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開発者が語る、ロボットスーツHAL®とは?
ロボットスーツHAL*医療用下肢タイプは、これまで薬剤等でも治療が困難だと思われてきた進行性の神経・筋難病の患者さんなどを対象に、装着者の意思に従って動作を支援しながら歩行運動を繰り返すことで、...
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開発者が語る、ロボットスーツHAL®とは?

公開日 2019 年 01 月 09 日 | 更新日 2019 年 01 月 09 日

開発者が語る、ロボットスーツHAL®とは?
山海 嘉之 さん

CYBERDYNE(株)、筑波大学

山海 嘉之 さん

目次

ロボットスーツHAL*医療用下肢タイプは、これまで薬剤等でも治療が困難だと思われてきた進行性の神経・筋難病の患者さんなどを対象に、装着者の意思に従って動作を支援しながら歩行運動を繰り返すことで、歩行機能を改善させるロボットスーツです。新医療機器として医療現場に導入され、幅広い分野への展開が期待されています。

HALの研究開発を行うサイバーダイン株式会社CEOであり、また筑波大学サイバニクス研究センターの研究統括でもある山海嘉之先生に、HALの開発経緯や仕組み、今後の展望などについてお話しいただきました。

ロボットスーツHALはサイバーダイン株式会社の登録商標。

ロボットスーツHALの研究開発経緯

テクノロジーと人との関係をつくり上げることが狙い

私自身、テクノロジーと人との関係を子どもの頃から追ってきたところもあり、テクノロジーによって人がより暮らしやすい社会づくりにつながればという思いの中で歩んできました。

テクノロジーとは、人の歴史に対して進化のプロセスそのものが変わっていくことだと考えています。つまり、狩猟採集の時代から現代の情報社会に至るまで、人の遺伝子には変わりがないのだから、社会変革を実現したのはテクノロジーの進化にほかならないということです。

こうした流れの中で、脳神経系、身体系、生理系で構成されるさまざまな情報系と物理系が混在する「人」を中心として、人の生活空間となる情報空間(サイバー空間)と物理空間(フィジカル空間)をつなぐ、つまり、人とロボット・情報系を機能的に一体化して扱う「サイバニクス*」という新領域が誕生した。それが世界初のサイボーグ型のサイバニックシステム「HAL」であり、これはサイバニクス分野のひとつの出口、ひとつの形であると私は位置づけています。

つまり、人間の進化のプロセスにおける新しい取り組みとして、これから先の社会づくりに対し、テクノロジーと人との関係をしっかりつくり上げていくことが狙いとなります。

サイバニクス…人・ロボット・情報系が融合複合した新領域。医学と工学を中心に、脳・神経科学・行動科学・ロボット工学・IT・人工知能・倫理・法律・経済などで構成される新学術領域。筑波大学教授山海嘉之先生により創成。

人・ロボット・情報系の融合複合

物理空間を扱う技術、情報空間を扱う技術、脳神経系・生理系等の人の内側の情報を扱う技術。これらがひとつのかたまりとして動く状況を成り立たせるためには、どうすればよいのでしょうか。

たとえば、日本はロボット大国だと聞いたことがあるかと思います。産業用ロボットが導入された初期の頃は普及するまでに高いハードルがありましたが、実際にはロボットは繰り返し作業や精緻な作業を得意としていたため、ロボットに向いたところと人の苦手なところの役割分担をしながらちょうどよいバランスをとることができました。しかし、工場では人とロボットの間に安全柵を立てて空間が隔てられており、一緒にはたらいているわけではありませんでした。

私は約10年間かけて、工場の中で利用されてきたロボットを技術や国際規格も含めて、医療や福祉、生活空間へと引っ張り出すことに成功しました。この取り組みによって、ひとつ大きな役割を果たせたのではないかと思っています。この分野は、後は誰がやっても同じように進めていけるはずなので、次はテクノロジーと人の共生のための制度改革や方策などの開拓に挑戦したいと思います。

社会課題の解決

社会課題を解決するということも、またひとつ大きな役割だと考えています。工学は細分化された専門分野の中で成り立っていますが、社会課題の場合は複合的な課題が多々あるため、専門分野だけを極めても社会が抱えている複合的な課題に対応することは困難です。そのため、従来の枠組みを大きく変える「サイバニクス」を駆使しながら、技術的な取り組みと社会的な取り組みを同時展開することをしっかりと進めていこうと考えています。

そこで私は、人と物理的・情報的インタラクションを実現する「サイバニクス技術」、人間の機能を改善する「治療」という世界、介護する側・される側に対する「支援技術」、そして最終的には脳神経系からスーパーコンピューターまでを、一気につなぎたいと考えています。これを実現し、早期発見・予防・機能改善手法などと連動させて、好循環医療イノベーションのスパイラルを回していきます。HALは、その第1弾といえるでしょう。

今、様々な難関はありましたが一つ一つ達成してきているという思いがあり、それは、限られた時間の中で生きる人間が、残された時間をどのようにやり抜くかということにもつながるのではないかと思っています。

ロボットスーツHALの仕組み

取材写真 ロボットスーツHAL

脳から末梢に伝わる生体電位信号を利用して動作する

神経系のはたらきにはイオンチャネルの存在が大きく関わっています。たとえば、心臓の収縮や脳神経系での信号伝達においては、それぞれの細胞のイオンチャネルが開閉してイオンが流入するという動きが起こっています。そのため、心臓や脳の活動は生体の電位として検出され、心電図の波形や脳波として確認することができます。こういった体の内側の情報をどのように取得するかということがHALの原理の基本となっています。

脳・神経系の情報を読み取るとき、頭蓋骨を開いたり、皮膚から体内にセンサーを入れ込んだりすることは、日常的に簡便に行う技術ではありません。日常的な観点からすれば、テクノロジーと人との境界面は、皮膚の表面です。皮膚にセンサーを貼って微弱な生体電位信号を検出することができますが、更に技術を進化させ、皮膚に触れることなく、服の上から心電位を捉えたり、髪の上から脳波を捉えたりする技術もつくりながら、技術力を高めています。

最近では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気の方の意思を反映した生体電位情報を末梢の皮膚の上から捉えるCyinというサイバニックインタフェースも準備できました。HALの場合も、末梢の皮膚表面に流れる微弱な生体電位信号をセンサーが検出することで、脳から筋に送られる運動意思を反映した情報を読み取ります。

Cyinはサイバーダイン株式会社の登録商標。

HALを介して脳神経系と筋骨格系をつなぐ

脳から伝わってくる意思の情報をHALの中に取り込んだら、それが非常に弱くなった信号でも、あるいはまばらになった信号でも、これらの生体電位信号をコンピュータの中で整え直して、もう一度HALを通して人に戻します。これによって、脳・神経・筋系→生体電位→HAL/コンピュータでのAI処理等→HAL動作→筋紡垂・感覚神経系→脳神経系というループが構築され、HALによって脳神経系と筋骨格系をつなぐことができます。つまり、体の中を回っている神経系のループにHALを介在させることで、人とロボットの間で機能を改善させていく新たなループをつくりあげます。HALの原理によって人・ロボット技術・神経科学を融合させた、世界で初めての脳・神経・筋系の機能改善の原理であり、神経と神経、神経と筋肉の間のシナプス結合を調整・強化する仕組みです。

HALの真価は取り外したときに分かる

HALは単純にロボット的な動作によって身体を支えるデバイスではなく、薬や再生医療と同じように、HALというサイバニクス技術の介入によって身体の機能を改善させる新たな治療技術です。

治療初期の頃は介助者がいなければ歩くことのできなかった患者さんが、HALを用いた治療のあとでスムーズに歩けるようになり、脳や神経系の状態が改善していくことが、国内外での臨床試験等を通して示されています。身体が動かない方でも、微弱な生体電位信号が検出されれば、動かそうとする意思によってHALは駆動することになり、自分の身体と一緒に動く。つまり、HALは装着者の意思にしたがって人とロボットが一体的に動く世界初のサイボーグ型ロボットなのです。こうして、脳・神経・筋系の機能の改善・再生を促進させていく治療技術として、HALによるサイバニクス治療が誕生しました。ロボット治療としては世界で初めて医療保険の適用も始まりました。

HALの有効性の真価は、HALを取り外したあとでどのような変化が起こるのかという点にありますが、この新しい治療技術は、治療の世界の革命になるだろうと思っています。

再生医療と革新技術HALによる新たな展開が始まる

余談ですが、これまで、脳や脊髄などの神経細胞はダメージを受けたら再生しないといわれてきました。しかし最新の研究では、脳神経系・脳脊髄系の中には、僅かですが新規に生まれているということも報告されてきています。また、脳や脊髄という中枢神経系に幹細胞を移植する臨床研究・治験も始まり、つい最近では治療法として承認されたものもあります(2019年1月現在)。このような背景のもと、私は、革新技術であるHALと再生医療との組み合わせによって、神経細胞のつながりを更に相互に補完し、脳・神経系の機能の再生を促進することができているのではないかと考え、幾つかの再生医療のグループとも連携してさらに次の取り組みを進めています。

ロボットスーツHALの展望

8疾患の保険適用に続き臨床研究が進む

ロボットスーツHAL医療用下肢タイプは、2016年、希少性神経・筋難病8疾患に対して保険適用となりました。

〈保険適用対象疾患〉

筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、先天性ミオパチー、遠位型ミオパチー、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)、封入体筋炎

2017年12月には、神経系に関わるデバイス・身体系に関わるデバイスという2つの機器分類にまたがる医療機器として米国FDAから承認を取得しました。また、2018年6月現在、日本では脳卒中(脳出血・脳梗塞)、脊髄損傷、パーキンソン病などに対する臨床研究等が行われています。

HALのさらなる可能性

HALには医療用下肢タイプのほかにも複数のバージョンがあり、主に、下肢が不自由な方の身体運動支援や、介護を行う側の負担軽減などを目的として使用されます。最近では、足腰の弱った方などの運動支援にも使用されています。

たとえば、がんの手術を受けてベッドに横たわり続けている高齢の患者さんは、しばらくすると、ベッドからの立ち座りができなくなるほど廃用が進むことになります。周囲の方が立たせてあげればなんとか歩ける状態でも、これでは転倒が心配なことが多いでしょう。こういった場合、腰タイプのHALで患者さんの立ち座りの機能を向上させ、自立度を高めていくことができます。HALを繰り返し使用することにより、自力での立ち上がりや歩行が可能な状態へと改善することが期待できるのです。寝たきりの恐れがある状態から回復へつながる自立支援技術ともいえるでしょう。

サイバニクス医療の産業化に向けて

「無ければつくる」 新制度の整備、社会の受け入れ体制が課題

ここまでお話ししたように多くの研究開発に取り組んでいますが、問題は技術革新に制度や社会の受け入れ体制が追いついていないことにあると考えます。

たとえば、薬と異なるテック系の治療技術でも薬同様の治験が必要で、許認可までの時間、治験費用、管理維持費などが膨大なのです。先進的な取り組みが、スピーディに社会実装され、官民一体となって世界戦略の中で開拓していくという、イノベーション推進に適した体制になっていないのです。医療機器の許認可が遅れれば、結局、医療技術は競争力を失い輸入超過となり、税金の多くが海外に流れていきます。社会が直面する課題解決のための革新技術をつくりだし、これを新産業として輸出産業となるよう取り組むことも我が国にとっては大切でしょう。また、要介護度を改善することに対するインセンティブの付与(現状では、要介護者の自立度を高めても施設の収入は増えない)、予防、早期発見にも力を注ぎ、公的費用の支出を大幅削減させることが大切です。更にいえば、官民が連携した保険制度の設計なども進めるべきでしょう。

HALなどの革新技術には、承認を得るための基準やルールや規格が存在しなかったため、かなり手間をかけることになりました。まず、国際規格策定のための委員会に加わり、その後、若手を配置して更にエキスパートメンバーとして国際規格の策定を推進してきました。その結果、これまで工場の中で人と隔離しなければ使用できなかったロボット技術は、医療・福祉・生活の現場で使える技術として官民一体で制度整備に注力できることになりました。国際規格については、すでに重要な取り組みは終わったので、あとは微調整をするくらいで大丈夫でしょう。

振り返ってみると、人とロボット・情報系が融合複合した「サイバニクス」という新領域を創成し、HALの原理をつくり検証し、HALを医療機器として実用化し、さらに、薬と同じように治療効果を治験で証明することでHALによるサイバニクス治療が始まりました。そのような流れもあって機器に対する考え方も変わり薬事法が「薬機法」となり、福祉や生活分野にも適用されるISO13482(生活支援ロボットの安全規格)が整備され、「サイバニクス倫理委員会」が先陣きって工学研究の倫理委員会の形成を牽引し、人材育成については文科省の「サイバニクス国際教育研究拠点」(GCOE)を形成しながら、さらに、我が国のサイバニクス分野の最先端研究(FIRST)を推し進めました。現在、内閣府のイノベーション推進プログラム(ImPACT)で革新技術をつくり出し「重介護ゼロ社会」という概念もつくり、内閣府と共にSociety5.0のG7での世界発信を通して社会変革・産業変革に取り組んでいます。

その間に、基礎研究・革新的研究の成果を社会実装するために、理念が追求できるよう日本初の複数議決権方式の企業として株式上場を達成することで、社会課題解決型企業「サイバーダイン社」を世に送り込みました。

そして今、HALに対し公的医療保険に加えて民間保険も活用できるよう民間保険会社と保険制度のあり方を刷新する新しいスキームをつくりあげ、多くの「ゼロ」を「1」にすることに挑戦してきました。いつもはじめは、何もかもなかった。「無ければつくる」……ただそうして走り続けてきたのだと思います。

新領域開拓への挑戦─産官学民の新連携体制が必要

社会を開拓していくときに重要なものは3つあると考えています。ひとつは、革新技術をつくること。そして、それを新産業にしていくために技術をつくり出す組織と産業化する組織。さらに、手探りでその分野を開拓していく人たちの育成です。

これらの3要素は、単純に企業をつくるか、大学に在籍するだけでは統合的な仕組みとして構成できません。技術開発をする所、制度として社会システムを変えていく所、人材育成をする所という意味で「産官学」、そして革新技術を社会に投入した直後の時期ではユーザー自体も開拓者となるため「民」。産・官・学・民の新連携体制を実現することによって、未来開拓への挑戦が可能になるのではないでしょうか。

患者さんからの「宿題」がモチベーションとなる

取材 ロボットスーツHAL

HALに代表されるサイバニクス技術は、常に進化拡張され、また新しくつくり出されています。こういった技術を少しでも早くお手元に届けたいと思っています。

それに加えて、患者さんからの「こういうものがあれば」という声を宿題としてもらえたら嬉しいと感じます。私は講演を行うときはよく宿題をもらって帰り、時間がかかったとしても仕上げるように努めています。私にとってモチベーションとなるものは、役に立ったという実感や、喜んでもらったという実感です。難病の患者さんをはじめ、お困りの方はぜひご一報ください。時間には限界があり、人生にも限界がありますが、うまく達成できお役に立てれば光栄です。

1987年筑波大学大学院修了。工学博士。人・ロボット・情報系が融合複合した新学術領域【サイバニクス】を創成し、身体機能を改善・補助・拡張・再生する世界初のサイボーグ型治療ロボット「HAL®」を開発。2004年にサイバニクスを駆使して社会課題を解決する未来開拓型企業「CYBERDYNE」を設立し、2014年東証マザーズ上場。世界初のロボット治療機器「医療用HAL」を上市するなど、イノベーションを起こしながら世界規模で事業を展開している。文科省GCOE拠点リーダー、内閣府FIRST中心研究者、内閣府ImPACTプログラムマネージャーなどを歴任。