ニュース(スポンサード)

第2回心不全パンデミック講演会−横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に

第2回心不全パンデミック講演会−横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に
沼田 裕一 先生

横須賀市立うわまち病院 病院管理者、公益社団法人 地域医療振興協会 副理事長

沼田 裕一 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

 横須賀市立うわまち病院では、「横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に」という趣旨のもと、近い将来起こるとされている心不全パンデミックに対する取り組みを行っています。その取り組みの一環として、2018年9月19日(水)、地域の医療関係者を対象にした第2回心不全パンデミック講演会が行われました。今回は本講演会のレポートをお届けします。

第1回心不全パンデミック講演会については、こちらをご覧ください。

沼田裕一先生より開会の挨拶

 はじめに、横須賀市立うわまち病院の病院管理者である沼田裕一先生より、開会のご挨拶がありました。

▲沼田裕一先生(IMG-6879)
▲沼田裕一先生

沼田先生:

 心不全パンデミックとは、近年の高齢化の進行に伴い、心不全患者さんが急増することをいいます。心不全パンデミックが起こると、当然地域医療の現場に心不全患者さんが溢れかえることになり、私たちは一丸となってその対処法について考えなくてはいけません。

 そのためには、私たち地域中核病院が中心となって、診療所の先生方や医療に携わる皆さまと、心不全パンデミックに対応できるシステムや連携体制を構築する必要があります。今回のような講演会を通して、皆さまと意見交換をしていきたいと思っています。

足病と診療連携

 続いて、横須賀市立うわまち病院の循環器内科科長である荒木浩先生より、「足病と診療連携」というテーマのご講演がありました。座長を務めたのは、同じく横須賀市立うわまち病院の副病院長・循環器内科部長・集中治療部部長である岩澤孝昌先生です。

▲座長 岩澤孝昌先生(IMG−6887)
▲座長 岩澤孝昌先生

 

▲演者 荒木浩先生
▲演者 荒木浩先生

高齢化が進行するにつれて懸念される「心不全パンデミック」

荒木先生:

 日本の高齢化率(全人口のうち65歳以上が占める割合)は約28%であり、そのうち半数以上が75歳以上であるといわれています。加えて、平均寿命は男性81歳、女性87歳と世界一の長寿国となっています。

 そのような日本では、死亡原因の第二位が心疾患であり、その死亡率は上昇傾向にあります。また、2020年には毎年約30万人の高齢者が、新規で心不全を発症すると予想されています。まさに、心不全パンデミックが近い将来起こりうることが懸念されているのです。

心不全予防のためには、ウォーキングが重要

 心不全が起こる主な原因としては、「虚血性心疾患・高血圧症・弁膜症」が多く、中でも虚血性心疾患による心不全が近年増加していることが、急性・慢性心不全ガイドライン(2017年改訂版)でも述べられています。つまり、心不全を防ぐためには、虚血性心疾患を未然に防ぐことが大切です。

 また、神奈川県は「未病改善」について提唱しています。病気と健康は、はっきりと区別できるものではなく、心身の状態が病気と健康の間を連続的に変化している状態を「未病」といいます。心不全を予防するためにも、未病を改善して、心身をより健康な状態に近づけておくことが重要です。

未病

 未病を改善するためには「ウォーキング」を行うことが重要です。寝たきりを防ぐためには、1日5,000歩、動脈硬化や骨粗しょう症を防ぐためには1日7,000歩、メタボリックシンドロームの改善のためには1日10,000歩の歩行を心がけることが大切です。

足病の存在が心不全運動療法の足かせに

 未病改善だけでなく、心不全治療のためにも運動療法が重要です。運動療法によって、運動耐容能やQOL(生活の質)が改善すること、心不全入院が減少することも研究によって証明されています。

 しかし、心不全の方が末梢血管疾患(PAD)などの足病を発症していると、安静時や歩行時に起こる足の痛みや、重症虚血肢(じゅうしょうきょけつし)(CLI)による潰瘍や壊死によって、十分な歩行ができなくなります。このような状態では、心不全改善のための運動療法はできません。

 そのうえ、末梢血管疾患の患者さんには、足だけでなく、冠動脈や頸動脈、腎動脈など全身にも動脈硬化を合併していることが多くあります。これらの合併症による心不全の発症を防ぐためにも、足病を未然に防ぐことが重要です。

運動耐容能…身体運動負荷に耐えるために必要な、呼吸や心血管系の能力に関する機能

末梢血管疾患(PAD)…動脈硬化によって、足の血管が細くなったり、詰まったりする病気

重症虚血肢(CLI)…末梢血管疾患が重症化して、潰瘍や壊死が起こっている状態

末梢血管疾患(PAD)の予後は非常に悪い

 PADを発症すると、心不全の有無にかかわらず予後が非常に悪いことが分かっています。

50歳以上のPADの患者さんの初期臨床症状を調べると、約40%は無症状、約50%は下肢疼痛、残りの数%がCLIといわれています。このうち、数%のCLIの患者さんの1年後の経過をみてみると、約25%が死亡、約30%は下肢切断という予後をたどっています。

 初期臨床症状が、無症状もしくは下肢疼痛であった患者さんでも、5年後には約5〜10%がCLIに進行しています。そこからさらに1年後には、約25%が死亡、約20%は心筋梗塞や脳卒中を発症していることが分かっています。

 このような臨床的な経過から、PADを発症すると、最初は無症状であったとしても、将来的に寝たきりや心不全を起こす恐れがあります。私たち医師は、そのような視点でPADの診療を行う必要があります。

循環器内科がゲートキーパーとなり、足病の診療を行う

 海外には、足だけを専門的に診療する足病医がいますが、日本には足病医という概念はありません。そのため、足の症状を訴える患者さんが来院した場合には、私たち循環器内科がゲートキーパーとして診療を行う必要があると考えます。

 うわまち病院では、足病に精通している心臓血管外科の中田弘子先生の強力なサポートのもと「チームうわまち」で足病の診療にあたっています。足病を手掛かりとして、未病の段階で治療介入することで、心不全の発症を未然に防いでいきたいと考えています。

中田 弘子先生の取材記事『下肢壊疽で足を失わないために−フットウェアの重要性』はこちらをご覧ください。

心不全診療を改めて考える

 続いて、日本医科大学武蔵小杉病院の循環器内科の石原嗣郎先生のご講演がありました。座長は沼田裕一先生が務めました。

▲石原嗣郎先生
▲石原嗣郎先生

心臓は一度悪くなってしまっても治療次第で回復する臓器

石原先生:

 心臓はしっかりと治療を行うことで、元の状態に回復させることができます。たとえば、腎臓はどのような治療を行っても本来の機能を回復させることは難しく、慢性的に透析を行っている患者さんが、腎機能が回復して透析から離脱できることはありません。

 しかし心臓に関しては、一度非常に悪い状況に陥ったとしても、適切な治療を適切な時期に行うことで復活する可能性があります。ただし、治療法によっては元の状態に戻らない恐れもあり、治療がとても難しい臓器でもあります。

 私たち循環器内科医は、この点を肝に命じて、日々の診療にあたる必要があります。

急性心不全は、入院時の収縮期血圧が予後を左右する

 急性心不全においては、入院時に計測した収縮期血圧が強力な予後規定因子になることが分かっていて、このときの収縮期血圧が高ければ高いほど予後が良好であるといわれています。

 私たちは普段、外来通院中の患者さんに対して、血圧をなるべく下げるような薬剤を使用します。しかし、急性心不全の患者さんの場合には、血圧が高いほうがむしろ予後が良好であるということを知っておく必要があります。

心不全治療にかかる医療費の多くは入院費が占めている

 近年の高齢化の進行とともに、心不全患者さんは急増しています。患者数は20年後には約25%増加、心不全にかかる医療費は約200%増加すると推測されています。また、日本の心不全医療費は世界第2位であると報告されています(2014年のデータによる)。

 心不全にかかる医療費の多くは入院費です。これは心不全における高い再入院率が要因です。そのため、いかに心不全による再入院を防ぐかが重要なテーマです。

急性心不全では、問診による正確かつ迅速な初期対応が重要

 心不全による入院を防ぐためには、どのような治療を行うかが鍵となります。しかしながら、現段階では、急性心不全の予後を改善させるような新薬は15年以上にわたって認可されていません。

 そこで、心不全治療では「時間単位・週単位・月単位」での状態を患者さんからしっかりと問診で聞き出し、症状の変化に合わせた治療薬を選択することが大切です。たとえば、時間単位で症状が悪化する場合には背景に血圧上昇があると考えられるため、血管拡張薬を使用します。一方、月単位で症状が悪化するような場合には、時間をかけて体重が増加していることが多いため、適宜利尿薬を使用します。

 初期診断において、患者さんの心不全症状がどのような時間軸で変化しているかを見極めて、適切な治療法について正確かつ迅速に判断することが重要です。

心房細動が心不全を引き起こす

 心不全の増加とともに、心房細動の増加も世界的に大きな問題となってきています。そして、心房細動は慢性心不全・急性心不全を引き起こす原因となります。文献によって異なりますが、新規で心房細動を発症すると、1年以内に約8%、5年以内に約20%の方が心不全を合併するといわれています。

 心房細動の患者さんが心不全を発症してしまった場合、それをいかに抑え込むかが重要です。しかし、収縮能の低下した心不全患者さんに対するβ(ベータ)遮断薬は、心房細動をすでに発症している場合には効果が得られないことが分かっています。

心房細動に対するアブレーション治療−3Dマッピングを用いた左心房の構築

 近年は、医療技術の進歩によって、カテーテルを使って心房細動の発生源を焼灼する「アブレーション治療」ができるようになってきています。アブレーション治療の際には、3Dマッピングという技術を用いて、患者さんごとに左房を少しずつ形作っていきながら、治療を行います。

 心房細動が進行すると、左房の筋肉が弱くなってきてしまいますが、アブレーション治療は、左房の筋肉がいかに良好な状況で治療ができるかが重要です。そのため、治療が必要な心房細動の患者さんには、早めの治療介入が重要です。

アブレーションvs薬物治療「CATSLE-AF」

 心房細動に心不全を合併している患者さんに対して、アブレーション治療と薬物治療のそれぞれにおける全死亡率と心不全悪化を比較した「CATSLE-AF」という臨床試験があります。本試験では、薬物治療に比べて、アブレーション治療を行ったほうが死亡率と心不全悪化を大きく減少させることが証明されました。

 先ほどお話ししたように、心不全の予後を改善させるような新規治療薬は存在しません。そのため、心房細動と心不全を合併している症例において、アブレーション治療はよい適応となります。

心房細動の問題点と今後の課題

 心房細動は、心不全や脳梗塞を引き起こす恐れのある病気です。特に、心房細動が心不全の原因になることは、多くの方々に知っておいていただきたいと思います。

 今後の課題は、アブレーション治療のさらなる成績向上と、患者さんの身体的負担の軽減と治療時間の短縮です。そして、繰り返しにはなりますが、心房細動の心不全発症リスクを多くの方に知っていただくことです。このような認識を持っていただき、心房細動の患者さんには早めに治療介入を行い、心不全発症予防に努めていく動きが広まることを願っています。

Closing Remarks 心不全アドバンスケアプランニングから緩和ケアへ

最後に、岩澤孝昌先生による閉会のご挨拶がありました。

▲岩澤孝昌先生
▲岩澤孝昌先生

心不全のエンドオブライフ

エンドオブライフ

岩澤先生:

 本日は心不全における「闘い」について荒木先生と石原先生にご講演いただきました。しかし、闘いには終わりがあります。心不全との闘いは長いものになることもあれば、ある日突然何の前触れもなく終わりが訪れることもあります。そのように、いつ訪れるかわからない終わりに備えるために大切なことが、アドバンスドケアプランニング(ACP)です。

 当院では、患者さんの想いや願いなどを聴取して、患者さんを取り巻く家族や環境、患者さん自身が大切に思っている人、事、物などを、関わっている医療スタッフ全員で共有するACPを実施しています。具体的には、最期はどのような場所で過ごしたいか、ペースメーカーが入っている患者さんに対しては、最期を迎えるときにペースメーカーのスイッチをどうするかなども聴取します。

 ACPは、私たち病院スタッフをはじめ、かかりつけの開業医の先生、介護ヘルパーさんなどで、患者さんの想いを尊重し、その想いをつないでいくことで実現します。 

心不全パンデミックと闘う地域医療ネットワーク

また、当院では心不全パンデミックと闘う地域医療ネットワークというものを構築しています。かかりつけ診療所、かかりつけ薬局、歯科医院など、地域の皆さまと一緒に、地域の心不全患者さんを守っていきたいと考えています。

情報交換会

▲情報交換会の様子
▲情報交換会の様子

講演会のあとには、参加者の方々が集まり、情報交換会が行われました。情報交換会では、お食事を楽しみながら、日頃の診療における活発な情報交換がなされていました。