沖縄県那覇市与儀地区に所在する沖縄赤十字病院は、那覇市の中心地に位置しており、交通の便もよく、また警察署や消防署、保健所、看護大学、県立図書館等多くの公共施設と隣接した環境にあります。
沖縄赤十字病院が医療機関として誕生したのは1952年のことで、当時は琉球臨時厚生協会経営による「厚生協会診療所」として設立されました。その後、1972年に沖縄県の日本復帰によって運営母体が沖縄赤十字社から日本赤十字社へと移管され日本赤十字社沖縄県支部が発足して、現在の「沖縄赤十字病院」としてスタートしました。2010年には現在地の那覇市与儀地区へ新築移転しました。
今回は、時代の移り変わりに応じながら病院づくりに奮励している同院の院長である大嶺靖先生にお話を伺いました。
沖縄赤十字病院の前身である厚生協会診療所が開設された当時、沖縄県はアメリカ政府管理下にありました。沖縄の時代変遷とともに歩みを続けてきた当院は、沖縄地域特有の救急医療を提供するなど、さまざまな特色を持っています。赤十字病院としての使命を果たしながら、病院機能を拡大させ、2018年7月現在では、診療科25科、一般病床数302床、緩和ケア病棟26床を有し、71名の医師が在籍しています。
新築移転後は、地域医療支援病院や、沖縄DMAT病院、地域災害拠点病院の指定を受けるなどして、年々地域に根ざした病院機能の拡充を進めています。
地域の健康を支える存在として、医療を提供しています。なかでも当院が強みとしている分野が、周産期医療、がん治療、てんかんに対する外科治療です。
当院の産婦人科及び小児科は、沖縄県内における周産期母子医療センターとして、出産前後の母体と新生児に対して医療を提供してきました。また、NICU(新生児集中治療室)と呼ばれる未熟児および新生児専用の集中治療室や、GCU(新生児回復室)NICUで急性期を過ごした新生児が回復期または慢性期となり退院までの時間を過ごす場所も保有しています。リスクの高い分娩にも対応しているため、、近隣の離島のみでなく医療圏域外からも当院での出産を希望される方も多いです。
周産期医療を手がける医療機関が減少しつつあるなか、当院は沖縄の「お産」を支える柱であり続けたいと考えています。
NICUでは多彩な取り組みをしています。
まず、母乳栄養の推進をしており、赤ちゃんが入院中であっても助産師と連携して母乳育児の援助をしています。次に、母子の心身に好影響を与えるとされるカンガルーケアを導入しています。カンガルーケアとは、出産を終えたお母さんが赤ちゃんを直接抱き触れ合うことです。赤ちゃんの五感への刺激や成長発達、心身の安定化のほか、お母さんの母乳分泌や母子の愛着形成にも効果があるといわれています。当院では、お父さんもカンガルーケアを行えます。またご両親に限って24時間赤ちゃんとの面会が可能です。
ご家族が笑顔になれるよう、当院の職員が全力でサポートしています。
正期産の通常分娩以外にも、切迫流産、高齢妊娠、双子や三つ子など多胎妊娠、妊娠糖尿病などの合併症を発症しているなど、通常よりリスクの高い妊婦さんも受け入れています。また、異常分娩といわれる28週以前の早産や胎児発育不全、前置胎盤などにも対応しています。里帰り出産も受け入れています。
婦人科では、子宮筋腫や卵巣腫瘍、子宮頸部上皮内がん、子宮体がん等を対象疾患としています。
良性卵巣嚢腫や子宮筋腫の場合は、患者さんの体に負担が少ない腹腔鏡手術、もしくは開腹手術で治療を行います。骨盤臓器脱では、従来通りの手術に加えて、TVM手術(骨盤臓器脱メッシュ手術)も取り入れているほか、手術を行わない治療方法もありますので、詳しくは医師にご相談ください。
当院ではいずれの診療科においてもさまざまな症例がありますが、中でも特に多いのは、がんです。新病院移転時に放射線治療装置も設置して、無菌治療室、外来化学治療室の設置などのハード面を充実させました。
各診療科では、胃がん、大腸がん、肺がん、血液のがんなどの多くの症例に対応しています。
これらに対して、各種薬物治療、放射線治療のほか、外科的治療では通常の開腹手術をはじめ腹腔鏡や胸腔鏡手術といった、なるべく体に負担をかけない手術もご提案しています。
また、日本消化器内視鏡学会の認定を受けた指導医が中心となって、内視鏡治療も積極的に行っています。今後は、高齢化とともにがん患者さんがさらに増加することが見込まれるため、当院が提供できる治療の選択肢の幅が広げられるよう、がん治療の強化を図っています。
地域で緩和ケアを行っている医療機関が少ないため、この地域の末期がんの患者さんは一般病棟などで最期を迎えることが多いです。高齢化やがん患者増加を受け10年先を考え、緩和ケア病棟を導入しました。
市街地にあるため交通の便がよく一貫したがん診療ができることから、当院が緩和ケアを手がける意義は大きいと考えています。
沖縄県内でてんかん診療を行える医療機関としても知られています。てんかんの手術・ビデオ脳波検査を、2013年から本格的に開始しました。2018年4月には、沖縄県てんかん診療拠点機関として県から指定を受けています。
てんかんの治療は服薬による内科療法が中心です。しかし、効果があらわれにくい場合や薬剤抵抗性難治てんかんなどの場合は、手術をすることもあります。
当院は、てんかんの可能性がある方に対する検査や診断から治療までを一貫して行えるのみでなく、患者さんご本人やご家族の不安や悩みなども受け付けるほか、行政による支援もご紹介しています。また、地域に対して病気を正しく理解してもらうための啓発活動や講演会なども、積極的に開催しています。てんかん診療やサポートについて、いつでもご相談ください。
赤十字病院の使命として、災害救護活動に携わってきました。
災害時には地域医療の中心となる準備を怠らないようDMATに参加できる医師が在籍しているほか、災害時を想定した訓練も定期的に行っています。それに加え、海外救護活動も行っており、これまで南スーダン共和国やアフガニスタン、イエメンへの看護師派遣実績があります。
海に囲まれ数々の離島で成り立っている沖縄県は、独特の地域性を持っています。また沖縄近海は、アジア圏内において重要な海上交通路となっています。そのため、当院では海上で病気や怪我によって苦しむ方たちの救助・救援活動を行うことが少なくありません。
海上で困っている方々を助けることを「洋上救急」と呼びます。当院では、これらの医療事業の発足当初より、海上保安庁の協力のもと「洋上救援」を行っています。また、自衛隊の協力のもとに行われている、離島における救急患者搬送事業(ヘリ添業務)にも積極的に参加し、公的にも高く評価されてきました。
これからますます高齢社会が進んで高齢者の数が多くなれば、骨折や心臓疾患を持つ患者さんも増加することが見込まれます。そのためにも今後は、整形外科疾患と循環器疾患に対応できる体制基盤を確立させたいと考えています。
内科分野は以前に比べて細分化が進んでいるため、それぞれの診療科に人員がいなければ十分な医療を提供できません。今後は、内科各分野の医師確保にも積極的に取り組んでいきます。
ホームページなどでの募集をかけ始めており、また研修医確保にも積極的に取り組んでいるため、少しずつではありますが研修医の数も増えてきています。
2013年に、地域医療支援病院の承認を受けました。地域医療支援病院とは、地域完結型医療を推進する病院のことで、地域完結型医療とは患者さんがおすまいの地域の中で一貫して医療を受けられるよう診療所やクリニック、当院のような中核病院がそれぞれ役割を分担し、地域の医療機関全体が1つの病院のように機能する医療です。
今後も、地域の医療機関と相互に協力しながら患者さんそれぞれに適した医療をご提供できるよう、地域医療支援病院としての機能と役割を果たしていきたいと考えます。
私が医師になった時代と比べると働き方が大きく変化したことを受け、当院では職員全体のワークライフバランスを重視した環境整備に力を入れています。
特に研修医に対しては、若手医師の協力もあり、当直業務も個々の状況に合わせて調整するなどしているため、働きやすい場を提供できているのではないかと考えています。こうした環境整備が実を結び、当院での研修を希望される研修医は年々増えています。引き続き、研修医や若手医師が働きたいと思える魅力ある施設にしていきたいと思っています。
また、病院のほどよい規模やさまざまな症例を診られることも、当院のアピールポイントです。近年では、女性医師の増加も目立つようになりました。職員一人ひとりに合わせた働き方を提供できるよう、今後も工夫や改善に取り組んでいきます。
専門性に基づく細分化が主流ですが、私はお会いした医学生や研修医の先生には、『ある程度の期間は「医療のなんでも屋さん」として、できる限りさまざまな診療を経験してください。』とお願いしています。
スペシャリストとして技術を磨くことは大切です。しかし、患者さんが高齢になるほど複数の病気を抱えることが増えるため、実際の臨床現場では全身を診る総合診療のスキルが重要になります。また総合診療を学ぶことにより、自身の引き出しが増えたり、診療領域で囚われていたときには思いつかなかったサジェストができたりなど、より広い視野をもってより深い考察ができるようになります。
当院は時代の移り変わりに合わせて体制を変化させて、地域の皆さんに必要とされる医療をご提供し続けてきました。
社会構造のあり方は大きく変化しています。医療のあり方も、地域の医療機関がお互いの特性と強みをいかした相互協力によって皆さんの健康を支える「地域医療構想」へと変化しました。
当院は、周産期医療、がん診療と緩和ケア、てんかん診療、災害医療を手がける「医療と救護で地域を守る沖縄赤十字病院」として皆さんに親しんでいただけるよう、職員一同尽力してまいります。
沖縄赤十字病院 院長
沖縄赤十字病院 院長
日本外科学会 指導医・外科専門医日本消化器外科学会 消化器外科指導医・消化器外科専門医・消化器がん外科治療認定医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本乳がん検診精度管理中央機構 検診マンモグラフィ読影認定医師
1982年より外科医師としてキャリアをはじめ、沖縄県内で医師としての研鑽を積む。
1994年に沖縄赤十字病院に外科副部長として入職後、要職を経て2018年に病院長に就任。沖縄県民の健康を支える病院の一角として、周産期医療、がん診療、てんかん診療の充実をはかるべく奮迅している。
若手医師の教育にも力を入れており、先輩医師として患者さんの全身を診る総合的な診療の重要性を説いている。
大嶺 靖 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。