兵庫県多可郡多可町にある多可赤十字病院は、1945年に柏原赤十字病院の分院として設立された歴史ある病院です。現在も地域のかかりつけの病院として、医療と介護が一体になった地域完結型の医療を提供しています。そんな同院の役割や今後について、院長の梶本 和宏先生に伺いました。
当院は1945年に柏原赤十字病院の分院として設立されました。その後、中町赤十字病院として独立し、2010年に現在の多可赤十字病院に改称しました。当院の医療圏となる多可町は人口が約19,000人(2024年)、65才以上の高齢化率が40.8%(同)で、高齢化率に至っては全国平均の29.0%を大きく上回っています。こうした状況の中、当院は超高齢化社会の到来を見据え、全国で最初となる老人保健施設の創設や、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、在宅介護支援センター、地域リハ・ケアセンターでの通所リハビリなどの事業をいち早く展開し、医療と介護の一体化による地域完結型医療システムを築いてきました。
診療面では地域のかかりつけの病院を目指し、内科・総合診療科を開設して地域の患者さんを総合的に診るプライマリーケアに取り組んでいます。一方、高い専門性が求められる急性期の医療や手術については、西脇市立西脇病院をはじめ連携している医療機関に紹介しています。また、急性期の治療が終わった患者さんを当院で受け入れるなど、地域の医療機関と連携しながら切れ目のない医療を提供しています。
実は、当院がある多可郡多可町は“敬老の日”の提唱の地で、当時の村長(現多可町八千代区)が敬老会を開催し、それが全国に広まったと言われています。当院でも早い段階から高齢化への課題意識を持つようになり、老人保健施設や介護医療院をいち早く設置しています。
当院の内科・総合診療科は地域の“かかりつけ医”の役割を担っており、一般的な内科診療だけではなく、一部の外科疾患まで幅広く対応しているのが特徴です。主に診ているのは、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病、高齢者の方が発症しやすい肺炎をはじめとした感染症などです。
消化器疾患については、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査を実施しており、ポリープが見つかれば内視鏡的に切除しています。また、呼吸器内科の専門医(呼吸器学会認定)が在籍しており、咳が長引いてお困りの方や喘息の症状が改善されない方などが多く受診されています。
内科・総合診療科以外では、眼科、泌尿器科、整形外科で医師が常駐しており、眼科では白内障を中心に手術を実施しています。泌尿器科については、この地域に常勤の医師が在籍している病院が少ないこともあって、多くの方に受診いただいています。診療の結果、専門的な診療や手術が必要と判断した場合には、連携している高度な専門治療ができる医療機関を紹介していますので、まずは当院を受診ください。
当院が位置するこの地域にはご高齢の方が多く暮らしていることから、加齢によって筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい“フレイル”への対策がとても重要です。そこで当院では介護サービスやリハビリテーションを提供する施設を併設し、医療と介護の一体化を進めています。
たとえば、多可赤十字老人保健施設は1988年にわが国で最初に創設された歴史のある老人保健施設で、リハビリテーションや介護における経験と実績が豊富です。ここでは治療が進んで入院の必要がないものの、ご自宅での日常生活が難しい方などを対象に、短期入所療養介護や通所によるリハビリテーション、看護、介護を中心としたケアを提供しています。
また、2022年には多可赤十字介護医療院を開設しました。こちらでは医療が必要な要介護者の方のために長期療養と日常生活の支援を行っており、それらを通じて生活の場として、安心して過ごしていただくことを目指しています。
地域の皆さんが必要としている分野については、充実した医療サービスを提供するために複数の診療科や多職種が連携して医療を提供する“センター化”をしています。その1つが人工透析センターです。当院は多可町内で唯一の透析医療機関で、医師、看護師、臨床工学技士などのスタッフがチームを組んで透析医療を提供しています。
また、地域医療支援センターでは、急性期の医療が必要になった患者さんを高度専門病院に紹介するとき、急性期の医療を終えて当病院あるいは老人保健施設・介護医療院に患者さんを受け入れるとき、当院で治療を終えた患者さんの在宅支援をするときなどの総合窓口になっています。
日本赤十字社では、“苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守る”という使命に基づき、一般の方向けに救急法・水上安全法・雪上安全法・幼児安全法・健康生活支援講習の5つの講習を行っています。そのうち当院では、救急法・幼児安全法・健康生活支援講習を開催しており、多くの皆さんにご参加いただいています。
たとえば救急法は、厚生労働省が定める自動体外式除細動器(AED)講習に該当し、心肺蘇生法などの救命手当や止血・骨折の固定といった応急手当などの講義をしています。また、幼児安全法では子どもに起こりやすい事故の防止とその手当の方法などが、健康生活支援講習では健康管理(セルフケア)や健康寿命を延ばす取り組みや地域での高齢者支援などが講義のテーマです。
中区のボランティア団体・NPO法人である“じーば”の皆さんが、“多可日赤奉仕団”として、病院敷地内の草刈りをはじめ、積極的に応援していただいています。
また多可町には多可町地域共生推進協議会が主催する住民研修会“コークゼミ”があり、コークゼミの皆さんが立ち上げてくださった団体“多可日赤応援隊”があります。毎月、季節に合わせた院内の掲示物や、看護の日などで開催するイベントで配布するコースターやしおりの作成をしていただています。毎週木曜日に、子育てふれあいセンターのコークラボにて活動をされていますので、ご興味のある方はぜひお立ち寄りください。
多可赤十字病院を応援してくださる皆様に、職員一同心から感謝しています。
当院では、これから迎える超高齢化社会に向けて老人保健施設や訪問看護ステーションをいち早く開設するなど、医療と介護が一体となった地域完結型の医療の完成を目指してきました。今後もこうした高齢者に対する医療だけでなく、急性期一般病棟では急性期や亜急性疾患治療など、地域包括ケア病棟では急性期治療後のリハビリテーションや退院支援などに取り組み、患者さんの在宅・社会復帰に向けて全力でサポートしていきたいと考えています。
地域の皆さんにおかれましては、“何か特定の病気が懸念されるから受診する”というのではなく、ちょっと不安だとか、最近調子が悪いとか、些細なことでも構いませんので気軽に受診していただけるとうれしいです。そのようなときに、一番に思いついていただける“かかりつけの病院”を目指して、今後も努力を続けていきたいと思います。
なお、当院は医師、看護師などの医療スタッフが不足しています。私たちと一緒に地域医療を守り、チーム医療を大切にする医師・職員を募集しています。賛同していただける方は、当院総務課にお気軽にお問い合わせください。
「地域医療も赤十字」
*写真提供:多可赤十字病院
*診療科や医師、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年8月時点のものです。