「大きな病気は患っておらず、健康体であるにもかかわらず、鼻血がよく出る」という方は、子どもから大人に至るまで少なくはありません。また、お子さんが頻繁に鼻血を出すため、背後に何か病気が潜んでいるのではないかと不安を抱いている保護者の方も多いものです。高齢者にも鼻血が出やすいという声がよく聞かれます。
鼻血の原因には、一体どのようなものがあるのでしょうか。鼻血の引き金になるといわれることの多い「チョコレート」や「ストレス」、「アルコール」などは、実際に鼻血と関係しているのでしょうか。鼻血症状の原因について、国際医療福祉大学成田病院 救急科部長の志賀隆先生にお話しいただきました。
鼻血が頻繁に出る主な原因は、「外傷」です。ほとんどの鼻血は自分の指で鼻腔をいじる(鼻をほじる)といった行為によるものであり、これは海外の論文などでも明示されています。
外傷以外の鼻血の原因には、「粘膜の障害」や「乾燥」があります。冬期など、肌が乾燥する時期は鼻粘膜も乾燥しやすく、出血しやすい状態になります。
上記は比較的若い方の鼻血の原因ですが、高齢の方に目を移すと、NSAIDsなどの「鎮痛剤」を服用していることも原因となるといわれています。
具体的には、アスピリンなどの抗血小板薬やワルファリンカリウムなどの抗凝固薬などが血液や血管に作用するものとして挙げられます。「血液をサラサラにする薬」としてご存知の方も多いでしょう。
ただし、これら解熱鎮痛剤の服用が鼻血の原因となっている割合は全体でみると極めて少なく、基本的には先に述べた鼻をいじる癖などによる外傷が原因の大半を占めています。
小児の鼻血の原因として多くみられるのは、「アレルギー性鼻炎」があり「鼻いじり」をしてしまうというものです。
アレルギー性鼻炎の場合は鼻の内側に炎症があり、鼻粘膜も荒れているため、血管が破れやすい状態になっているのです。
そのため、鼻を触るなどの刺激で出血してしまうものと考えられます。
小児の鼻血は外傷(粘膜への刺激)やアレルギー性鼻炎のほか、上気道炎の後に好発するといわれています。
上気道炎とは、いわゆる「かぜ症候群」のことであり、成長に従い種々のウイルスに対して免疫がつくため、罹患する頻度は減っていきます。
推測ではありますが、上気道炎の後の鼻血が小児のみに限定されて語られる理由は、成長とともに種々のウイルスに対し免疫がつくことに関係しているのかもしれません。
一般的に、高血圧症の方は鼻血が出やすくなるといわれていますが、「血圧が高いから鼻血が出る」というわけではありません。
心臓から出る太い動脈は、全身の末端で非常に細い毛細血管となり、再び集まり静脈になります。この動脈と静脈の間にある細い毛細血管が脆くなることが、出血しやすくなる原因であると考えられています。
鼻血が出ると訴えて来られる高齢の患者さんのほとんどは、血圧が高くなっています。ここで注視したいことは、一般的な鼻血は静脈から出るものであり、「血圧」は静脈ではなく動脈の圧を計測したものであるため、直接的な関係はないということです。
これらのことを考え合わせると、血圧が高いから鼻血が出るのではなく、既に脆くなった毛細血管ならびに静脈から血が出る不快感により、その患者さんの血圧が上がっている可能性のほうが高いといえます。
ただし、血管が脆くなる理由には、加齢のほか常に血圧が高いことも挙げられるため、間接的には高血圧も鼻血の誘因になると考えることもできます。
ここまでに述べた外傷や乾燥による鼻血とは、健康な人でも出るものであり、何らかの疾患とは関与していない鼻血です。
これとは別に、非常に高頻度で鼻血が出る遺伝的疾患、「オスラー病」(別名「遺伝性末梢血管拡張症」)を持つ人がおり、この場合は鼻血の原因も多岐にわたるものとなります。
オスラー病は、その名の通り特殊な遺伝子を持つことによる病気であり、主症状は「繰り返す鼻血など」をはじめとする出血症状です。
日本では5000人~8000人に1人が遺伝子を持っていると報告されていますが、全ての方が発病するわけではなく、現時点での推定患者数は10,000人ほどではないかといわれています。
海外では、オスラー病の遺伝子を持っている人を対象に、反復する鼻血や片頭痛といった症状の誘因を調べた論文が発表されています。それによると、鼻血と片頭痛を引き起こす誘因として、以下のものが報告されています。
●月経前
●睡眠不足
●ストレス
●カフェイン
●チーズ
●アルコール
●チョコレート
ですから、一般的にいわれる「ストレスが鼻血の原因になる」ということは、オスラー病の患者さんに限定した場合のみ、科学的根拠を持って正しいといえます。
一方、健康な人(オスラー病ではない人)においては、鼻血とストレスの因果関係を示す根拠となるデータは現在のところ限られるため、無関係である可能性もあります。
しかしながら、非常に頻繁に鼻血が出るようであれば、元々毛細血管が弱い体質であることも考えられます。オスラー病という病気の本体もまた、「毛細血管が弱いこと」であり、出血症状などはこれが原因で起こるものです。
このような理由から、たとえオスラー病でない方であっても、毛細血管が弱い可能性がある方(鼻血がよく出る方)は、オスラー病の方と同様、ストレスをため込むような生活は避けたほうがよいでしょう。
(外部サイトPubMed:Relationships between epistaxis, migraines, and triggers in hereditary hemorrhagic telangiectasia. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24458873)
また、上記論文とは別に、オスラー病の方を対象とし、「何を食べたときに鼻血が出やすいか」などを調査してまとめた研究も存在します。
こちらの報告によると、最も回答が多かったものはアルコール、続いてスパイス、そのほかにはサリチル酸を含む食品(具体的には、赤ワイン、スパイス、チョコレート、コーヒー、一部の果物)や血小板の機能を低下させる食品(ニンニク、ショウガ、朝鮮人参、銀杏、ビタミンE15)、そしてオメガ3(脂身の多い魚、鮭)などが挙げられています。
(外部サイト:Lifestyle and dietary influences on nosebleed severity in hereditary hemorrhagic telangiectasia. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23404156 )
現在、インターネット上では「チョコレートと鼻血は無関係である」と結論付ける情報が多々見受けられますが、オスラー病の人に限定した場合にかぎり、因果関係はあるというわけです。
もちろん、健康な人であれば食べ物と鼻血の関係を気にする必要はありませんし、食べてはいけないものもありません。
ただし、前項で述べた「ストレス」と同様に、鼻血がよく出る場合は末梢の毛細血管が弱い可能性も考えられるため、あえて上述した食べ物を過剰摂取することは控えたほうがよいでしょう。
頭痛と鼻血の関係についても、海外で行われた調査研究がありますので、概要と結論を紹介します。
この研究では、オスラー病の方に限定せず、対象者を「片頭痛で病院に来院した平均11.5歳の子ども」としています。報告によると、片頭痛を訴え病院に来た728人の子どもうち、鼻血症状がみられたのはわずか1.1%であったと示されています。
また、結論として、片頭痛に鼻血を伴う頻度は非常に稀であり、なぜ1.1%に鼻血症状が現れたのかは未解明であるとされています。
(外部サイト:Migraine and nosebleed in children case series and literature review. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25240603 )
ここまでにお話ししてきた鼻血とは、「キーゼルバッハ部位」という、鼻の入り口付近の静脈が集中する部分からの出血のことを指します。
キーゼルバッハ部位は鼻中隔の1㎝ほど奥の部分であり粘膜が非常に薄くなっているため、自らの指などで触れることにより傷つきやすくなっているのです。鼻中隔に異常がある場合も、鼻血が出やすくなるといわれています。
キーゼルバッハ部位からの出血であれば、ほとんどの鼻血はご自身で適切に処置することで止まります。(詳しくは記事2「鼻血が止まらないときに自分でできる対処法と病院で行う鼻血の治療」をご覧ください)
ただし、鼻血の中には頻度は少ないものの、キーゼルバッハ部位以外からの危険な出血もあります。
1.副鼻腔の上顎洞(じょうがくどう)からの出血
2.頭蓋底骨折に伴う出血
3.蝶口蓋動脈(ちょうこうがいどうみゃく)からの出血(動脈性の出血)
上記3つのいずれかに該当する場合は、病院で医師による処置と治療を受けることが必須となります。特に(3)蝶口蓋動脈から出血している場合は、私たち救急医の処置でも止血することが難しく、専門家である耳鼻科での止血処置が必要になります。
キーゼルバッハ部位は鼻の前方ですが、これら鼻の後部から出血する主な原因は、腫瘍、外傷、頭蓋底骨折の三つです。
鼻血を伴う腫瘍には、たとえば思春期の男性に多い「上咽頭繊維腫」があります。上咽頭繊維腫による鼻血症状の特徴は、大出血であったり、頻繁に出血を繰り返すことです。
また、頭蓋底骨折の場合は、鼻だけでなく耳や口からも水のようにサラサラとした出血がみられることがあります。これは、脳脊髄液が血液と一緒に漏れ出ているからです。症状は同じ「鼻血」であっても、頭蓋底骨折は脳神経外科で治療を行う疾患(怪我)です。
私たち救急医の役割は、鼻血で来られた患者さんの処置を行うことだけでなく、原因を見極め、適切な診療科へ患者さんを送ることも含まれます。
次の記事「鼻血が止まらないときに自分でできる対処法と病院で行う鼻血の治療」では、鼻血が止まらない場合の止血法や、鼻からの出血で救急車を呼ぶべき緊急時の見極め方についてお話しします。
止血中にしてはいけない2つのことは「①上を向いてはならない」ことと「②“浮気”してはならない」こと。また体を冷やすことも血液が固まりにくくなるためおすすめできません。
鼻血症状を伴う疾患には、腫瘍や頭蓋底骨折など重篤なものもあります。以下に該当する場合は、危険な病気である可能性もあるため、すぐに病院を受診しましょう。