いまや国民病ともいわれる花粉症。くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどに毎年悩まされる人は少なくありません。そんな花粉症を、飲むだけで治せる薬があれば……。誰もが試してみたくなるのではないでしょうか。九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科講師の澤津橋基広先生に、現在研究開発中の「飲んで治す花粉症のカプセル剤」についてお話をうかがいました。
「飲めば花粉症が治る」。そんな画期的な花粉症の新しい治療薬を、いま研究開発しているところです。まだ治験段階ですが、免疫療法に多い365日投与するタイプのものではなく、服用期間を限定したカプセルタイプの飲む免疫療法です。これまでの皮下免疫療法や舌下免疫療法とは異なる腸管免疫療法で、飲むだけで症状を抑える効果が期待されています。
皮下免疫療法は確立された標準的な治療法ですが、副作用であるアナフィラキシーショックが問題となり、現在ではその発生頻度の低い舌下免疫療法が推奨されています。ただ、この舌下免疫療法には、症状が発現しなくても365日毎日行わなければならないという短所があり、その継続性が課題となっていました。
海外で行われた研究ですが、治療開始から1年後の継続率に関してオランダからの報告では、皮下免疫療法が80%だったのに対して、舌下免疫療法では38%という結果でした。日本国内でもスギ花粉症の場合の舌下免疫療法は365日を3年間、症状が現れないときにも行うわけですが、前述したオランダのデータによると、3年後の舌下免疫療法の治療の継続率はたった7%だったのです。
日本人は気質的に真面目なので、国内で研究を行えばオランダの報告よりは多少継続率は高くなると推測できますが、いずれにせよ「症状がなくても続けなければならない」という点が最大のネックとなっていました。ところが、現在我々が研究開発を進めている「カプセル型の飲む花粉症剤」は、花粉が飛散する少し前から飛び終わるまでの、およそ1か月から2ヶ月程度服用することで花粉症の症状を抑えることができるものです。3シーズンあるいは4シーズンほど服用すると、症状がなくなるという効果も期待されています。
腸管は免疫細胞が多数存在していることで知られています。特に腸管免疫の重要な役割を担っているのがTレグと呼ばれる制御性のT細胞です。少量の抗原が体内に入ると過敏症を起こしますが、大量の抗原を大腸に入れると「免疫寛容(めんえきかんよう)」といって過敏症を起こさない作用が働くのです。この作用を利用したのが腸管免疫療法で、舌下免疫療法で行っている抗原量(維持量)と比較すると、およそ36~174倍にもなるのです。
腸管免疫療法は、投与期間も限られているため、薬の服用頻度を減らせるという大きなメリットがあるほか、副作用に関しても、他の治療法と比べて有害事象の発生率は低く、発生したとしてもグレード1といって経過観察で治る下痢などの軽い消化器症状を起こす程度です。
現在、九州大学病院が中心となって治験を進行中ですが、製品化までには10年ほどかかると予測しています。花粉症ということで治験を年に1度しか実施することができないことや、薬にするのかサプリメントにするのか、薬価の問題などもありまだ方向性が定まっていないことなど、道のりは遠いのが現状です。
福岡山王病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長、福岡国際医療福祉大学 教授、九州大学 医学部 臨床教授
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