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第4回心不全パンデミック講演会——横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に

第4回心不全パンデミック講演会——横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に
沼田 裕一 先生

横須賀市立うわまち病院 病院管理者、公益社団法人 地域医療振興協会 副理事長

沼田 裕一 先生

目次
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 横須賀市立うわまち病院では、“横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に”という趣旨のもと、心不全パンデミックへの対策と啓発活動を行っています。2019年12月4日(水)、セントラルホテル横須賀にて、第4回心不全パンデミック講演会~ShakeOut! 心不全パンデミック~が開催されました。講演会では、心不全の発症を抑制し、心不全を“振り払う”にはどのような対策が求められるかについて、多様な立場からの講演が繰り広げられました。今回は講演会のレポートをお届けします。

 過去のレポートは以下をご覧ください。

第1回心不全パンデミック講演会―横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に

第2回心不全パンデミック講演会―横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に

第3回心不全パンデミック講演会―横須賀市を心不全パンデミック対応モデル地域に

 第4回心不全パンデミック講演会は、横須賀市立うわまち病院 病院管理者 沼田 裕一(ぬまた ゆういち)先生による開会の辞をもって幕を開けました。

座長を務める沼田裕一先生
座長を務める沼田裕一先生

沼田先生:

 第4回となる今回の心不全パンデミック講演会のサブタイトルは“ShakeOut! 心不全パンデミック”、すなわち、“心不全パンデミックを振り払え”としました。今後、心不全の患者数が増え続けると予測されているということは、第3回心不全パンデミック講演会でもお話しさせていただいたことでもありますが、改めてこの問題について触れるとともに、サブタイトルに込めた思いをお話しします。

 心不全は、重症化すると呼吸困難をはじめとした症状が現れる病気で、放置すると寛解(かんかい)(症状が出なくなる)と増悪(ぞうあく)(症状が悪化する)を繰り返し、徐々に生命に影響を及ぼし、最終的には死の危険をもたらします。そのような病気が増加するといわれていることに対して、我々は医療従事者として、患者さんのことを思わずにいられません。皆で力を合わせて、増加する心不全患者さんに対応することを目指し、今回は“ShakeOut! 心不全パンデミック”という副題をつけさせていただきました。

 まずは“実践におけるTIPS(コツ)”ということで、約5分間ずつ、コメディカル各職種の診療のコツをお話しいただきます。

 末次看護師は、心不全を繰り返さないためには、患者さん自身の自己管理能力を高めることはもちろん、退院後はご家族にも管理をしていただくよう呼びかけることが大切であると説明されました。

 横須賀市立うわまち病院では患者さんの自己管理が習慣化するまでは、病棟看護師から血圧測定や体重測定、むくみチェックを指導し、自己管理の意識付けを行っています。また、“1週間で3kgの増加”は受診のキーワードとして、退院までに繰り返し説明し、外来に必ず連絡を入れてもらっています。その結果、相談の電話も以前より増え、心不全初期の入院も増えてきました。

 末次看護師は、今後もこうした取り組みを継続していきたいと述べられました。

 続けて、リハビリテーション科 科長 井上宜充理学療法士より、運動習慣を継続するために医療従事者側ができる工夫についてプレゼンテーションが行われました。

 井上理学療法士は、患者さんの行動変容を促すためには、“動機づけ”が重要になると説明されました。動機づけには内発的動機づけと外発的動機づけの2種類があり、内発的動機づけは自律性を育むとされています。目標の押し付けや監視(外発的動機づけ)は自律性を妨げることがあります。そのうえで、患者さんの自律性を促し運動習慣を継続するためには、医療従事者による患者さんへの内発的動機づけ(ここでは「やる気スイッチ」と表現されました)が効果的であると述べられました。そして、たとえ最初のうちは患者さんの指導がうまくいかない場合でも、根気よく「やる気スイッチ」を探し出す努力をしていくことが重要だと呼びかけました。

 臨床検査部 主任 若林太一臨床検査技師のプレゼンテーション内では、平均右房圧の推定、肺動脈収縮期圧の推定、右室収縮機能の評価としてのTAPSE(三尖弁輪部収縮期移動距離)の計測、心室間相互作用などにおけるコツと注意点についてお話がありました。締めくくりの言葉として、今回解説した心エコー検査の項目は、非侵襲的かつ比較的簡便に右心系機能の評価が可能な重要項目であると述べられました。

 安田薬剤師は、心不全の患者さんに薬を正確に飲んでいただくための4つの方法として、“一包化”、“用法の簡略化”、“入院中の自己管理トレーニング”、“ポリファーマシー対策”を提唱されました。そのうえで、横須賀市立うわまち病院薬剤部では服用時間を毎日同じ時間にしたり、服用回数を減らしたりすることで患者さんの負担を減らし、服薬アドヒアランスの向上に取り組んでいると解説されました。そして、薬の種類が多い場合や薬の管理がうまくいかない患者さんには、医師や薬剤師が一包化を積極的に提案および指示することが大事だと呼びかけました。

 まず宮城主任管理栄養士は、一般的な減塩手段として広く実践されているだしや減塩調味料の活用が、どれほど減塩効果をもたらすのかについて解説されました。さらに、意外に食塩が多い食品の具体例を挙げて、愛用する食品や調味料の食塩量を改めてチェックするよう注意を促しました。また、サルコペニアフレイルの患者さんの食事では、食塩やタンパク質、エネルギーなどの全体のバランス調整が重要になるため、一人ひとりの食嗜好に応じた食事療法を行い、栄養状態の悪化を防ぐことが重要であると述べられました。

 新井係長は、地域医療連携室では紹介患者さんの診察予約や他施設との連絡調整、かかりつけ医を持たない患者さんへのクリニックのご案内などを行っていると説明されたうえで、患者さんの立場に立って、きめ細かい連携を取れるように努めていると述べられました。そして、「患者さんの具合が悪くなったり緊急診察が必要になったりした場合には、いつでも地域医療連携室に連絡してください」と案内していただきました。

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 6名の演者によるプレゼンテーションの後は、3名の先生方による特別講演が行われました。座長は引き続き沼田裕一先生が務められました。

 まずは工藤医院 工藤 澄彦(くどう すみひこ)先生より、かかりつけ医の立場から見た心不全診療についての講演が行われました。

工藤澄彦先生
工藤澄彦先生

これからの心不全医療の課題

工藤先生:

 心不全とは、心臓機能が損なわれることで、臓器や組織に血液を供給できなくなった状態です。心臓は、1分間に60から70回、1時間に3600回から4200回、1日に10万回拍動しています。近年は平均寿命の延伸に伴い、“人生100年時代”ともいわれるようになりました。長くなった寿命のぶん、心臓をいかにして持たせるかということが、これからの課題になってくるでしょう。

 心不全を誘発する病態としては、第一に高血圧、次いで心筋梗塞弁膜症不整脈心筋症など、多岐にわたります。このほか、今後は先天性心疾患による心不全が増えてくると予想しています。

 心不全の発見につながる主な症状としては、むくみや息切れが挙げられます。最初のうちは長い階段、たとえば駅の階段や歩道橋の階段などが、休憩を挟まなければ上れなくなります。さらに病気が進行すると長い距離を歩けなくなり、やがて寝ている状態が苦しくて起き上がると楽になる(起坐呼吸)状態が生じます。起坐呼吸が起こる状態まで心不全が進行した場合は、入院治療が必要です。

 入院治療を経て一度退院できても、経過観察中に患者さんが薬を飲むことを忘れたり、不摂生をしたりすると、また心不全は悪化してしまいます。また、心不全の方には肺うっ血が多く見られるため、かぜを引いて肺炎を引き起こした場合、さらに病状が悪化します。このようにして寛解と増悪を繰り返していくうちに心不全が重症化すると、最悪の場合、命に危険が及ぶこともあります。

心不全の進行を防ぐためにできる注意とは?

工藤先生:

 心不全の重症度分類では、生活習慣病がある方はステージAに該当します。症状はまだ出ていないものの心疾患を有する方はステージB、症状が出ている方はステージC、そして難治性の場合はステージDとなります。

 私は、心不全の症状が出ない期間をできる限り長くすることができれば、心不全リスクを持っていても100歳まで生きられるような時代がいつか訪れるのではないかと考えています。

 では、心不全にならないためにはどうすればよいでしょうか。まずは生活習慣を改善し、持病のある人は服薬を続けることが大事です。また、肺炎にかからないように、きちんとワクチンを打ちましょう。そして、患者さんを診る医師側にも注意が求められます。生活習慣病を診ている地域のかかりつけ医は、心臓病や腎臓病にかかっている患者さんを見つけたら早期に専門病院に紹介することが大切です。そして紹介先の病院は、早期に診断と治療を行ってください。

 次に、横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科 部長 安達 晃一(あだち こういち)先生より、MICS(minimally invasive cardiac surgery)という技術を用いた低侵襲心臓手術の方法や注意点について講演が行われました。

安達晃一先生
安達晃一先生

高齢社会における低侵襲心臓手術の必要性

安達先生:

 心不全の患者さんに対して外科医が担っている主な役割は、弁膜症に対する手術や冠動脈バイパス術など、外科的アプローチを行うことです。これからの日本は高齢化社会がますます進み、高齢の患者さんがさらに増えてくると予測されます。そのなかで、心不全の診療においても、高齢者特有の併存疾患*を有する症例を診る機会が増えてくるでしょう。

 高齢の心不全患者さんは、呼吸機能や免疫機能の低下、認知症糖尿病など、心不全以外に複数の病気をお持ちの方も少なくありません。また、一般的に若い世代に比べて高齢者は体力が低下しているため、術後に感染症や肺炎といった術後合併症を起こしやすいことが懸念されます。このような状況から、私たち心臓外科医の今後の課題は、高齢者に対してどのような治療を行うか検討することだと考えています。

 では、そのような合併症のリスクをできる限り少なくして、より安全な手術を目指すためにはどうすればよいでしょうか。その方法として近年推進されている術式が、MICS(minimally invasive cardiac surgery)と呼ばれる低侵襲心臓手術です。

*併存疾患:別の病気が併存している状態のこと

側方開胸によるMICSの特徴

安達先生:

 今回は、心不全に対するMICSとして、主に側方開胸で行う小切開手術についてご紹介したいと思います。

 MICSの特徴は、通常の手術のように胸の真ん中を大きく切らず、小さな切開から内視鏡補助下に手術をすることです。このような方法を用いることによって、正中切開手術で起こるリスクのある縦隔炎骨髄炎の発生リスクを抑えることが期待できます。そのほか、MICSには以下のような利点が挙げられます。

  • 傷の感染が起こりにくい
  • 人工呼吸器からの離脱が早い
  • 術後回復が早いため退院までの期間が比較的短い
  • 起立時は傷のほとんどが腕に隠れるため術後の傷が見えにくい

 一方で、MICSにはいくつかの技術的な面での注意点があります。まず、小さな傷で狭い所から手術をするため、専用の器具を使用して自分自身の指が届かない所で糸の吻合などを行う必要があります。また、視野に制限があるため、万が一出血すると止血が困難です。さらに、術後の肋間神経の疼痛対策や人工心肺の設置にも工夫が必要です。これらの点から考えて、小切開での手術は一定の経験と技量が求められる手術手技だといえるでしょう。

横須賀市立うわまち病院におけるMICS

安達先生:

 当院は、MICSでの手術が適応となる症例であれば、できる限りMICSを行うよう努めています。当院におけるMICSの適応疾患は主に大動脈弁置換術や僧帽弁形成術ですが、その他の心疾患にも適応されます。さらに応用編として、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、三尖弁輪縫縮術の三弁同時手術に対しても、MICSでの手術に積極的に挑戦しています。

 また、最近では冠動脈バイパス術の低侵襲心臓手術にも力を入れています。2017年10月~2019年4月に当院で行った冠動脈バイパス術は47件で、そのうち16例が左開胸下低侵襲手術で、うち4例は2枝以上のグラフトを用いる多枝バイパス吻合でした。これからも、当科では低侵襲手術への挑戦を続けていきたいと考えています。

まとめ

安達先生:

 超高齢化社会の到来と共に発生する心不全パンデミックの社会において、MICSをはじめとした低侵襲心臓手術は、心不全治療にとって重要な位置を占めるようになると考えています。だからこそ当院では、増加する心不全パンデミックに対応するために、積極的に低侵襲手術を推進しています。そして今後も、よりよい治療成績を目指して取り組んでいきます。

 最後に横須賀市立うわまち病院 循環器内科 部長 岩澤 孝昌(いわさわ たかまさ)先生による講演です。主に急性期心不全の患者さんに対する治療の流れや、診療連携の重要性についてお話がありました。

岩澤孝昌先生
岩澤孝昌先生

岩澤先生:

 本日は、地域の先生方と連携して、急性期心不全の搬送から治療までを迅速に行うにはどうすればよいかを提案していきたいと思います。

急性心不全の対応を迅速に行うには?

岩澤先生:

 心不全が悪化する生活要因は、服薬や通院の中断、塩分や水分の取り過ぎ、喫煙、過度の飲酒、過労、ストレス、不眠、インフルエンザを含めた感染症、血圧の急激な上昇、貧血、腎機能不全、心房細動を含めた不整脈、睡眠時無呼吸症候群など、多岐にわたります。このような要因によって心不全が急激に悪化した患者さんの初期対応を迅速かつ安全に行うためには、早期段階での地域医療連携が重要だと考えます。

 急性心不全の初期対応の目的は、患者さんを確実に救命することです。そのために、血行動態や呼吸困難の早期改善や他疾患の除外診断、他臓器の異常の確認などを早期に行い、患者さんがなるべく早く退院できることを目指します。

 そのような対応を目指すなかで、地域の先生方にお願いしたいことがあります。もしも胸痛などの心不全兆候を訴えて受診されてきた患者さんがいた場合は、その時点で病態が不安定であると判断して、すぐに我々に連絡していただけると助かります。心不全の発症から搬送までに時間が経つと、死亡率が高くなることが知られているためです。ご連絡をいただければ、すぐに我々がドクターカーで駆けつけます。

ドクターカーでの対応の流れとピットフォール

 ここでは、ドクターカー内で私たちが行っている対応についてご説明します。

 まずは心エコー検査と肺エコー検査、ニトログリセリンの投与を、専用の器具を用いて車内で行います。車内でこれらの対応を行うことにより、肺水腫をきたしていないか、心臓収縮の異常がないかといったことを速やかに調べることができます。その他、右心不全急性冠症候群高血圧緊急症、機械的合併症などの鑑別を、2時間以内に行うことを目指します。また、重症度が高くない場合はCPAP(陽圧呼吸療法)を導入し、呼吸状態の改善に努めます。

 病院到着後は、利尿降圧薬を早期に投与して利尿作用を促し、循環動態の改善を目指します。

 このような形で、私たちは早期搬送による病院到着、早期診断、早期治療を目指して取り組んでいます。これからも早期対応を心掛け、心不全治療に貢献していきたいと考えます。

早期治療には病診連携と多職種連携が欠かせない

閉会

岩澤先生:

 心不全患者さんが再入院を繰り返さず、QOL(生活の質)を維持した形で生活を続けられるような医療は、我々の力だけでは実現できません。特に高齢の心不全患者さんは、併存疾患を持っていることも珍しくないため、あらゆる角度から患者さんを診る必要があります。

 心不全パンデミックを振り払うためには、我々循環器内科医とかかりつけ医の連携、多職種連携をよりいっそう推進して地域全体の協力体制を築き、力を合わせて一人ひとりの心不全患者さんを診るという信念を持つことが重要だと考えます。

 岩澤先生による講演の後は、沼田裕一先生の閉会の挨拶がありました。講演会終了後は懇親会が開催され、心不全医療に関する情報交換と交流が行われました。

 このようにして、第4回心不全パンデミック講演会は盛況のうちに幕を閉じました。

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