耳からの出血:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典
名古屋市立大学医学部付属 東部医療センター 特任教授・高次ウイルス感染症センター長
村上 信五 先生【監修】
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会【監修】
耳の穴から鼓膜につながる外耳道と呼ばれる部位には、皮脂を分泌する皮脂腺と、いわゆる“耳あか”を産生する耳垢腺が多く分布しています。そのため、外耳道の中はさまざまな分泌物が多く産生されており、耳から排出されることも少なくありません。しかし、耳から出血がある場合は、思わぬ原因が潜んでいることもあるため注意が必要です。
これらの症状が見られた場合、原因としてどのようなことが考えられるでしょうか。
耳からの出血は、次のような好ましくない日常生活上の原因によって引き起こされることがあります。
頻回な耳掃除は、外耳道の皮膚に損傷を与え、自浄作用を低下させることがあります。その結果、外耳道炎や外耳道湿疹など出血の原因となる病気を引き起こすケースも少なくありません。
耳掃除の回数は2~4週間に1度ほどでよいとされています。また、耳掃除をするときは綿棒など皮膚に損傷を与える可能性が少ない柔らかいものを使用するようにしましょう。
外耳道の皮膚は非常にデリケートであるため、肌質に合わないヘアケア用品を使用しているとシャワーなどの際に耳の中に入り、かぶれなどを引き起こすことがあります。その結果、皮膚から膿や出血が生じることも考えられます。
頭皮や顔の皮膚などに付着して刺激があるものは、肌質に合わない場合があります。無理に使用を続けず、皮膚への刺激が少ない商品に換えるとよいでしょう。
日常生活上の好ましくない生活習慣を改善しても、耳からの出血が生じている場合は、今回ご紹介した思いもよらない病気や外傷が背景にある可能性があります。安易に考えず、できるだけ早く病院を受診するようにしましょう。
耳からの出血は、以下のような病気や外傷によって引き起こされることがあります。
耳の穴から鼓膜までの経路である外耳道の病気によって出血が生じると、耳の穴から流れ出ることがあります。原因となる病気や外傷は以下のとおりです。
外耳道を覆う皮膚に炎症が生じる病気です。外耳道には細菌やホコリなどを自然に排出して清潔な状態に保つ自浄作用があります。そのため、耳かきや綿棒などで過度に外耳道を掃除していると、自浄作用が弱まって細菌感染などを起こしやすくなるとされています。外耳道炎を発症すると、耳の痛みやかゆみ、耳垂れなどの症状が現れますが、中には損傷された部位に湿疹が生じることもあります。また、重度な炎症が生じたり、湿疹がつぶれたりすると皮膚が強い損傷を受け、出血を引き起こすケースも少なくありません。
外耳道を覆う皮膚は非常にデリケートなため、耳かきや爪などを使い強い力で耳掃除をすると、外耳道に傷がつくことがあります。外耳道内は耳垢などが存在するため傷が治りにくく、痛みや腫れなどが長引くことも少なくありません。また、出血が生じることもあります。
耳の穴からの出血は、鼓膜の奥の中耳や内耳の病気によって引き起こされることがあります。具体的には以下のような病気が原因として挙げられます。
鼓膜や中耳内に炎症が生じる病気です。通常、鼓膜の内側の中耳内は無菌状態となっていますが、中耳は耳管と呼ばれる細い管で喉とつながっているため、風邪をひいたときなどに耳管を通して細菌やウイルスが中耳内に侵入し、炎症(中耳炎)を引き起こすことがあるのです。
発症の早期段階では高熱や耳の痛みなどの症状が現れますが、鼓膜の炎症が強くなったり、中耳内に膿がたまったりして鼓膜が圧迫され穴が開くことがあります。その結果、中耳内にたまった液体が耳の穴から流れ出ることとなりますが、少量の出血が混ざることもあります。
中耳や内耳にもがんが発生することがあり、外耳道も含めて耳にできるがんのことを“聴器がん”と呼びます。耳垂れや耳の痛み、聴力低下、耳閉感などの症状を引き起こします。一方で、中耳や内耳に発生するがんは鼓膜を破壊しながら大きくなっていくことも多く、その場合には脆く出血しやすいがんの表面から出た血が外耳道を伝って耳の穴から排出されることがあります。
耳からの出血は耳以外の部位の外傷によって引き起こされることがあります。具体的には次のような外傷が挙げられますが、場合によっては命に関わることもあるため注意が必要です。
交通事故などで頭部を強く打ち、側頭骨など頭蓋骨の一部が骨折すると脳を覆っている硬膜が破綻することがあります。その場合、脳の表面を流れている“脳脊髄液”が中耳や外耳に漏れ出し、耳から脳脊髄液が排出され、少量の出血と混ざった液体が見られるようになります。
耳からの出血は、耳掃除のときに力を入れすぎることで比較的よく起こる症状ではあります。しかし、中には前述のような思わぬ原因が隠れていることも少なくありません。そのため、放置できない症状でもあります。
特に、耳の痛みや発熱などの症状を伴う場合、聴力の異常を感じた場合、血液とともに膿も出る場合、頭を打った後に症状が現れた場合などはできるだけ早めに病院を受診するようにしましょう。
まず初めに受診するのは耳鼻咽喉科ですが、乳幼児や小児の場合はかかりつけの小児科に相談するのも選択肢の1つです。また頭部外傷後に発症した場合などは、脳脊髄液が血液とともに排出されている可能性もあるため、夜間や休日を問わず救急科または脳神経外科を受診しましょう。
病院を受診する際には、いつから症状があるのか、どのような性状の耳だれが出るのか、耳の痛みや発熱などの随伴症状があるかについて詳しく医師に伝えるようにしましょう。