院長インタビュー

北海道の広域医療でひときわ大きな存在感を放つ旭川医科大学病院

北海道の広域医療でひときわ大きな存在感を放つ旭川医科大学病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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北海道旭川市にある旭川医科大学病院は、道北および道東という広大な地域における医療の“最後の砦”として人々を支える大学病院です。広域かつ厳しい気候環境の医療圏で患者さんを守るためにICT(情報通信技術)を活用して他病院と連携して遠隔診療を行うほか、コロナ禍を経て2021年にはHCU(高度治療室)を新設するなど、医療提供体制を次々と刷新しています。そんな同院の特長について、院長の(あずま) 信良(のぶよし)先生にお話を伺いました。

当院は1976年に旭川医科大学医学部附属病院として開院し、大学病院並びに特定機能病院として先進医療や研究、医師の育成に取り組む一方、約50年にわたり道北、道東を中心とした広域の地域医療に努めてきました。

道内外から患者さんが集まる先進的な急性期医療や、道内で不足している小児医療などを提供し、地域医療において非常に重要な役割を担っています。近年では、ひっ迫する地域の急性期医療に対応するため、オンラインのクラウド型遠隔医療による病病連携(病院同士の連携)に加え、既存のICU(集中治療室)に加えてHCU(高度治療室)を新設するなど、さまざまな面で医療提供体制の改革を進めています。また、働き方改革に伴う医療の効率化に向け、かかりつけ医との連携、特定看護師の育成、医療費後払いサービスの導入にも積極的に取り組んでいます。

当院の周産母子センターは、ユニセフ(国連児童基金)より“赤ちゃんにやさしい病院”に認定されており、特に力を入れている診療科の1つです。

周産母子センターはNICU(新生児集中治療室)とGCU(新生児回復室)を備え、同じフロアーに小児総合医療センターを設置することで、周産期医療と小児医療のスムーズな連携を実現しています。NICUとGCUでは主に早産児や低出生体重児、病的新生児に対する診療や、新生児の外科手術などを行っています。道北道東の新生児科医は少なく、当院と旭川厚生病院が一手に引き受けているような状況です。当院は積極的に重症のお子さんを受け入れており、さらに超重症児(食事摂取機能の低下や栄養吸収不良などの消化器症状、呼吸機能の低下があり濃密な治療を必要とする小児)に対応するために新生児科医師も増員しました。

そのほか“子どもの発達診療センター”で発達障害心身症を診療するとともに、小児外科チームを含めた包括的な小児医療で、地域のお子さんと親御さんを支援しています。また、希少な小児外科専門医の意見を聴けるよう、道北道東の小児科医と連携を取り、地方から検査画像などをICTを介して当院の小児外科医に送信してもらうことで、搬送や緊急手術の必要性を判断することが可能になりました。

当院では、幅広い診療科がそれぞれの専門性を生かしながら日々の診療に励んでいます。そのようななか消化器内科では、積極的に先進的な取り組みを行ってきました。たとえば、がんに対する内視鏡治療ではAIを活用した画像診断システムを活用し、高精度な診断に役立てています。特に得意としているのはクローン病や潰瘍(かいよう)性大腸炎を含む炎症性腸疾患に対する治療です。

私が科長を務める血管外科では、カテーテルを用いた血管内治療に加えて、全国でも実施施設が少ないバイパス手術に注力し、下肢血行障害に対して血管内治療とバイパス手術を使い分け、患者さんの状態などに応じてよりよい治療を選択できる体制を整えてきました。「足壊疽により下肢切断が必要」と言われた方についても、状態や治療選択によっては切断しないで済む可能性もありますので、一度当科へご相談ください。

ほとんどの国立大学病院では心臓血管外科として心臓と血管の病気を合わせて対応していますが、血管外科を標榜する当院では血管の病気に対する専門的な診療を行っており、道内外から患者さんがいらっしゃいます。

昨今、生活習慣病の増加に伴って動脈硬化に関する病気が増えており、専門的な治療を行う当院の血管外科がますます重要な役割を担うようになりました。特に高齢者に起こりやすい急性動脈閉塞(へいそく)症などは数時間のうちに治療しないと下肢を失ってしまうこともあるため、緊急手術の体制を整えつつ日々の診療に励んでいます。

当院は全国に先駆けて1994年からICTによる遠隔医療に取り組み、道北、道東の広域な医療ニーズに対応しています。近年は、道内のみならず中国やアジア圏での遠隔医療を推進し、国際間の医療連携にも貢献してきました。ICTによる遠隔医療はインターネットを介したクラウド型システムで、他院で検査した診断データなどをオンラインで確認するものです。これにより、当院に搬送されてくる救急患者さんの病態をいち早く把握し、受け入れ後の迅速な治療につなげることができます。

たとえば、大動脈解離など急性大動脈疾患の治療は専門性が高く、限られた医療機関でしか治療できません。そのうえ発症後の死亡リスクを少しでも抑えるため、治療開始までの時間をいかに短縮できるかが重要となります。そうした問題に対してもクラウド型遠隔医療を活用すれば、当院のような各分野の医師がそろう中核的な病院と地方の病院がスムーズに連携できるようになり、より質の高い救急医療を提供できるようになるのです。

ICTによる遠隔医療の連携施設数は徐々に拡大しており、今後も各地の医療機関と提携していく方針です。道内では、いくつかの看護学校において定員の半分を割り込むほど看護師が急激に減っており、安定的に急性期医療を提供するためにも地域の医療ネットワークが重要な鍵となります。一方で、道内の課題である医師の不足や偏在も見逃せません。そこで当院は新たな取り組みとして、医師が自分の専門分野以外の診断も行えるような“マルチタスク型医療人”の育成に着手しました。うまく軌道に乗れば、幅広いスキルをもつ医師を地方に派遣し、さらに地域医療に貢献できるようになると思います。

2024年6月に当院は“大学病院改革プラン”を策定・公表しました。大学病院改革プランとは、専門的な医療の提供および研究と教育を担う各大学病院が自院の置かれた現状を客観的に分析し、自院の機能を再確認したうえで、2024〜2029年度の6年間で遂行するための改革プランです。この背景には、地域医療において大学病院の果たす役割が拡大し、診療の比重が重くなっている現状があり、さらに働き方改革も進むなかで、文部科学省管轄で“今後の医学教育のあり方”が多方面から議論されていたことがあります。

当院においては“北海道(主に道北、道東)の広範な地域で、高度な医療を提供し地域医療を支える最後の砦としての役割・機能を担う”、および“高齢化と過疎化が進む広大な北海道の医療を支える医療人を育成する教育病院としての役割・機能を安定的に担う”という2点を大枠の機能として掲げました。改革は診療、教育・研究、運営、財務・経営という4つの分野で行います。具体的には、前述したICTによる業務効率化や、看護師特定行為研修のプログラム拡大、有識者の招聘(しょうへい)など学内外の知見を広く取り入れた働き方改革の達成、診療科ごとの病床数の定期的な見直しなど、多岐にわたります。このようにデジタル技術とAI(人工知能)の活用、タスクシフト・タスクシェア、地域内での機能分担などを進めることで、患者さんと職員のどちらにとっても実のある働き方改革が遂行できるでしょう。

私は常々、全職員に対して「当院で働く意義や喜びを感じていてほしい」と願っています。そこでポイントとなるのは、当院が診療と研究の2つの側面をもつ大学病院であるということです。国の働き方改革により勤務時間が短くなるなか、研究のための時間をいかに確保できるかが問われています。また、各分野のスペシャリストや医療機器がそろった環境を活かし、スキルアップや資格取得をスムーズに行えるのも当院の魅力だと思います。

さらに、職員が自主的に成長できるような環境づくりも重要です。現在、当院には特定看護師が9名と、特定看護師を目指す者が4名います(2024年3月時点)。当院が行う2024年度の看護師特定行為研修に関しては、定員5名のところ10数名の応募があり、結果的に枠を6名に増やしました。この研修は、外科術後病棟管理領域、術中麻酔管理領域、区分別選択という3つのコースがあり、特定行為実施に向けた専門的な知識と技術の習得を目指すものです。我々は、特定看護師として働くモチベーションの高い人材は条件面で優遇することとし、職員のキャリアアップを推進する体制を整えています。

当院は、志が高く全力で医療活動に取り組む医療人を育成し、働き方改革においても質の高い医療を提供するための体制の改革に向けてまい進します。そして現在は“大学病院改革プラン”を推進しています。将来の見通しを含めて、その内容を地域の皆さんにご覧いただけるようホームページで公開しました。このような取り組みは道北、道東エリアの人々を支える当院の使命であり、地域の皆さんに質の高い医療を提供するための誓いの表れでもあります。これからも当院は大学病院として先進医療を追求するとともに、道内の医療機関と連携して広く地域医療に尽力し、1人でも多くの患者さんを救えるよう努めて参ります。

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