インタビュー

「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」の原因は何か?

「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」の原因は何か?
片岡 仁美 先生

京都大学医学研究科 医学教育・国際化推進センター 教授

片岡 仁美 先生

この記事の最終更新は2016年04月01日です。

「ちょっとした動作をしただけなのに息が苦しくなる」、「呼吸をするのがつらくて夜眠れない」など呼吸困難(息切れ・息苦しさ)を感じたことがある方はいらっしゃいますでしょうか。呼吸困難には様々な症状がありますが、その原因も多岐に渡ります。呼吸困難にはどのような原因があるのか、総合診療医である片岡仁美先生に教えてもらいました。

呼吸困難・息苦しさの原因は、二つに大別されます。「呼吸器」に原因がある呼吸困難と「循環器」に原因がある呼吸困難です。「呼吸器」と「循環器」の二つで、呼吸困難の原因の約8割を占めると言われています。

呼吸とは、肺を通じて酸素と二酸化炭素のガス交換を行って、心臓によって取り込まれた酸素を全身に送り届ける活動のことを呼びます。前者のガス交換に問題がある場合は「呼吸器」を原因とした呼吸困難ですし、後者の酸素を全身に送り届けることに問題がある場合は、「循環器」を原因とした呼吸困難です。

「呼吸器」といっても肺のことだけをさすわけではありません。大気中の酸素は、口から「気管→気管支→肺」と運ばれていくので、気管や気管支も「呼吸器」に含まれます。また広い概念では、空気を吸い込んだり吐いたりするために、肺を入れるスペースである胸郭(きょうかく)を広げたり縮めたりする筋肉(呼吸筋と呼びます)のことも「呼吸器」に含める場合があります。

呼吸器を原因とする呼吸困難の代表例としては以下のようなものがあげられます。

・気道内異物(もちをのどにつまらせたなど)
COPD慢性閉塞性肺疾患
・ぜんそく
肺炎
胸膜炎(肺の表面をおおう胸膜の炎症)

一方で、循環器を原因とする呼吸困難の代表例としては以下のようなものがあげられます。

心不全
弁膜症(心臓の弁に異常がある病気)
先天性心疾患
虚血性心疾患心筋梗塞狭心症など)

呼吸困難・息苦しさの原因の約8割は、循環器もしくは呼吸器にあるといわれていますが、残りの2割には下記のようなものが挙げられます。

・血液の病気
貧血」が呼吸困難を起こす代表的な病気です。肺から取り込まれた酸素を、心臓を通じて全身に運んでいきますが、全身に運ぶときの乗り物が赤血球です。貧血は、酸素がのった赤血球が不足している状態なので、全身に酸素が十分送り届けられずに呼吸困難になります。

・ホルモンの病気
甲状腺機能亢進症(―こうしんしょう)」が呼吸困難を起こす代表的な病気です。甲状腺ホルモンは心拍数をあげるような働きをします。甲状腺機能亢進症の場合は、甲状腺ホルモンが過剰であり、心拍数が通常よりも上がった状態になります。心拍数が最適な状態よりもあがりすぎてしまうため、心臓がポンプの機能を十分に果たすことが出来ず、全身に必要な酸素をとどけることが出来ずに呼吸困難になってしまいます。

・神経・筋肉の病気
筋ジストロフィー」「重症筋無力症」「ALS(筋委縮性側索硬化症)」などが呼吸困難を起こす代表的な病気です。呼吸をするためには、胸郭を広げたり縮めたりすることで、肺を伸縮させて、空気の出し入れをおこなっています。この運動をつかさどる筋肉のことを呼吸筋と呼んでいますが、神経や筋肉の病気があり、呼吸筋の運動が障害された場合には、肺の膨張・縮小が妨げられてしまい、呼吸困難の原因になります。

・それ以外の病気
それ以外によくみられる病気としては、「過換気症候群」「更年期障害」などがあげられます。

「過換気症候群」とは、急な不安感が引き金となって、呼吸が深く、早くなってしまう状態をさします。換気をしすぎることによって、血液がアルカリ性になって、呼吸困難感やしびれなど様々な症状を起こします。呼吸が深く、早すぎることが原因なので、出来るだけ腹式呼吸でゆっくりと深呼吸をさせるというのが治療法になります。口に紙袋などをかぶせる「ペーパーバッグ法」というのが一般的によく知られていますが、医学的には望ましくないとされており、注意が必要です。

「更年期障害」の場合でも、胸がつまったであるとか、息苦しいと訴える患者さんが多いと実感しています。

自律神経失調症」という病名は臨床的に広く用いられていますが、定義や診断基準に明確なものはありません。概念としては、全身にわたる多彩な自律神経症状があっても器質性異常所見に乏しく、自律神経の機能異常が推定される場合で、自律神経不全は含まれません。何らかの心因や心理・社会的ストレスにより、生体の恒常性が乱れた結果、自律神経系が不調となり症状を呈している状態とされます。しかし、国際的には疾患名であるというよりも「神経症やうつ病に付随する各種症状を総称したもの」という理解が一般的です。

医学的に自律神経が障害されて生じる病気はたしかにあります。たとえば、起立性低血圧(寝ていたあとに急に立ち上がったときに、血圧の低下が生じること)の原因の一つとして自律神経の障害があります。ただしその診断をするためには、医学的、客観的に自律神経が障害されているのかを、確かめる必要があります。

一方で、一般的に「自律神経失調症」と呼ばれているのは、医学的、客観的に証明される自律神経の障害とは別概念のように思います。呼吸困難を生じたときに、色々調べてみても、「循環器」でも「呼吸器」の問題でもない、どこにも異常がみあたらなかったときに、「自律神経失調症」という説明がなされることも多いのではないでしょうか。自律神経失調症とされる場合には「不安、うつ病に伴う自覚症状」としての症状を表していることもあるので、その際はそちらに対するアプローチが必要でしょう。

記事1:「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」とはどのような状態? 呼吸が苦しくなった時、何科を受診すればよい?
記事2:「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」の原因は何か?
記事3:すぐに病院に行かなければならない、緊急性の高い呼吸困難・息切れとはどのようなものか?
記事4:呼吸困難・息切れはどのように診断するのでしょうか?

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  • 京都大学医学研究科 医学教育・国際化推進センター 教授

    片岡 仁美 先生

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