インタビュー

花粉症とは。花粉症の対策には何があるのか? ヨーグルトやマスクの効果から薬物治療まで

花粉症とは。花粉症の対策には何があるのか? ヨーグルトやマスクの効果から薬物治療まで
村上 大輔 先生

九州大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 講師

村上 大輔 先生

この記事の最終更新は2016年06月15日です。

毎年流行期になると多くの方が悩まされる病気「花粉症」。その患者数は増加しており、現在非常に注目を集めているといえます。今回は花粉症の発症メカニズムから様々な花粉症対策の根拠、医学的な治療法の解説に至るまで、済生会福岡総合病院耳鼻咽喉科部長の村上大輔先生にお話しいただきました。

花粉症とは、スギやヒノキ、イネ、ヨモギ、カモガヤ、ブタクサ、シラカンバなどの植物の花粉が原因となってアレルギー反応を起こす季節性アレルギー性鼻炎の総称です。

一般的には、それぞれの花粉が毎年一定の時期に飛散します。呼吸したり外出したりすることで、花粉が鼻や気管、肺の粘膜などに付着すると、体の持つ免疫反応が花粉を異物と認識して抗体を作り出すことがあります。

抗体ができてすぐに異常は現れませんが、抗体が体内で作られてから再び花粉が体内に侵入し、数年間にわたって繰り返されると、抗体が入ってきた花粉をとらえて過剰反応を起こしてしまうことがあります。

花粉症発症の流れ

通常、花粉は異物としてはみなされません。しかし、このようにして感作(かんさ)が成立した場合はアレルギー反応が起こり、一般的な花粉症の症状であるくしゃみ、鼻水、鼻づまりなどがあらわれます。

厚生労働省ガイドライン『花粉症の正しい知識と治療・セルフケア』より

スギ花粉は、毎年1月を過ぎたころから飛散し始めます。3月以降になると、九州ではヒノキ花粉が多くなりはじめ、さらに5月~6月にかけてイネ科の花粉量が増加し、秋頃にはキク科の花粉が飛散します。

どの花粉が多く飛散するのかは地域によって異なります。たとえば九州の場合、スギ花粉よりもヒノキ花粉のほうが多い傾向にあり、関東の場合はスギ花粉のほうが多く飛散しています。

また、感作は花粉が飛ぶ範囲にも関係があります。スギ花粉の場合は、非常に遠方の地域まで飛んでいくため、都市部に住んでいたとしても山のほうから花粉が運ばれてきて感作する可能性が高いといえます。一方、イネ科の花粉はスギ花粉ほど広範囲に飛散しないので、都市部ではイネ科の花粉症の方は少ないかもしれません。

基本的に、花粉症の症状は異物を排除する反応の表れであり、くしゃみや鼻水、鼻づまり、鼻のかゆみなどが生じます。

その他の症状としては、目の症状や頭痛、発熱、皮膚炎などが挙げられますが、これらの症状が現れるかどうかはその方の体質によって異なります。

例えば皮膚表面が荒れるという方はいらっしゃいますが、皮膚症状は花粉症の方全員に起きるものではありません。皮膚症状が生じる方の場合、ハウスダストのアレルギーやアトピーなど、他のアレルギーを持っていることが多いといえます。

重度の花粉症の場合、微熱が出ることがあります。

スギ花粉の飛散時期は、インフルエンザの流行期と重なります。花粉症で鼻症状が強ければどうしても口呼吸になってしまいますから、口からウイルスが侵入しやすくなり、その結果風邪に罹患しやすくなります。

また、鼻づまりの症状が強い方は鼻の奥の粘膜が腫れて副鼻腔の換気が滞り、頭痛が起きる場合もあります。

副鼻腔の位置。鼻がつまりこの部分の換気が滞ることで頭痛が生じる

年齢やその年の花粉の飛散量によって症状が異なる場合があります。患者さんの中には、花粉症を発症した年に軽症でも年々重症化する方がいらっしゃいます。一方、歳を重ねるにつれて症状が軽くなる方もいらっしゃいます。

勿論、毎年の花粉飛散量によっても症状の程度は変化します。通常、飛散する花粉の量が多かったり、花粉への暴露時間が長かったりした場合に症状は酷くなります。

花粉症は、血液検査でスギ花粉の抗体価を調べることで診断できます。プリックテストという、皮膚にごくわずかな傷をつけてアレルゲンを落とし、その反応を診る検査も行われることがありますが、花粉症の場合は臨床症状および抗体検査で確定診断がされることがほとんどです。

近年、「ヨーグルトの摂取で花粉症が改善できる」という情報が広まってきています。

アレルギー分野でヨーグルトと花粉症の関係が解明されたわけではありませんが、腸内細菌が変化することで症状が改善する可能性はあると考えられます。実際、腸内細菌という分野は他の医療関係者の関心も高い分野であり、消化器科における炎症性腸疾患患者への正常者からの糞便移植(便細菌叢移植)療法といった臨床試験も開始されています。

しかしどれ程の量のヨーグルトを食べれば効果が出るかはっきりとは分かっていませんし、ヨーグルトに含まれる菌が1000兆個もの細菌を保持する腸内にきちんと生着して、腸内環境を整える作用をもたらすかについても現在は不明です。

最近では、その方に不足している腸内細菌を探して発見し、不足している菌を集中投与したほうが、腸内細菌叢の生着率が上がると考えられてきています。

2016年現在から数十年経過して、個人の体質によって不足している菌の種類を選別し、かつ菌を確実に増やす方法が確立された場合、不足している菌を摂取することでアレルギー症状や腸管内の炎症を改善したり、生活習慣病の治療ができるようになったりする可能性もあるでしょう。腸内細菌による花粉症の対策において不明な点はまだ多く残されているものの、今後に期待できるといえます。

温めたお茶を飲むことはのどや鼻の加湿や保温、風邪の予防に役立つので、症状自体は緩和されるものと考えます。またお茶に含まれるポリフェノール自体が花粉症の症状を抑制する可能性もありますが、お茶の種類によって含まれるポリフェノールの種類や量は異なっています。

有効な成分が含まれるお茶ほど効果が高い可能性はありますが、すぐに症状が緩和されるものではなく、少なくとも花粉飛散前から飲用し続ける必要があります。

お茶以外の飲食物(野菜や果物など)にも抗アレルギー効果のある様々なポリフェノールが含まれているので、特定の食べ物や飲み物に偏らず、バランスのとれた食事をすることが何より大切です。

マスクと眼鏡の着用で、目の粘膜や鼻の粘膜から入る量を減らし、抗原回避が期待できます。これは厚生労働省のガイドラインにも掲載されている効果的なセルフケアです。

顔とマスクの間に隙間ができているとそこから花粉が侵入してくるため、マスク着用の際は花粉症用に作られている密着型のマスクを使いましょう。

*参考リンク:厚生労働省ガイドライン『花粉症の正しい知識と治療・セルフケア』

ワセリンを鼻に塗布することによって、体内に侵入する花粉の量を物理的に減らすことができます。

ただし、ご自身で塗布しようとしても鼻の入り口から1㎝周辺への塗布が限界です。鼻の中は広いため、入り口のみにワセリンの塗布を行ってどれほどの効果があるのかははっきりと分かっていません。

何かを行えば劇的に改善するものではありませんが、毎年症状がひどい方の場合は、花粉が飛散し始める前(1週間程度)から薬を飲んでおくと症状が抑えられる可能性があります。また、花粉が飛び始める前にレーザー治療を行って鼻粘膜を焼くのも一つの手段です。レーザー治療は保険が適応されており、アレルギー性鼻炎の治療としても一般的に行われていますので、症状がひどい方は検討してもよいでしょう。

花粉症の治療で現在主流な薬は、抗ヒスタミン剤および鼻噴霧用ステロイド薬の2種類です。また、鼻閉症状が目立つ場合は鼻閉改善効果の高い抗ロイコトリエン薬を併用したり、プソイドエフェドリン塩酸塩含有の抗ヒスタミン薬が処方されたりします。あまりにも症状が強い方の場合、経口ステロイドを少量、短期間服用する場合もあります。

重症の方では、抗ヒスタミン剤、鼻噴霧用ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬の3剤あるいはプソイドエフェドリン塩酸塩含有の抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬を併用して治療します。

薬の種類

剤型

抗ヒスタミン薬

経口薬(飲み薬)
点鼻薬[鼻噴霧用]
点眼薬

抗ロイコトリエン薬

経口薬(飲み薬)

ステロイド薬

経口薬(飲み薬)
点鼻薬[鼻噴霧用]
点眼薬

花粉症の治療では、免疫療法が行われる場合もあります。免疫療法とは、アレルギーの原因物質となるアレルゲンを少量ずつ体内に吸収させることで、アレルギー反応を弱めていく治療法です。薬物療法と並び、効果的な花粉症の治療法と考えられています。

免疫療法は、症状が非常に重く、薬を飲んでも改善されない方に推奨されますが、治療に時間がかかるという難点もあります。

免疫療法には舌下免疫療法、皮下免疫療法、そして経口免疫療法の3つがあります。今までは皮下免疫療法が主流でしたが、2014年よりスギ花粉症に対する舌下免疫療法が保険適応となり、安全性がより高い舌下免疫療法へ徐々に移行しています。

経口免疫は現時点で実医療化されている施設はありませんが、食物アレルギーに対する有効性が期待されており、現在盛んに研究が行われている最中です。(詳細は記事2『スギ花粉症の最新治療研究―経口免疫療法の確立に向けて』

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