻茸のように見えるケースがあります。検査によって単なる鼻茸か、背後に重篤な病気が隠れていないか、見極めることが非常に重要です。
2つ目は、治療の選択肢を広げるためです。鼻茸が小さいうちは薬でコントロールできる可能性がありますが、巨大化して鼻の出口を塞いでしまうと、強い圧迫感や嗅覚障害が悪化し、手術を避けられない状況になります。
鼻づまりの感覚には個人差があり、一晩中眠れないほどつらいと感じる方もいれば、ずっとつまっていても気にならないという方もいらっしゃいます。平気だと思っている方ほど鼻茸を放置しやすく、病歴が長くなってしまう傾向にありますので、 “鼻がつまっている状態は決して普通のことではなく、病的な状態である”ということを意識してほしいと思います。自分自身で鼻の中を見ることは難しいので、鼻呼吸がしづらいと感じた段階で、一度耳鼻咽喉科に足を運んでいただくことが、後の治療をスムーズに進めるために大切です。
鼻茸が疑われる場合には、問診とともに主に以下のような検査を行います。
まずは内視鏡を用いて鼻の中を観察します。胃カメラを細くしたような軟性鏡という器具を鼻から入れ、粘膜の状態を直接確認します。
X線検査やCT検査などの画像検査を実施します。特に好酸球性副鼻腔炎による鼻茸かどうかを確認するために重要になるのが、CT検査です。
CTを撮ることで、副鼻腔のどの場所に問題があるのか、匂いを司る神経のスペースが鼻茸で埋まっていないかといった詳細な情報を把握できます。慢性副鼻腔炎は主に頬の奥にある上顎洞が悪化することが多いですが、好酸球性副鼻腔炎は目と目の間にある篩骨洞が特異的に悪化する傾向があり、このような場所の違いを調べることが診断に役立ちます。
好酸球性副鼻腔炎が疑われる場合、血液中の好酸球の数値を確認します。好酸球はアレルギーや寄生虫感染があるときに上昇する白血球の一成分ですが、好酸球性副鼻腔炎の患者さんではこの数値が高いことが多く、診断の重要な指標となります。
当院では、内視鏡検査やCT検査と併せて血液検査を行い、全身の炎症状態を把握するようにしています。
好酸球性副鼻腔炎の確定診断のためには、手術などで採取した鼻茸の組織を顕微鏡で調べる組織検査が必要です。組織の中に好酸球がどれだけ存在するかを実際にカウントすることで、難病指定の対象となる好酸球性副鼻腔炎が背景にあるか判断します。
治療法を選択する際には、鼻茸の大きさや症状の度合いが大きな判断基準となります。一般的に、鼻茸が小さく症状が比較的軽い段階では、まず薬物療法によって炎症をコントロールし、鼻茸を小さくしたり維持したりすることを目指します。
すでに鼻茸が大きく成長して鼻道を完全に塞いでいる場合や、薬を使い続けても症状の改善が不十分で日常生活に大きな支障をきたしている場合には、鼻茸を取ることで鼻の中の状態を一度リセットするための手術が治療の主軸となります。
通常の慢性副鼻腔炎の治療では、抗菌薬を少量で長期服用するマクロライド療法で効果が期待できます。
一方で、好酸球性副鼻腔炎の場合には、マクロライド療法はあまり効果が期待できません。好酸球性の炎症に効果がみられることが多いのはステロイド薬の内服です。しかし、長期のステロイド薬の内服は副作用のリスクがあるため、現在は悪化した際に短期間だけ使用すべきだという考え方になってきています。喘息を合併している患者さんの場合、喘息の治療に用いる吸入ステロイド薬を口から吸って鼻から吐き出す方法(経鼻呼出法)で使用し、局所的に薬を届ける工夫がなされることもあります。
さらに近年では、生物学的製剤という注射薬が複数登場しました。これは炎症の原因をピンポイントで抑える力があり、好酸球性副鼻腔炎など、再発を繰り返す難治性の慢性副鼻腔炎で鼻茸を伴う患者さんにとって、嗅覚や鼻づまりを改善させる福音となっていると感じています。
鼻茸の手術は内視鏡で行われることがほとんどで、鼻の外を切ることは基本的にありません。カメラで中を確認しながら鼻茸を取り除き、副鼻腔の入り口を全開放して膿の洗浄を行います。単に鼻茸を取るだけでなく、その後の薬や洗浄が隅々まで届くような環境を作ることが手術の大きな目的といえます。
安全かつ確実に行うため全身麻酔での手術が基本となりますが、当院も含め、施設によっては短期滞在手術を実践している場合もあります。
ご自身でできる有効なケアとして、鼻うがい(鼻洗浄)があります。好酸球性副鼻腔炎による糊のような粘り強い分泌物を物理的に洗い流すことで、粘膜の自浄作用を助けることができます。真水や水道水で行うと粘膜を傷め、強い痛みを感じやすくなるため、専用の洗浄液や生理食塩水を使用するとよいでしょう。また、かぜをきっかけに悪化しやすいため、かぜを引いた後に「匂いが戻らない」と感じたら、放置せず早めに受診することが大切です。
私は診療の際、患者さんが何に困っているかを常に問いかけるようにしています。つらいのは鼻づまりか、それとも料理の匂いが分からず食事が楽しめないことか、こうしたニーズに合わせて、薬物療法を優先するのかなど個別のアプローチを提案するよう努めています。
また、私が最も大切にしているのは、鼻だけではなく患者さんの全身の状態を診るということです。私は耳鼻科医であると同時にアレルギーや喘息も専門としています。好酸球性副鼻腔炎は、鼻・アレルギー・気管支(喘息)の3つの側面がリンクして起こる病気です。
特に重要視しているのが“隠れ喘息”を見落とさずに捉えるということです。階段の上り下りで息が切れる、かぜの後に咳だけが残るといった自覚症状は、気道の炎症が進んでいるサインかもしれません。鼻の治療を成功させるためには、同時に喘息のコントロールを行うことが不可欠と考えています。
かつて、手術を繰り返しても鼻茸が再発し「匂いが分からない」という悩みを抱えた調理師の方がいらっしゃいました。当時は手術による改善を試みても限界がありましたが、手術に加えて新たに登場した生物学的製剤を導入し、鼻の症状に合わせた治療薬の見直しも行ったところ、長年失われていた嗅覚を取り戻すことができたのです。薬物療法を組み合わせることで、これまでは諦めるしかなかった難治性のケースでも、改善が期待できるようになったと実感しています。
繰り返す鼻茸の背景に好酸球性副鼻腔炎がないかを疑うためには、鼻づまりや嗅覚障害などの中心的な症状だけでなく、“寒い日に駅の階段を上がると息が切れる”といった隠れた喘息のサインにも目を向けることが重要だと考えています。
治らないと諦めている方も、鼻・アレルギー・気管支をトータルで診断し、適切な治療を選択すれば、QOLの向上が期待できます。
また、先に述べたように、近年の副鼻腔手術は内視鏡で行われることがほとんどとなっているため、手術をしても顔の外側に傷が残る心配はありません。このように鼻茸の治療法は大きく進歩しています。1人で抱え込まず、まずは専門の医療機関へ相談してほしいと思います。
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