歯茎から血が出る:医師が考える原因と対処法|症状辞典
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長
戸原 玄 先生【監修】
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 講師
山口 浩平 先生【監修】
口の中は食べかすなどが溜まることによって多様な雑菌が繁殖しやすいため、歯茎もさまざまなトラブルを起こしやすい部位です。特に歯茎からの出血は比較的よく見られるトラブルといえます。痛みなどがない場合は出血したとしても軽く考えられがちですが、注意が必要な場合もあります。
こういった場合の原因としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
歯茎からの出血は、日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされることもあります。
口の中は汚れが溜まりやすく、さまざまな細菌が繁殖しやすい部位です。適切な口腔ケアを怠ると細菌が繁殖して歯茎に炎症を引き起こし、出血しやすくなります。
口の中をきれいに保ち、細菌の繁殖や歯・歯茎の汚れを防ぐには正しいブラッシングなどの口腔ケアを行うことが大切です。毎食後に丁寧なブラッシングをするのはもちろんこと、ブラッシングだけでは取り除くことができない歯と歯の隙間の汚れなどには 歯間ブラシを活用しましょう。また、半年に一度ほど歯科医院を受診し、溜まった歯石などを除去してもらうことも大切です。
口呼吸をすると口の中が乾燥して歯茎の粘膜がダメージを受け、些細な刺激で出血しやすくなることがあります。
日中は口呼吸をしないよう意識することが大切ですが、夜間は無意識のうちに口呼吸してしまっていることも少なくありません。起床時に口の中が過度に乾いているという場合は、口呼吸を防ぐためのマウスピースなどを活用するとよいでしょう。
歯茎の粘膜組織を丈夫にするビタミンCやたんぱく質などの栄養が不足すると、歯茎が脆くなって出血を起こすことがあります。
日ごろから食事は栄養バランスと適正カロリーを考え、3食規則正しく摂るようにしましょう。特に歯茎を強くするビタミンCは果物や野菜に多く含まれているので、必要な栄養素を効率よく摂取できる食材を積極的に取り入れることも大切です。
日常生活上の習慣を改めても歯茎から出血を繰り返すときは、思いもよらない原因が隠れていることがあります。軽く考えず、早めに病院を受診しましょう。
歯茎からの出血のなかには、病気が原因となって引き起こされるものもあります。
歯茎からの出血の原因となる口腔内の病気には、主に以下のようなものがあります。
歯周病は歯と歯茎の隙間に歯垢が溜まることによって細菌が繁殖し、歯茎に炎症を引き起こす病気です。年齢を重ねるごとに発症率が上昇し、60代以降では半数以上の人が歯周病を患っているとされています。
歯周病を発症すると歯茎に炎症が生じるため、歯茎の腫れや出血などの症状が現れます。また、進行すると歯茎と歯の隙間の溝が深く広がっていき、最終的には歯を支える顎の骨にまで炎症が波及するため、歯のぐらつきが生じたり歯が抜け落ちたりするようになります。炎症が起きているものの歯茎に痛みを感じるケースは少なく、歯磨きなどの些細な刺激で出血を繰り返すのが特徴的な初期症状です。
口内炎は日常的に起こりうる病気のひとつですが、歯茎にできることもあります。白い膜で覆われたような潰瘍ができるのが特徴ですが、重症化すると粘膜のダメージや炎症がひどくなって出血を引き起こすことがあります。
主な原因は偏った食事や睡眠不足など好ましくない生活習慣によるものですが、なかにはヘルペスなどのウイルス性のもの、ベーチェット病などの自己免疫疾患によるものもあります。特に出血を伴うような重度な口内炎を繰り返す場合は、自己免疫疾患が背景にある可能性があるため注意が必要です。
歯肉がんは歯茎にできるがんです。発症頻度はそこまで高くありませんが、発見が遅れるとリンパ節転移などを起こします。初期症状としては歯茎に口内炎のような痛みを伴わないできものができ、徐々に膨らみを持って大きくなっていきます。また、大きくなったがんの表面組織は非常に脆いため、些細な刺激を受けただけで出血を引き起こすことがあります。
歯茎はデリケートな粘膜で形成されているため、出血が止まりにくくなる病気になると歯磨きをしたときや硬い物を噛んだときに出血を引き起こすことがあります。
血小板減少症は産生される血小板の数が少なかったり、血小板に対する自己抗体が形成されることなどで血小板が破壊されたりすることによって、出血を止めるために必要な血小板が足りない状態となる病気の総称です。
具体的には、白血病、播種性血管内凝固症候群、肝硬変、骨髄線維症、血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群などが挙げられます。また、病気以外にも薬の副作用や輸血の影響などで発症するケースもあるとされています。
このように血小板が減少することによる歯茎からの出血は、皮下出血や鼻血など他部位からの出血も伴いやすいのが特徴です。
出血を止めるには血小板だけでなく、さまざまな“凝固因子”と呼ばれるたんぱく質も必要です。血友病やフォンウィルブランド病などのようにこれらの凝固因子が生まれつき少ない病気を発症すると出血が止まりにくくなり、歯茎からの出血も起こしやすくなります。
歯茎からの出血は日常的によく見られる症状であるため、痛みや歯の異常などの症状を伴わない限り病院を受診する人は少ないのが現状です。しかし、上でも述べたように歯茎の出血は思わぬ病気が背景にあることもあるため、注意すべき症状のひとつでもあります。
特に、出血を繰り返したり、一度出血すると止まるのに時間がかかったりするケース、歯茎の腫れや痛み、歯のぐらつきなどの症状があるケース、他部位からの出血も起こしやすいケースなどは早めに受診するようにしましょう。
受診する診療科は、まずは一般的な歯科医院や口腔外科が適切です。歯科医院で治療しても症状が全く改善しない、あるいは、身に覚えのないあざができるなど他部位からの出血も伴うときは、かかりつけの内科や小児科などで相談するのがよいでしょう。必要に応じて血液内科など、より専門性の高い科へ紹介してもらうことが可能です。
受診した際には、いつから出血が起きやすくなっているのか、どのようなときに出血するか、歯茎や歯に出血以外の症状があるか、口の中以外の症状も伴うか、などについて詳しく医師に伝えるようにしましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。