横須賀市立うわまち病院 心臓病と闘う会では、2003年より、「心臓リハビリテーション教室」を年に6回開催しています。当教室の目的は、心臓病の患者さんが積極的に運動に親しみ、生活を改善し、心疾患(心臓病)を克服することです。2019年4月13日(土)には春季1回目となる教室が開催され、45名の方が参加されました。本記事では、教室の様子をお伝えします。
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2018年度の心臓リハビリテーション教室の内容はこちらをご覧ください。
はじめに、横須賀市立うわまち病院の病院管理者である沼田裕一先生の講義が行われました。
沼田先生:
心臓リハビリテーションでは、心臓の能力が許す範囲で、無理のない運動を継続していきます。運動を継続することで、多くの心臓病を予防することができ、運動を行っていない方に比べて生存期間が延びることが明らかとなっています。また薬物療法よりも効果が高いことも分かっており、お金をかけずに、高い効果が得られるものとして、運動療法は非常に有用です。
かつて心臓病の患者さんは、「運動したりいろんな場所へ出かけたりせずに、自宅で安静にするように」と指導されていました。しかし、それでは日々の生活から充実感が失われてしまいます。そして飲酒や喫煙の頻度が増え、結果的に病気の悪化につながる恐れもありました。今はそのような考え方から変わってきています。運動を継続することで心機能が改善するわけではありませんが、筋力を目覚ましく改善させることができます。筋力が改善すれば、心臓に病気を持っていても、十分な運動が可能になります。
皆さんには、この心臓リハビリテーション教室を通して、運動に親しんでいただき、その効果を実感していただきたいと思います。
当院では、以下のような包括的心臓リハビリテーションを実践しています。
心臓手術においてもっとも問題となるのが、呼吸機能の低下による術後の肺炎です。そこで、呼吸機能が低下している喫煙習慣がある方や高齢者に対し、肺炎を防ぐために呼吸機能を強化する心臓リハビリテーションが重要です。
術後や急性期治療後は、良好な身体機能回復を目指すために、できるだけ早期に体を動かします。ご自身で体を動かせない場合には、理学療法士が患者さんの体を動かすことでリハビリテーションを行います。
退院後は医師からの運動処方*に従って、ご自身で運動療法を継続していただきます。同時に、心臓リハビリテーション教室を通して、日常生活での注意点や食事管理、薬との付き合い方などについて指導を行います。楽しんで運動を継続していただくために、ハイキングやゴルフなどのイベントも企画しています。このようなイベントには、横須賀市内の開業医の先生にも参加していただき、地域を巻き込んで心臓リハビリテーションを普及させる活動を行っています。
運動処方…運動の種類や強度、持続時間、頻度などについて医師が示すもの
それでは、ご自宅で運動療法を行うときの理想的な方法についてお話しします。運動療法を行うときには、基本的に以下のような流れで行うようにしましょう。
運動前には必ず、自身の体調について自問したり、血圧や脈拍数を確認したりしましょう。目標脈拍数は年齢によって異なりますが、おおむね110回/分くらいに設定しておくとよいと思います。運動後は、無理をし過ぎなかったか、筋肉や関節が痛くなっていたりしないかなど、振り返ることも大切です。
運動を開始する前には、ストレッチなどで筋肉を温めたり、関節をできるだけ伸ばしたりすることで、運動による筋肉や関節、骨の障害予防につながります。運動を終了するときにも、急に休むのではなく歩いたり、体操したりしてクーリングダウンをしっかりと行うようにしましょう。
心臓リハビリテーションでは、歩行や軽いジョギング、水泳、自転車などの有酸素運動がおすすめです。どのくらいの強度の有酸素運動を行えばよいかですが、私はよく「息が切れず、きつくなく、かつ楽すぎない範囲で運動してください」とお話ししています。単調な運動だけでは飽きてしまうため、ご家族やご友人と話しながら行うと楽しく続けられると思います。
また、脂肪が燃焼し始めるまでには20分ほどかかり、60分を超えると運動障害を生じる確率が上昇するといわれています。そのため、1回の運動時間は30〜60分が理想的です。このような運動を、できれば毎日継続するようにしましょう。
皆さんには、運動を継続することで健康状態を維持し、幸せな生活を送っていただきたいと思っています。今回のような心臓リハビリテーション教室に参加して知識を吸収したり、またハイキングやゴルフなどのイベントにもぜひ参加してみてください。
そして、同じ病気を持つ周りの方々をサポートできるまでになっていただくことが、心臓リハビリテーションの目的であり、私の望みです。
続いて、横須賀市立うわまち病院 看護師の上田匠晢さんより「健康寿命を延ばそう〜在宅での心不全管理方法」というテーマで講義が行われました。また、同じく看護師の内山舞さんが正しい血圧の測り方について実演されました。
上田さん:
慢性心不全を引き起こす原因には、以下のようなものがあります。
<慢性心不全の原因>
これらの病気や状態にある方は、心不全の悪化を示す以下のような症状に気をつけていただきたいと思います。
<心不全悪化のサイン>
足のむくみについては、毎日ご自身でチェックしてみてください。すねを3秒くらい押し、手を離してもへこんでいれば足がむくんでいる証拠です。このような症状がみられたら、受診の際に医師に相談してみてください。
また、息苦しさや動悸、胸の痛みがある場合は心不全が進行している恐れがあるため、速やかに病院を受診するようにしましょう。
内山さん:
心不全の悪化を予防するために、毎日の血圧管理がとても大切です。高血圧の基準値とされている135/85mmHgを超えないように、後ほどお話しする日常生活での注意点を守っていただきたいと思います。
血圧計は、上腕(二の腕)に巻くタイプのものがおすすめです。手首に巻くタイプのものもありますが、手首は心臓よりも低い位置にあるため、重力によって本来の血圧より高く出てしまうことがあります。血圧を測るときには、上腕が心臓と同じ高さになるように、椅子や机の位置を調整してください。
血圧は、朝と夜に1回ずつ計測します。朝の場合には、
に測ることで、正確な血圧を測定することができます。夜は就寝前、体がリラックスしているときに測定しましょう。血圧は毎日記録して、定期受診の際に持参するようにしてください。
上田さん:
心不全悪化を防ぐためには、以下のようなことに気をつけて日常生活を送るようにしてください。
喫煙によるニコチンの摂取は、血圧や脈拍の上昇、体内の酸素不足、動脈硬化の促進につながります。近年、加熱式たばこも普及していますが、加熱式たばこでもニコチン摂取量は約半分までしか削減されません。心臓病にかかったら、加熱式たばこを含め、禁煙を徹底するようにしましょう。
アルコールの摂取は血圧を上昇させ、心臓に大きな負担がかかります。厚生労働省の『健康日本21』では、1日20gまでの純アルコールが望ましいとされています。具体的には、以下が目安となります。
入浴はお湯の温度を40〜41度に設定し、時間は10分以内にするようにしましょう。また急激な寒暖差は血圧の急上昇につながるため、寒い季節は浴室や脱衣室を温めておくようにしてください。入浴方法は、心臓に負担のかからない半身浴がおすすめです。
排便時に強くいきむと、血圧が上昇します。排便時にいきむ必要がないよう、便秘予防に努めましょう。便秘予防には下腹部を「の」の字にさすり、肛門側へ便を移動させるマッサージが効果的です。
塩分を多く摂取すると、体が水分をため込もうとします。すると、血管内の水分量が多くなり、心臓は多量の血液を全身に送らなくてはいけなくなるため、心臓が疲弊してしまいます。塩分摂取量は、1日6gまでにすることを目指すようにしましょう。
急激な体重増加は心不全悪化のサインです。1週間に2kg以上増加したら危険信号です。速やかに病院に受診するようにしましょう。また、主治医と1日の水分摂取量の目安を決めておき、水分の過剰摂取、不足にも注意しましょう。
睡眠をしっかりとることも大切です。日中、運動をすることで質の高い睡眠につながります。不眠が続く場合には、主治医に相談するようにしましょう。
主治医から指示された時間・量の服薬を守るようにしましょう。飲み忘れても、2回分をまとめて飲んだりしないようにしてください。
患者さんのなかには、利尿薬を中断してしまう方も少なくありません。たとえば、旅行中のトイレの心配から、旅行中だけのつもりで利尿薬を中断すると、癖になってそのまま飲まなくなってしまう方もいらっしゃいます。決して自己判断で服薬を中断しないようにしていただきたいと思います。
定期的な受診を怠らないようにしましょう。その際、普段の生活状況や自覚症状の有無などを、しっかりと医師に伝えるようにしてください。
心不全の患者さんがご自宅で療養する日数は、ほかの病気に比べて長い傾向にあります。その長い療養生活を充実したものにするために、ご自身がどのような人生を送りたいのか、どのような最期を迎えたいのかを、日頃から考えておくことが大切です。心不全はある日突然悪化することがあります。そのときに備えて、ご自身の要望をあらかじめご家族や身近な方、主治医と話し合っておくようにしましょう。
当院では、あらゆる職種のスタッフで心臓病の患者さんをサポートしています。これからも私たちと一緒に心臓病と立ち向かっていただきたいと思います。
最後に、横須賀市立うわまち病院 岩澤孝昌先生より閉会のお言葉がありました。
岩澤先生:
皆さん、長時間お疲れ様でした。本日、沼田先生からもお話があったように、心臓病に対して運動は非常に有効です。最近では、認知症予防にもっとも効果のあるものは運動であるともいわれています。これからの人生を幸せなものにするための第一歩として、心臓リハビリテーションを継続していきましょう。
横須賀市立うわまち病院 病院管理者、公益社団法人 地域医療振興協会 副理事長
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