
静岡市にある社会福祉法人 恩賜財団済生会 静岡済生会総合病院(以下、静岡済生会総合病院)は、戦後間もない1948年に開設された病院です。静岡県が三菱重工静岡三菱病院を買い上げ、済生会に経営を委託したことが始まりでした。
地域に根差した病院として質の高い医療を提供し、診療体制を刷新する同院の地域での役割や今後ついて、院長である岡本 好史先生にお話を伺いました。
当院は、静岡市駿河区の総合病院として急性期医療を提供しています。太平洋沿岸部にあたるこの地域には、徳川家康の墓所として知られる久能山東照宮があることで有名です。
済生会は、“生活に困っている人を医療で助ける”ことを目的に設立された組織で、全国40都道府県に支部があります(2025年7月時点)。済生会は、超急性期から慢性期、リハビリまで幅広い医療提供を行う一方で、生活困窮者支援に積極的に取り組み、離島やへき地での医療にも力を入れています。また、医療・保健・福祉を総合的に提供できる組織として切れ目ないサポートを実践しており、地域の皆さんの生活を医療面から支えられるよう努めています。
当院も済生会の病院として、診療だけでなく患者さんの生活や経済面での不安に寄り添えるよう1958年より医療ソーシャルワーカー*を導入し、1973年には訪問看護も開始するなど、患者さんが地域で安心して暮らすためのサポートに注力してきました。古くから地域に根付いている病院として、住民の医療ニーズに広く応えられるよう急性期機能の充実を図っています。
*医療ソーシャルワーカー……医療機関で働くソーシャルワーカー(社会福祉士、精神保健福祉士の有資格者の総称)を指し、患者さんの生活や経済的な不安に対し、社会福祉制度や各種サービスなどの専門知識を活用しサポートを行う。
当院では、“がんトータルケア”を掲げ、“治す医療”と“支える医療”の二本柱でがん治療を行っており、各診療科や看護師、化学療法センターなどが緊密に連携しながら、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行っています。
治療では、設備面や診療科の充実を図っており、2022年には消化器内科に肝胆膵の専門医が加わったことで、消化器系疾患全般の診療とともに、肝胆膵内科として肝臓がん、胆道がんや膵臓がんに対するより専門的な治療が可能となりました。肝胆膵内科では、近年増加している肥満関連肝疾患(脂肪肝)に対する低侵襲肝線維化診断や、胆膵疾患に対する超音波内視鏡(EUS)を用いた治療などにも取り組んでいます。
また、同年4月には呼吸器外科が再開したことで、胸部異常陰影の診断から肺がんの治療まで幅広く対応しています。そのほかにも、血液内科では血液疾患の悪性リンパ腫、膠原病、血友病や白血病などに対して専門的な治療を行い、骨髄移植により難治性の疾患にも対応しています。
設備面では、放射線治療装置の更新や手術支援ロボット“ダ・ヴィンチXi”を導入し、低侵襲(体への負担が少ない)な治療の推進に取り組んでいます。2024年には新たなMRI装置も導入し、がん診療への対応力を強化しました。肺がんの胸腔鏡手術のほか、前立腺がんや大腸がんのロボット支援手術は着実に症例を重ねており、がんの診断や治療の選択肢を広げています。
一方、支える医療として、患者さんの精神的・身体的な苦痛や不安に寄り添う緩和ケアをはじめ、退院後の生活を見据えたサポートも行っています。
緩和医療を専門的に行う緩和医療科を備え、抗がん剤の副作用の緩和や再発がんの苦痛の緩和など、専門の医師がケアにあたっています。また、就労や医療費の相談など、退院支援専門のスタッフが患者さんの生活に合わせたサポートを行っており、就労支援相談会なども実施しています。済生会の使命として、経済的事情で治療が受けられない患者さんのために無料低額診療を取り入れるなど、治療費に関する相談にもお応えしています。
ほかにも、患者さんやそのご家族が、情報交換や相談などを気軽にできるがんサロンの開催や、アピアランスケアサロンも開設しています。それぞれの患者さんが抱える社会的背景や心理状態を考慮し、一人ひとりに合った治療や療養生活の質の向上のために多職種で支援しています。
小児科では、一般的な小児疾患を診る小児科外来から、新生児の集中治療を行うNICU(新生児特定集中治療室)まで、幅広い分野の新生児、小児医療を提供しています。また静岡県の地域周産期母子医療センターに指定されており、通常のお産からハイリスク出産まで対応するほか、お母さんと赤ちゃん双方を見守る体制を整えています。
2023年3月にリニューアルした周産期病棟では、より快適に安心して出産していただくことができる環境を整え、機能とアメニティーの両面で妊産婦さんと赤ちゃんをサポートしています。一例を挙げると、LDRと呼ばれる陣痛室、分娩室、回復室が一体となったお部屋を用意し、産婦さんの負担をできる限り抑えています。また、産婦人科では妊婦さんとそのパートナーの方の不安に寄り添い、一緒に向き合いたいという想いから2022年9月より、新型出生前診断(NIPT)*を開始しています。
当院のある駿河区においても少子化は着実に進行しています。地域の未来のためにも、引き続き子育てに必要な医療を積極的に提供していく考えです。
*新型出生前診断(NIPT)は自費診療となります。
循環器内科、不整脈科、心臓血管外科からなる循環器センターでは、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)に対するカテーテル治療や手術、不整脈に対するアブレーション治療、弁膜症の治療などさまざまな心臓の病気に対応しています。不整脈の治療では、頻脈性不整脈に対する最新の治療であるパルスフィールドアブレーションや徐脈性不整脈に対するペースメーカーの植え込み治療なども実施しています。
また、心不全の患者さんも多く診療しており、より質の高い心不全治療を心がけています。2018年には運動負荷心肺機能検査(CPX)を導入することにより、より安全な心臓リハビリテーションが実現しました。
手外科・マイクロサージャリーセンターは、四肢の病気や外傷を専門とする診療科です。主に、しびれなどの神経疾患や骨折、腱鞘炎などのほか、手や指の切断といった重症外傷にも対応しています。
手や指の切断や挫滅損傷など、血管・神経の切断を伴う外傷の治療に関しては、手術用顕微鏡下で行うマイクロサージャリーによる再建手術を行っています。マイクロサージャリーを使用した手の手術には依然として高度な医療技術が求められますので、日々医療技術の研鑽に努めています。
泌尿器疾患の場合、女性と男性では発症にいたる原因や求められる対応が異なるケースが多々あります。そのため当院では、2017年2月から女性泌尿器科を設けました。日本泌尿器科学会認定の泌尿器科専門医の女性医師を配置し、女性の患者さんが相談しやすい環境も整えています。また、子宮脱をはじめ骨盤臓器脱に対するロボット支援手術(ロボット支援腹腔鏡下仙骨膣固定術)も実施しており、2025年7月からはウロギネセンターとして、婦人科医師も合同で治療を行っています。
1980年に開設された救命救急センターでは、救急の患者さんを断らない方針を掲げ、日本救急医学会認定の救急科専門医を配置し、各診療科と連携しながら救急搬送を受け入れています。またセンター内にICU(集中治療室)を備え、脳疾患・心疾患含め、一次救急(比較的軽症の患者さんへの救急医療)から、三次救急(命の危険がある重篤な患者さんへの救急医療)まで対応できる病院として、地域の皆さんの健康を支えています。
三次救急ではドクターヘリも受け入れており、2023年は12件、2024年は6件の搬送がありました。さらに、医師や看護師が一刻も早く現場で処置できるようにドクターカーも運行しています。
当院の脳神経外科は日本脳卒中学会から一次脳卒中センターに認定されており、脳血管内カテーテル治療を始めとした早急な対応が必要となる症例の治療も行っています。2023年には血管撮影装置を増設し、脳卒中のIVR(画像診断機器を用いて行う低侵襲医療)の機能も充実しました。
当院は高気圧酸素療法の設備も備えており、潜函病(潜水時などに気圧の変化で生じる健康被害)の救急搬送にも対応できます。保有している高気圧酸素治療の第二種(多人数対応)装置は全国的にみても数が少ないため、設備を活用して突発性難聴など多様な患者さんのニーズに応えています。また、高気圧酸素治療は、スポーツ外傷の早期回復にも効果があるといわれており、契約している静岡県内のスポーツチームにも治療を提供しています。
当院では、地域とのつながりを大切にしており、地域の皆さんを招いて行う“済生会フェア”というイベントを過去26回にわたり開催しました。イベントでは、病院の部署や静岡済生会の医療・福祉施設、さらには地域の企業や団体が参加してブースを企画したり、著名人によるトークショーを行ったり、小さなお子さんから高齢の方まで地域の皆さんに楽しく参加いただけるよう工夫をしています。
こうした取り組みを通じて、社会福祉に対する済生会グループの思いを伝えると同時に、未来を担う子どもたちが少しでも医療を身近に感じ、将来の選択肢に医療や福祉が加わってくれればうれしいなという思いもあります。
当院はこれからも真摯な姿勢で地域医療に努め、「済生会でよかった」と思ってもらえるような、“患者さんにやさしく、患者さんが安心できる病院”を目指して精進して参ります。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。