耳鳴り:医師が考える原因と対処法|症状辞典
九州大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 講師
村上 大輔 先生【監修】
耳鳴りとは、実際には音がないのにもかかわらず、「キーン」「ピー」「サー」といった高い音や「ゴー」「ジー」といった低い音が聞こえてしまう症状のことを指します。耳鳴りは大きな音を聞いた後や飛行機に乗ったときや水泳をした後などに、比較的多くの方が体験するものだといわれていますが、症状の内容によっては耳に関連する病気が原因で発生していることもあります。
このような症状がある場合、どのような原因が考えられるのでしょうか。
耳鳴りが起こるのには様々な原因が考えられますが、日常生活での行動や習慣によって引き起こされることもあります。
大きな音を聞き続けると、内耳にある蝸牛とよばれる聴覚を司る器官が損傷を受けてしまい、耳鳴りがしたり、音が聞こえにくくなったりします。
普段からヘッドホンなどで大音量の音楽を聴き続けることは控えるようにしましょう。また、静かな場所で耳を休ませることも大切です。
聞こえにくさが一週間以上続くようであれば、なるべく早めに医師に相談しましょう。
ストレスや疲労によって自律神経が乱れた結果、耳鳴りが起こることがあります。
まずはゆっくり休息できる時間を作りましょう。気分転換や十分な休息を取る事が大切です。また、悩みがある場合には信頼できる人などに相談してみるのもよいでしょう。
自律神経の乱れを引き起こす睡眠不足も、耳鳴りが起こる原因になります。
普段から規則正しい生活を送るようにしましょう。リラックスできる入浴や適度な運動は、睡眠の質を高める手段として効果的です。
自分でできる対処法を試しても改善が見られない場合には、思いもよらぬ原因が潜んでいるかもしれません。一度耳鼻科を受診しましょう。
耳鳴りは、加齢による生理的な耳の機能の低下や気圧など外部の状況によって引き起こされるものもありますが、中には病気が原因で発生していることもあります。
耳鳴りを起こす事のある耳の病気には、主に以下のようなものがあります。
突発性難聴とは、突然耳が聞こえにくくなる病気です。片耳だけに症状が出ることが多く、難聴のほか、めまいや耳鳴りを伴うことがあります。
原因は明らかになっていませんが、内耳(聴力と平衡覚を司る器官がある部分)のウイルス感染やストレス、内耳の血管のトラブルなどが指摘されています。
突発性難聴は治療しても後遺症が残ることがあるため、症状が出てからできるだけ早く、遅くとも2週間以内に治療を開始することが大切です。疑わしい症状が出た場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
急性低音障害型感音難聴とは、耳が詰まったような症状が現れたり、低音だけが聞こえにくくなったりする病気です。このような難聴の症状とともに、耳鳴りを伴うことがあります。
急性低音障害型感音難聴の症状はメニエール病や突発性難聴と似ていますが、メニエール病に見られるめまいが現れることはありません。また、突発性難聴では「突然聞こえなくなった」と感じることが多いのに比べると、「なんとなく聞こえが悪い」といった感じ方をすることも多いといわれています。
メニエール病とは、内耳にある内リンパ液の調整バランスが崩れ内リンパ腔という部分が拡大(内リンパ水腫)し、そのため平衡感覚に異常が生じ、吐き気やめまいを発作的に繰り返す病気です。耳鳴りや難聴、耳閉感といった症状が現れることもあります。
40代後半から50代前半に多く発症するといわれており、原因にはストレスや睡眠不足が関与しているともいわれていますが、はっきりと特定されていないのが現状です。
中耳炎とは中耳(鼓膜と内耳の中間部分)が風邪などでウイルスや細菌に感染し、耳の痛みや発熱の症状が出る病気です。また、耳鳴りや難聴などの症状を伴うことがあります。
子どもの耳管(中耳とのどを繋ぐ管)は太く短いためウイルスや細菌が中耳に移動し易く、中耳炎を発症する頻度が大人と比べて高くなります。子どもが耳に痛みや違和感を持っている様子が見られた場合、特に発熱や風邪の後では注意する必要があります。
耳管が狭く開きにくくなったり(耳管狭窄)、逆に開いたままになったりする(耳管開放)と以下のような病気で耳鳴りが発生することもあります。
耳管狭窄症とは風邪などで耳管(耳と喉をつなぐ管)が腫れて狭くなる病気です。これにより、ときに耳閉感や耳鳴りが起こります。
上咽頭がんやアデノイド(鼻の奥の扁桃腺)の腫れが耳管狭窄の原因となる場合もあります。
他方、耳管開放症とは、耳管狭窄症とは反対に、通常は閉じている耳管が開いたままになってしまう病気です。耳管が開いているため、自分の声や呼吸している音が不快に感じるほど耳に響いたり、耳鳴りやめまい、難聴を併発したりする場合もあります。
外リンパ瘻とは、内耳の一部に穴が開いて外リンパと呼ばれる液体が漏れ出し、めまいや耳鳴り、難聴の症状が出る病気です。このほか、外リンパが漏れたことで正常な平衡感覚が保てなくなるため、嘔吐や気持ち悪さの症状が現れることがあります。
内耳に穴が開く原因には、頭部をぶつけるなどの外傷やくしゃみ、トイレでのいきみ、強く鼻をかんだ、飛行機への搭乗の際に経験する急激な気圧の変化などが挙げられ、日常生活での何気ない行動が引き金になる可能性があります。
聴神経腫瘍とは、聴神経の周りあるシュワン細胞とよばれる細胞から発生する良性の腫瘍のことを指します。
腫瘍が聴神経や顔面神経などの近くで大きくなるため、顔面麻痺や難聴、めまい、耳鳴り、頭痛などの症状が出ますが、とくに耳鳴りや難聴など、耳に関連する症状は聴神経腫瘍の代表的な初期症状とされています。
耳鳴りが発生する原因には上で説明した通り、耳や神経に関連する病気が関わっていることがありますが、一方では以下のようなものが要因となっている場合もあります。
抗がん剤、抗菌薬、解熱剤や鎮痛薬、抗精神病薬など、病気の治療に使用される薬剤の副作用として耳鳴りや難聴が起こる事があります。
限られた病気に使うごく一部の薬で起こる事が多いとされていますが、もし初めて使う薬を飲んだ後などに症状が現れた場合、処方を受けた病院で相談しましょう。
高血圧も耳鳴りが起こる原因になり、加えて頭痛やめまいを伴うこともあります。自覚症状の少ない高血圧では、こういった些細な症状が発見の手がかりになる事もあります。
自律神経失調症とは、ストレスによって様々な臓器の活動を調整する自律神経の働きが乱れ、心身に多くの不快な症状が起こる病気です。
自律神経失調症が引き起こす症状は倦怠感や頭痛、動機、不眠、肩こり、めまい、精神的不安定など、非常に多岐にわたりますが、耳鳴りもそのうちの一つとされています。
突然の耳鳴りに加え、耳の聞こえづらさを自覚した場合にはすぐに受診しましょう。難聴以外にも、めまいや痛みなどなんらかの症状が伴う場合には早めに受診が必要です。
耳鳴りだけが長く続くような場合にも、一度耳鼻咽喉科で病気が隠れていないか確かめておくと安心です。受診科目はいずれも耳鼻科が適しています。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。