院長インタビュー

地域のコアホスピタルとして人と地域と医療をつなぐ脳神経センター大田記念病院

地域のコアホスピタルとして人と地域と医療をつなぐ脳神経センター大田記念病院
大田 泰正 先生

社会医療法人祥和会 理事長

大田 泰正 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年12月19日です。

広島県福山市にある脳神経センター大田記念病院は、1976年の開院当初より脳血管や脳神経の病気に対応可能な病院として親しまれてきました。

同院の経営母体、社会医療法人祥和会の理事長を務めておられる大田泰正先生は、地域の高齢化などによる医療ニーズの変化に対して適切な対応をとるべく、祥和会グループ全体をつうじて、救急対応が必要な患者さんの受け入れから治療、リハビリテーション、介護、在宅医療まで切れ目なく提供するケア・サイクルづくりに取り組まれています。

同院の歴史、診療体制とその特徴、祥和会が手がけるケア・サイクルの形成について、大田先生にお話しいただきました。

 

病院外観(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

岡山大学病院で脳神経外科の医師として勤務していた父・大田浩右が、国立福山病院(現在の国立病院機構福山医療センター)に赴任することになりました。母・大田祥子も内科の医師でしたので、父に同行する形で、国立福山病院の前に「大田内科胃腸科」を開院しました。

1970年代は交通事故発生率が今よりも高く、頭部外傷を負った患者さんが数多く救急搬送されていました。当時、母が開業した診療所の2階に一家で住んでいましたので、患者さんが搬送されるたび父は病院に駆けつけていました。

また、当時の脳外科診療では、患者さんを1分1秒でも長生きさせること、できるだけよい状態で助けることが真骨頂とされていたため、母があえて国立病院の近くで自宅兼診療所を開業したのには、時間との戦いでもある脳外科診療に、父がより早く取りかかれるようにしたいという考えもあったのでしょう。

その後、両親が力を合わせ、1976年12月、現在地に個人立の「大田病院」を開院しました。1979年には医療法人化し、病床数増加と敷地拡大、救急部開設、リハビリテーション部門の拡大など各機能充実を進めて、脳血管や脳神経、神経難病、脊椎と脊髄疾患診療を手がける病院に成長して現在に至ります。

先代の父からバトンを受けて理事長に就任した2006年当初は、救急診療を主体にした急性期特化型の医療提供体制構築に向けて動こうと考えていました。

しかし、地域の高齢化と人口減少のスピードは当初の予想を上まわるレベルで進行しており、医療のみでなく介護や福祉とも一体化した「生活も支えるサービス」の必要性を痛感しました。

このときの気づきが、のちの地域包括ケアシステム構築を意識した社会医療法人祥和会の経営と、社会福祉法人祥和会の設立につながります。

 

 

社会医療法人祥和会は、脳神経センター大田記念病院が中心となり、「治す医療」の救急医療、急性期医療と、「治し、支える医療」である地域包括ケアシステムを意識した高齢者に向けたリハビリテーション、在宅医療の両立を目指しています。

地域包括ケアシステムについては『地域包括ケアシステムの構築と実現へ-祥和会グループ全体の取り組み』で詳しくご紹介します。

社会福祉法人祥和会では、地域密着型特別養護老人ホーム「五本松の家」を中心に、ショートステイ、デイサービス事業を展開、五本松の家は地域社会との連携を強く意識した運営を行っており、地域の敬老会や、子ども会行事などの会場としても、親しまれています。

脳血管治療のみでなく、神経疾患や神経難病診療、脊椎と脊髄疾患診療なども手がけ、そして救急医療にも取り組んでいることから、当院はグループの屋台骨であると同時に、福山市南部の医療を支えている存在でもあります。

患者さんの症状から考えられる病気を導き出し、脳神経外科をはじめ各診療科の医師たちが連携しながら患者さんそれぞれに適した診療を行います。

 

t-PAを注入する自動シリンジ(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

当院は脳卒中脳腫瘍脳動脈瘤、頭部外傷などあらゆる脳疾患に対応可能な診療体制を整備しています。

たとえば、脳梗塞では脳細胞への血流が止まると短時間でダメージが広がるため、喫緊の治療が必要となります。「超急性期」では血栓を溶かすt-PA治療、ステントを使って血栓を取り除く血管内治療、点滴や投薬による保存的治療など、どの方法が患者さんに適しているか速やかに判断して行います。

脳梗塞の「急性期」では、超急性期とは異なり、症状の悪化を防いで安定をもたらすため、多職種が協力して、点滴や内服、急性期のリハビリテーション、栄養管理に取り組みます。

 

ガンマナイフ専用の部屋(脳神経センター大田記念病院よりご提供)
 

当院では定位放射線治療装置「ガンマナイフ」による治療を行っています。ガンマナイフとは病巣部位にガンマ線を集中的に照射する機械で、脳腫瘍や聴神経腫瘍三叉神経痛などメスを入れにくく後遺症などを起こしやすい頭頸部の病気の治療で重用されています。

当院では、ほかの治療方法も検討したうえでガンマナイフによる治療が適しているか判断します。詳しくは当院にお問い合わせください。

手術室風景(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

当院の経営母体である祥和会は、地域の救急医療の充実を条件に社会医療法人として認められている組織です。1992年に大田記念病院に救急部を開設して以来、緊急の対応を行う二次救急医療の担い手として地域医療の一角を支え続けています。直近では2017年1月から12月は3,041台の救急車を受け入れました。ひとつでも多くの命を救うため、救急科と各診療科による横の連携をいかして、24時間365日いかなるときでも救急車を断らない体制づくりに努めています。

 

リハビリテーションセンター・回復期リハビリ・通所リハビリ施設が入るリハビリ棟(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

当院では、急性期および回復期のリハビリテーションと、ロコモティブシンドローム予防のための通所リハビリテーションを行っています。

急性期リハビリテーションとは、病気の治療による安静が原因で身体機能が低下する廃用症候群の予防と回復を目的としたリハビリです。当院では脳卒中治療を行うことが多く、医学的にリスクがないと医師が判断すれば発症48時間以内にリハビリを開始します。

また脳卒中の発症は日を選ばないため、土・日・祝日、年末年始もリハビリを行う「365日リハビリテーション」を実践しています。

 

回復期リハビリテーション病棟(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

ロコモティブシンドロームとは、身体機能低下などにより要介護や寝たきりになるリスクが高い状態のことです。解消と予防には適度な運動やリハビリの継続が有効とされており、通所リハビリでは要介護度が比較的低い方を対象にフィットネスコースを開設しています。

医療機関は病気を見つけて治すだけでなく、病気になりにくくするための方法をお伝えしたり、生活指導を行ったりする場でもあります。

一生涯でより健やかに過ごせる期間を伸ばしていただくため、だるさや眠気などの症状、糖尿病をはじめさまざまな病気を引き起こすきっかけとなる睡眠時無呼吸症候群への診療を行っています。

また、日頃の食事が健康状態を大きく左右し、高血圧症や高脂血症を引き起こし、その後は動脈硬化が進み、脳卒中や心臓病を引き起こすことから、当院では管理栄養士が中心となって考案した「大田メソッド」を広く社会に普及させるため、『大田記念病院が心をこめて贈る91のレシピ』(啓文社刊)、食塩、粉末醤油、化学調味料無添加の「大田記念病院が考えた だしパック」(製造・販売:カネソ22)を発売しています。だしパックは広島だけでなく、全国各地の百貨店・スーパーで取り扱われています。

2025年問題に代表される超高齢社会の到来と諸問題に対応するため、全国各地で地域包括ケアシステムの構築と運用が行われています。地域包括ケアシステムとは、介護が必要な状態となっても、在宅を中心に自分らしい生活を続けられるよう、地域全体で医療、住居、介護、予防、生活支援を行い、患者さんを支えていく仕組みであり、「ときどき入院、ほぼ在宅」がその理想像ともいわれています。

 

虹の会訪問看護ステーション幕山台出張所(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

地域包括ケアシステムが在宅医療の質を高めるためには、在宅療養中の方の急変や怪我に対応できる急性期病院が必要です。一時的な入院により、治療を行い、また在宅療養に戻れる流れをスムーズにすることが大切であると考えています。

 

沖野上クリニック(脳神経センター大田記念病院よりご提供)

祥和会グループでは、大田記念病院が「福山市南部における地域包括ケアのコアホスピタル」になることができるよう、「リハビリ機能の充実」や「外科、整形外科など、療養生活を進めていくうえで必要な診療科の開設」、そして、地域包括ケア病棟を開設して、在宅療養中に入院が必要となった方を受け入れ、適切な対応をする受け皿の機能も追加しました。

また、「虹の会訪問看護ステーション」は2017年には病院から8km離れた住宅団地「幕山台」の一角にサテライトステーションを設置しました。同年、地域密着型特別養護老人ホーム「五本松の家」を開所して介護・福祉機能を強化、そして2018年には小児科・内科・泌尿器科・皮膚科診療を行う「沖野上クリニック」を開院して日常の健康管理や日常的な病気の診療も手がけるようにしたことで、当院による急性期医療を起点に医療・介護を切れ目なく提供できる一連のケア・サイクルが完成しました。

 

 

脳卒中を発症した場合、患者さんとご家族は後遺症の発生や健康寿命の短縮など健康面、治療費の支払いや、ときに収入減少など経済面、2つの側面でネガティブインパクトを負います。患者さんが増加すれば、国としても医療費や介護費用の増加、税収減少など財政面でのネガティブインパクトを負うことになります。

病気の発症そのものを防げれば、これらのマイナスを被ることもなく、むしろ医療以外に使える資金が増えて別分野でのプラスの恩恵を受けられる可能性も出てきます。そう考えると、医療はマイナスをゼロにすることができる「健康を売る商売である」ともいえるでしょう。

高齢化の進行は、病気や日々の不調に悩む方の増加、患者さんの受診行動の鈍化など、多方面で多大なる影響を及ぼします。また、地方では医師の高齢化も進んでいます。

これまでのように、患者さんの受診を待ち続けるだけの受動的な時代は終わりました。これからは、地域の皆さんの健康寿命を延ばすため、医療機関や医療に携わる者は病気を治すだけでなく、健康意識を高めてもらう手助けと、病気の芽が見つかり次第治療へつなげる能動的な行動が必要です。特に、地域包括ケアシステムに携わる病院にとって、これらは大切な役割であり、使命であると同時に、社会に対し果たすべき責務でもあります。

当院や祥和会グループでは、脳神経疾患をはじめとする病気への診療や、健康増進のためのサポートを行っています。しかし、あくまでもその主体は皆さんお一人おひとりです。自分の健康は自分で守ることを意識して、そのために何ができるのか、よくお考えになることを勧めます。

地域の皆さんが、自分らしいすこやかな人生を送るための仕組みづくりを、グループ全体で考えてまいります。

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