子どもの熱:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
佐久総合病院佐久医療センター 小児科 医長
坂本 昌彦 先生【監修】
子どもは成人よりも体温を調節するはたらきが未熟で、体温が上がりやすいです。一言で体温が上がるといっても、大きく発熱と高体温に分けられます。
まず、発熱は感染症などにより一時的に体の中で炎症を引き起こす物質が作られることにより起こるものです。一方で高体温は、熱中症のように体外環境の影響で体温が上がることを指し、生命に危険を及ぼす可能性もあります。保護者は重症度を体温の高さで判断しがちですが、実はそうではありません。
子どもが熱を出す状況を挙げてみましょう。
このように子どもが熱を出す原因はさまざまで、その原因を知ることが大切になります。
発熱は、体の一部に何らかのダメージが加わったことに対し、体内でサイトカインなどの物質が産生され、それらが体温調節を行う脳の視床下部に刺激を与えることで引き起こされます。このため、発熱は何らかの病気によって引き起こされることがほとんどです。発熱の原因となる病気には以下のようなものが挙げられます。
子どもは成人に比べて免疫のしくみが未熟で、細菌やウイルスなどの病原体に感染すると大人よりも発熱しやすいです。子どもの発熱を引き起こす主な病気は以下の通りです。
いわゆる“風邪”と呼ばれる病気で、鼻腔や咽頭(いわゆる、のど)などの上気道にウイルスや細菌が感染することによって発症します。症状や重症度などは、病原体の種類や生まれ持った病気(基礎疾患)の有無などによって異なりますが、一般的には微熱、咽頭痛、咳、痰、鼻汁、倦怠感などの症状が現れます。
ほとんどの急性上気道炎は数日で自然に治りますが、年齢が低いと気管支や肺にまで炎症が広がって、気管支炎や肺炎などの重い合併症を引き起こすこともあります。
ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどのウイルスや、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、サルモネラ菌などの細菌が消化管内に感染することで発症する病気です。症状や重症度などは病原体によって異なりますが、一般的には発熱や倦怠感などの全身症状とともに、吐き気・嘔吐、下痢などの消化器症状が見られます。
年齢が低いと下痢や嘔吐を繰り返すことで脱水症状に陥りやすく、入院治療が必要になることもあります。
風邪をひいた際などに、咽頭や鼻腔内の炎症が鼓膜より内側の“中耳”と呼ばれる場所にまで波及すると、中耳炎と呼ばれる病気になります。中耳炎では発熱、耳の中の痛み、耳だれなどの症状を引き起こします。中耳炎の炎症は慢性化することもあり、熱は出なくなっても難聴などの症状が進行する場合もあります。
膀胱や尿管、腎盂など、尿の通り道である“尿路”に細菌が感染した状態です。一般的には発熱や背部や腰の痛みなどの症状が見られますが、子どもは症状をうまく訴えられないことも多く、発熱以外の症状がはっきりしないケースも多いです。尿検査で膿を検出することで診断がつきます。
なお、生まれつき膀胱から尿管への逆流防止弁が十分にはたらかないことがあり、その場合、膀胱内の尿が尿管に逆流する“膀胱尿管逆流症”を起こすことがあります。この状態の場合、尿路感染症を繰り返すことがあり、手術が必要になることもあります。
髄膜や脳にウイルスや細菌の感染を引き起こす病気です。年齢が低いほど細菌性髄膜炎や脳炎脳症を発症しやすい傾向にありますが、最近はヒブや肺炎球菌などの予防接種のおかげで、日本における細菌性髄膜炎は激減しています。
症状としては、発熱とともにぐったりして意識が悪くなる、呼びかけに反応しない、目が合わないなどの様子が見られ、けいれんや嘔吐などの症状を伴うことあります。
子どもの熱は感染症以外の病気によって引き起こされることがあり、原因となる主な病気は以下の通りです。
発熱が続く病気です。発症のしくみははっきりと分かっていませんが、全身の血管に炎症が生じる病気で、発熱や発疹、イチゴ舌(舌がイチゴのように表面がブツブツして赤くなる状態)などの症状が見られるのが特徴です。
39℃前後の高い熱が続くことが多く、さまざまな形の発疹、手指の先端の腫れ、首のリンパ節の腫れなど、さまざまな症状が見られます。治ってくると手指の皮がむけることもあります。
自分の体を守る役割を持つ免疫系が何らかのきっかけで正常に機能せず、自分自身の体の一部を攻撃し炎症を引き起こす病気です。膠原病にはさまざまな病気がありますが、なかでも全身性エリテマトーデスや若年性関節リウマチなどは子どもにも発症することがあります。発熱や関節の痛み、皮疹などの症状が見られます。
主に初夏から夏にかけ、環境に体が適応できないことで起こります。子どもは体温が上がりやすく脱水になりやすいことなど、熱中症のリスクがあります。最初は軽くても症状は進行することがあるため、その後の経過に気をつける必要があります。
めまいや立ちくらみなどの症状(軽症)から、吐き気や頭痛を伴う中等症、けいれんや異常な高体温、異常な発汗もしくは発汗停止などを伴うこともある重症など、程度によって症状はさまざまです。
子どもの発熱はよく見られる症状で、受診理由としてもっとも多いものです。発熱に対して「脳に障害が出るのではないか」「けいれんするのではないか」「脱水になるのではないか」など保護者は多くの不安を持つと言われており、“発熱恐怖症”という言葉もあるほどです。ただし、発熱の多くは緊急で受診が必要ではなく、受診の目安を知ることが大切です。
発熱の多くは1~2日で解熱しますが、3~4日以上経過しても解熱しない場合には、一度小児科を受診することを検討しましょう。一方で、発熱以外に“水分が摂れない”“ぐったりしていて様子がおかしい”などの症状がある場合には、速やかな受診が必要です。この場合には休日夜間であれば救急外来を受診しましょう。
日常生活では、服装の調節、適度な水分摂取などが大切になります。
子どもは体温調節能力が低いため、冬場などに厚着をしすぎると、熱がこもって一時的に体温が高くなることがあります。逆に冬場も薄着で過ごすことが体を鍛えるのによいとされた時代もありましたが、特に医学的な根拠があるわけではありません。服装は状況に応じて適度に調整することが大切です。
子どもは成人よりも体重あたりの水分量が多いため、水分が失われると容易に脱水になります。また、炎天下でも遊びに夢中になると水分摂取を我慢しがちになることもあり、子ども自身ではなく保護者によるコントロールが大切です。熱中症予防には、カフェインの入っていない麦茶などをこまめに摂ることや、食事も3食しっかり取ること、規則正しい生活で睡眠を十分に確保することが大切です。
日常生活上の好ましくない習慣を改善しても発熱が収まらず、発熱から3〜4日経過しても解熱しない場合には、小児科の受診を検討しましょう。受診の際には、いつから熱が出ているのか、熱以外にどのような症状があるか、水分摂取はできているか、家族など周りで流行っている病気の有無などを時間軸に沿って医師に説明するようにしましょう。