北海道函館市にある函館医療センターは、道南地域の2次救急を支える病院です。函館市だけでなく、道南地域全体から多くの患者さんが訪れており、八雲町や檜山管内からの患者さんも受け入れています。
そんな同院が現在提供している医療や今後の展望について、院長の椎谷 紀彦先生にお話を伺いました。
当センターは、1978年に旧国立函館病院と旧函館療養所の統合により発足しました。さらに、2003年には北海道第一病院と再統合し、2004年に独立行政法人へ移行しました。2020年には国立病院機構八雲病院から重症心身障がい児(者)病床の機能を移転し、2024年に“函館医療センター”へと名称を変更して現在に至ります。
2024年現在、当センターは病床数360床を有しており、そのうち6床はICU、60床は重症心身障がい児(者)病床となっています。
前述のとおり当センターは、2024年8月に“函館医療センター”へ名称変更いたしました。国立病院機構の病院の半分は“医療センター”という名称を採用しており、それにのっとった形です。国立函館病院はかつて結核の療養所であった歴史があり、地域の方の中にはそのイメージを持っていらっしゃる方も多く、現在の診療内容とのギャップが生じていました。これを機に、実際はがんや循環器疾患の急性期治療を数多く行っていることを地域の皆さまに知っていただきたいと考えています。
また、名称が似ている市立函館病院と当院とを混同されていた方も少なくないと思うのですが、そういった問題も今後は解消されるのではないかと期待しています。
当センターは、北海道がん診療連携拠点病院に指定されており、放射線治療やロボット手術といった新技術を積極的に取り入れています。近年では、放射線治療装置であるリニアックの更新を行っており、また手術支援ロボット“ダヴィンチXi”を導入し、がん治療における質の向上を図っています。
消化器分野は外科・内科ともに高い技術を持つ医師がそろっており、特に消化器系がんの治療に強みを発揮しています。外科では、食道がんの手術件数が北海道内でも多く、現在、直腸・結腸がん手術に使用している手術支援ロボットの適応を、今後は胃がん・食道がんにも広げていく予定です。
また、呼吸器外科にもロボット支援下手術の指導者資格を持つ医師が在籍しており、肺がんの治療においてもロボット支援下手術を実施しています。乳腺外科は市内でも手術数が多く、マンモグラフィ検査をはじめ検診も一通り行える設備が整っています。
当センターは、循環器内科と心臓血管外科を有しており、心臓疾患の治療において、地域における重要な役割を果たしています。狭心症や心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)は、緊急例も含めて積極的に受け入れています。当センターの循環器内科には優れた技術を持つ医師が在籍しています。特に注目すべきは内科系診療部長・循環器病センター長である今川 正吾医師で、急性心筋梗塞に対する緊急PCIで多くの実績を持っているほか、下肢閉塞性動脈硬化症に対する血管内治療にも実績を上げています。また、心房細動などの不整脈に対するアブレーション治療にも取り組んでいます。
当センターでは循環器科の得意分野である血管内治療の技術を生かし、心臓血管外科との協力の下、透析患者さんへのシャントトラブルに対する治療体制を整えています。透析病院ではシャント治療が難しくなってきている現状を踏まえ、緊急時にも迅速に対応できる体制を構築しています。
また、腹腔鏡下手術の技術を持つ外科医が多く在籍している状況を生かし、ヘルニア治療にも力を入れています。ヘルニアは慢性的に発生する疾患ですので、専門外来やセンターの設立を通じて、さらに発展を図っていく予定です。
このように地域の医療ニーズに応えながら、地域の皆さまにとって“身近でいつでもアクセスできる病院”と感じていただけるようになれば嬉しいかぎりです。
コロナ禍で一時中断していた地域の健康相談会や市民公開講座を再開しました。地域の方々に向けて健康情報の発信や医療相談の場を提供し、地域に密着した医療サービスの拡充を目指します。
さらに、過疎化が進む道南地域の広域医療圏にも対応すべく、病病連携や病診連携、介護との連携をいっそう強化して、地域医療の質向上に努めています。アクセスが困難な地域の患者さんにも質の高い医療を届けるため、今後はDX(デジタルトランスフォーメーション)などの技術を積極的に活用し、当センターでの診療範囲を広げていく計画です。
私は2024年の4月に病院長を拝命し、15年ぶりに地元北海道へ戻りました。日々変化する函館市の状況に合わせて、地域の皆さまのニーズに合わせて医療を提供したいと考えています。
また、病院名の変更を機に当センターの理念を変更いたしました。主な変更点は“患者さんに寄り添い、生涯にわたるウェルビーイングを実現するお手伝いをする”という点です。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることで、WHO(世界保健機関)でも健康の定義の一部として採用されており、単に病気や障害がない状態だけでなく、全体的によい生活の質を意味します。
私たちは、地域密着や有事の際の対応も重要な使命とし、地域のニーズに応じた医療を提供することを目指しています。これからも一人ひとりの患者さんに寄り添いながら、皆さんの身近な病院として地域社会に貢献する役割を果たしてまいります。
*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年9月時点のものです。