尿失禁:医師が考える原因と対処法|症状辞典

尿失禁

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。

  • 呼びかけても反応しないなど、意識がおかしい

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • くしゃみなどのきっかけで尿が漏れ、日常生活に支障がある 突然尿意を感じ、我慢できない 尿を出したいのにうまく出せず、漏れてしまう

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 一時的なもので、その後繰り返さない

横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員

湯村 寧 先生【監修】

尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が排出されてしまう症状のことです。予期せぬ場面で生じることが多く、外出が困難になるなど日常生活に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。尿失禁は加齢に伴って発症する割合が高くなり、原因は多岐にわたります。

  • くしゃみをしたり笑ったりすると、少量の尿が漏れる
  • 突然強い尿意が生じ、我慢できずに失禁してしまう
  • 歩行障害や記憶障害などとともに尿失禁も見られるようになった

これらの症状が現れた場合、原因として考えられるのはどのようなものなのでしょうか。

尿失禁には、膀胱や骨盤底筋など骨盤内器官の異常が原因のものと、神経や脳の異常によるものがあります。尿失禁を引き起こすそれぞれの代表的な病気には以下のようなものが挙げられます。

尿は腎臓で生成されて尿管を通って膀胱へ蓄積され、膀胱の容量が一定以上になると尿意を感じて排尿行為を促します。このため、尿の通り道である膀胱や、それを支える筋肉の異常などによる病気によって尿失禁を生じることがあります。

腹圧性尿失禁

尿道(にょうどう)括約筋(かつやくきん)などを含む骨盤底筋の筋力が低下したり、骨盤底筋に過度な負担がかかったりすることで腹圧をかけたときに尿道が緩んで尿失禁する病気です。

主な原因は加齢や肥満であり、女性では妊娠・出産を機に発症する人もいます。重い荷物を持ち上げたときや咳・くしゃみをしたとき、激しい運動をしたときなどに少量の尿失禁をきたすのが特徴で尿失禁以外の症状は見られません。

腹圧性尿失禁
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過活動膀胱

膀胱が過剰に収縮して突然の尿意切迫感を生じる病気です。膀胱内に尿が多く蓄積する前に尿意を生じるため、思いもよらない場面で強い尿意を感じ、重症の場合では自分の意思で排尿コントロールをすることができず、尿失禁に至ることがあります。

過活動膀胱は、前立腺肥大や直腸・子宮の病気など膀胱周辺の病変が膀胱を圧迫することが原因の場合が多いですが、原因がはっきり分からないケースも少なくありません。

過活動膀胱
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膀胱炎

膀胱に炎症が生じる病気ですが、尿道から侵入した細菌が原因のタイプと、膀胱粘膜の間質と呼ばれる部位に炎症が生じる“間質性膀胱炎”があります。膀胱が過剰に刺激されるため、頻尿や残尿感、下腹部痛などの症状が見られ、尿意切迫感が生じることで尿失禁が引き起こされることもあります。

膀胱炎
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尿失禁は、排尿をつかさどる神経に異常が生じる病気や精神的な変調が原因となって引き起こされることがあります。主な原因には以下のようなものが挙げられます。

糖尿病

糖尿病は発症初期の段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行するとさまざまな合併症を引き起こします。糖尿病の三大合併症の1つである“末梢神経障害”では、尿の蓄積による膀胱の拡張を感知する神経が障害されて尿意を感じなくなることがあります。その結果、膀胱内に多量の尿が蓄積され、尿が少しずつあふれる“溢流性(いつりゅうせい)尿失禁”を発症することがあります。

糖尿病
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脳卒中後遺症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症

脳の一部が障害される病気によって尿失禁が引き起こされることがあります。特に、脳卒中後遺症では寝たきり状態や麻痺が残ることもあり、尿意が感じられない、尿意を我慢することができない、物事を正常に判断できなくなることでトイレ以外の場所で排尿するなどの症状が見られます。

一方、慢性硬膜下血腫正常圧水頭症は急激に進行する認知症、歩行障害、尿失禁が主な症状であり、それらが発見のきっかけになることも少なくありません。

脳卒中
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慢性硬膜下血腫
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正常圧水頭症
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脊髄損傷

膀胱の拡張は末梢神経から脊髄に伝えられ、さらに脊髄から脳へ伝わることで排尿行動が引き起こされます。このため、腰椎椎間板ヘルニアや腰椎骨折などによって脊髄にダメージが加わると、正常な尿意が生じなかったり排尿コントロールができずに尿失禁を引き起こしたりすることがあります。

脊髄損傷
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神経性頻尿

膀胱や尿路、神経などに異常がないものの、精神的な緊張などが原因となって頻尿や尿意切迫感などの症状が引き起こされる病気です。抑うつ気分や食欲低下など精神的な不調や動悸、めまいなどの身体症状を伴うことも多く、思わぬ場所で尿失禁を生じることがあるため、日常生活に大きな影響を与えます。

尿失禁は日常生活に悪影響を及ぼすことも多く、精神的な不調につながることもあります。尿失禁が見られる場合は軽く考えずに適切な検査・治療を受けることが望まれます。

特に、日常的に尿失禁を繰り返す、尿失禁とともに腹痛や血尿などの症状を伴う、排尿の異常だけでなくさまざまな全身症状を伴うような場合にはなるべく早めに病院を受診するようにしましょう。

受診に適した診療科は泌尿器科ですが、かかりつけの内科で相談するのもひとつの方法です。また受診の際には、いつから尿失禁があるのか、尿失禁の誘因、随伴する症状、尿の色や性状の異常、現在かかっている病気などを医師に詳しく説明するようにしましょう。

尿失禁は日常生活上の好ましくない習慣が原因になっていることもあります。主な原因とそれぞれの対処法は以下の通りです。

運動不足による肥満や骨盤底筋の筋力低下は、腹圧性尿失禁を引き起こす主な原因となります。

腹圧性尿失禁を改善するには

適度な運動習慣を身につけ、肥満を解消するのはもちろんのこと、骨盤底筋を鍛えるトレーニングを行うのもおすすめです。特に女性は骨盤底筋の筋力低下が尿失禁の原因となることが多いため、肛門や膣に力を入れて締めたり緩めたりといった運動を行ってみましょう。 

尿失禁の原因となる膀胱炎は、尿意の我慢や水分不足が発症の引き金となることがあります。

膀胱炎を予防するには

こまめに水分を摂取して脱水状態を防ぎ、尿意を感じたときは長時間我慢せずにすぐに排尿するようにしましょう。特に夏場は思いがけず脱水状態に陥っていることがあるため、意識的に水分を取るよう心がけることが大切です。

日常生活上の対処法を行っても症状が改善しない場合は思わぬ病気が潜んでいる可能性も考えられます。また、尿失禁を放っておくと治療が難しくなる場合もあるため、なるべく早めに病院を受診するようにしましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。