院長インタビュー

国立病院機構あわら病院が実践する、多くの人を笑顔にする医療

国立病院機構あわら病院が実践する、多くの人を笑顔にする医療
津谷 寛 先生

独立行政法人 国立病院機構あわら病院  病院長

津谷 寛 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年10月05日です。

福井県あわら市にある国立病院機構あわら病院(以降、あわら病院)は、結核診療の拠点病院として1939年に「福井県立療養所北潟臨湖園」として開院しました。その後、数々の変遷を経て、2004年からは現在の国立病院機構あわら病院として活動しています。

病院の特徴や独自の取り組みなどについて、病院長の津谷寛先生にお話を伺いました。

病院外観(あわら病院よりご提供)

結核診療の拠点病院として誕生しましたが、その後診療の中心を障がい児(者)医療、長寿医療、血液・免疫医療に転換しました。

当院のある福井県北部では、入院施設を有する病院だけでなく診療所自体の数が少ないため、プライマリ・ケアと呼ばれる日常的な診療の多くも当院で受け入れています。

病院機能やマンパワーなどの観点から当院の救急では、原則として当院をかかりつけとされている患者さんのみ受け入れています。

小児科の医師が中心となって、重症心身障がい児(者)への診療を行っています。脳性麻痺と診断された方が多く、最近では人工呼吸器を着けている重症の方の割合も増加しています。消化器や呼吸器などの臓器で合併症を起こしていることも多いため、状況に応じて他診療科と連携を取りながら診療を進めます。

他にも、神経てんかん発達障害のため、当院を受診される方も増えています。特に発達障害では、子どもの心身の発達に対する診療や支援など小児神経学に詳しい医師のほか、言語聴覚士や臨床心理士も加わって診療や指導にあたります。

神経難病に注力しはじめたのはここ5~6年のことで、まずはレスパイト入院から始めました。レスパイト入院とは、ご家庭で療養中の方を病院で一時的にお預かりして、ご家族の方に休息やリフレッシュする時間をとっていただくための入院システムです。当院では、まず地域で開業されている神経内科の医師や社会福祉士の方にご紹介することで認知度を向上させました。

病院入り口の風景(あわら病院よりご提供)

高齢になると複数の症状や病気を併せ持つ方が増えるため、主に老年内科と循環器内科が中心となって、誤嚥性肺炎慢性心不全認知症などを診療します。また、嚥下障害が疑われれば嚥下内視鏡検査を実施して詳しく調べるほか、栄養状態に問題があると判断すれば管理栄養士による栄養管理なども行います。

免疫疾患では、当院は北陸地方におけるリウマチ治療の指導的役割を果たす病院の一つとして、比較的重症化した関節リウマチや、肺など関節以外にも病変が拡がっているリウマチを中心に、全身性自己免疫疾患に対応しています。

血液疾患では、血液のがんである悪性リンパ腫多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群を中心に、外来もしくは入院で化学療法を行うほか、緩和ケアや精神的ケアによって病気による心理的負担の軽減にも取り組んでいます。

他職種による合同カンファレンスの様子(あわら病院よりご提供)

ご自宅や施設などで生活されていた方が入院すると、認知症、ADL(日常生活動作)低下、嚥下摂食障害により、もとの生活環境に戻れなくなることもあります。また、多死社会を迎えて、長期間病院にとどまり病院で看取ることが困難になってきました。

こうした状況を受けて、地域で訪問診療をしている医師の応援や支援看護師の派遣を開始したほか、リビング・ウィルの推進や訪問看護ステーションの開設を進めました。

リビング・ウィルとは、その方らしい生活を送りながら最期を迎えられるよう、終末期に際してどのような医療を希望するかの意思表明やその尊重です。

認知症や意識障害などによって患者さんと意思疎通が取れなくなった場合でも患者さんの意思を尊重できるよう、当院では患者さんの精神が健全なときに、患者・家族・医療従事者が話し合うプロセスを設け、最後を迎える場所、延命治療、心肺蘇生術への考え方や要望を「リビング・ウィル宣言書」に記載していただいています。

訪問看護ステーションを所有している国立病院機構は限られており、なかでも当院は初期から取り組んでいる施設のひとつです。訪問看護ステーションでは、看護師が療養中の患者さんを訪問して、地域の医師の指示や連携にもとづいた看護を提供しています。

アイリスでは、患者さん一人ひとりの意志と生活の質を重視した医療と温かい看護で、患者さんとご家族をサポートします。

訪問看護ステーション「アイリス」では、ITによる情報共有システムを導入しており、訪問看護師が患者さんのデータを入力しています。医師は病院や診療所にいながらその日のうちに患者さんの状態を知り、病気の状態によって看護師の訪問回数を増やす、医師が往診に向かう、入院などの措置をとるなど、診療スケジュールを組めるようになりました。

看護師訪問はじっくり話せる時間をとりやすいことから、患者さんやご家族が疑問、不安、悩みなどを相談しやすいというメリットもうまれました。

より多くの方に病院の取り組みを知っていただくため、勉強会や講演会も開催しています。

当院のある坂井地区は特に高齢化が進行しています。当院で立ち上げた高齢者医療研究会では、高齢者医療が持つ課題や実際にあったケースをもとにした検討会、高齢者医療の質向上のためできることなどについてそれぞれ意見を出し合うほか、全国の医療機関から医師を招待して終末期ケアや緩和ケアをテーマにした講演会を開催しています。

地域の方に向けて、公民館などの病院以外の施設をお借りして、認知症などについて公開講座を開講しており、お坊さんに登壇していただき終末期医療や死について話していただく活動もしています。

カンファレンスの様子(あわら病院よりご提供)

がん終末期の方が入院されたとき、痛みや死ぬことへの不安に苦しみながら最期を迎えるのでは入院した意味がありません。ここでの入院の意味とは、緩和医療によって患者さんを不安や苦しみから開放することです。そう考えると、緩和医療は救急医療でもあります。

今後は、終末期医療のあり方や、住み慣れた環境でできる限り療養して最期は病院へ入院するスタイルもあることを、より多くの方に理解していただければと考えています。

地域医療や訪問看護に取り組んでいる病院のなかでも教育体制の整備が比較的進んでいたことが評価されていることもあり、当院での研修を志望される医学生や初期臨床研修医は多いです。また、看護師、看護学生、薬学生も多く来られます。

さらに、2018年に総合内科の研修病院として指定されたことを受け、あらたな採用教育体制の整備を進めています。

当院では、福井県内の重度心身障がい児(者)診療、長寿医療、血液・免疫医療を多く手がけていることもあり、多数の症例を担当して専門性を身につけることができます。また、訪問診療や訪問看護も実施しているため、地域医療連携のあり方について実践をもとに学ぶことも可能です。

近年では医師の働き方が問題視されることも多いですが、当院では働き方改革を意識しながら業務分担を進めていることもあり、オン・オフをしっかり分けることができるのが特徴です。

ナースステーションの様子(あわら病院よりご提供)

病院の基本理念「多くの人の笑顔のために」のもと、地域密着型の病院として患者さんやご家族、地域の医療・福祉従事者などともに医療に携わる方も含め多くの方が笑顔でいられるような看護の実践を目指しています。

また、自律した看護専門職として成長していただくため、当院の看護部では教育担当師長が中心となって、看護職員能力開発プログラム「ACTyナース」にもとづき、先輩看護師の指導のもと知識やスキルを身に着けていきます。

好きなことを一生懸命こなして、専門性を身に着けてください。同時に、大勢の方の役に立ちたい気持ちがこの仕事をしていくうえで重要なので、その思いを忘れないでいてください。

当院では病院理念を「多くの人の笑顔のために」と、あえて曖昧なものにしています。理念に共感していただくと同時に、多くの方に笑顔を届けるためできることを考えられる方に来ていただければと願っています。

高齢化の影響は、都心部よりも地方のほうが10年早く訪れるといわれています。地域医療や高齢者医療に対する当院の取り組みは、こうした時代の変化、そして地域から寄せられるニーズに次々と向きあってきた結果です。

今後、病院は地域における基幹病院としての役割を担うゼネラル・ホスピタルと、ある程度の専門性を維持しつつも高齢者医療や慢性疾患などに重点を置くコミュニティ・ホスピタルに二分化され、特に後者へのニーズはますます高まるのではないかと考えています。今後は職員採用と教育により病院機能を充実させることで、医療をつうじて一人でも多くの方を笑顔にしていきたいと考えています。

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